東京工業大学(東工大)、東京インスツルメンツ、科学技術振興機構(JST)の3者は5月28日、物質・材料研究機構(NIMS)と共同で、「フォトニックバンドダイアグラム顕微鏡」を開発し、さまざまなフォトニック構造のバンドダイアグラムを高速に自動計測することが可能になったと発表した。
同成果は、東工大 科学技術創成研究院の雨宮智宏助教らの共同研究チームによるもの。同顕微鏡は、東工大と東京インスツルメンツの特許をもとに共同開発されたもので、6月上旬より「FA-CEED」の製品名にて東京インスツルメンツより販売される予定だ。
フォトニック構造とは、光の波長以下の微細構造を一定の周期性をもって並べたものの総称で、構造内の光と物質の相互作用を利用することで、さまざまな光の操作が可能となる。「フォトニック結晶」、「トポロジカルフォトニック結晶」、「メタマテリアル」などが知られており、ナノオーダーのプロセス技術を活用して半導体を加工することで、さまざまな構造が作られてきた。
こうしたフォトニック構造において、光学特性を決定する際に重要となる指標のひとつが結晶中を伝搬する電磁波の分散関係に見られるバンド構造である「フォトニックバンドダイアグラム」で、これを評価することで、フォトニック構造内で光が伝搬する様子を知ることが可能となり、回折限界を超えた光の閉じ込め、スローライト効果、偏光に依存した一方向性伝搬、負の屈折率など、通常の構造では見られないさまざまな光学現象を予想することができるとされている。
従来、フォトニックバンドダイアグラムを測定するためには、特定方向から光を入射し、それらの透過反射特性を観測することで評価を行うことが一般的だった。ただしこの方法の場合、それぞれのサンプル状態に適した形で光学系を組む必要があるとともに、光学系の調整を含めた測定・評価に多大な時間を要することが、関連分野の研究上の課題となっていた。
そこで研究チームは、フォトニックバンドダイアグラムをより簡素かつ直接的に測定するための装置の開発を試み、フォトニックバンドダイアグラム顕微鏡を完成させたという。
仕組みとしては、まず広帯域白色光源から各種波長板や可変リターダを介した後、対物レンズによりサンプルと垂直に光を入射。その後、サンプルから散乱してきた光のフーリエ画像を4f光学系を介して可視カメラおよび赤外カメラで観測するというものだ。
フォトニックバンドダイアグラム顕微鏡の可視カメラの前には、撮像レンズが配置されており、サンプルの実像を観測しながら、測定したいフォトニック構造の局所領域を指定することが可能なほか、赤外カメラの前には波長可変フィルタが配置されており、波長850~1800nmの範囲における任意波長の回折パターンを得られるように設計されているという。
実際に今回開発された顕微鏡を用いることで、さまざまなフォトニック構造のバンドダイアグラムを画一的に取得することに成功したとしている。
なお、研究チームによると、今回開発された顕微鏡の特徴として、「高速測定」、「指定した方位におけるバンドダイアグラムの取得」、「特定のバンドダイアグラムを励振」の3点が挙げられており、同顕微鏡を活用することで、例えば基礎研究面では、さまざまなフォトニック構造の特徴を明確化することができ、物性探求における多くの指標が得られると考えられるとしている。また実用面としては、各種フォトニック構造のバンドダイアグラムをあらかじめ測定しておくことで、それらを用いた光デバイスの設計が容易になり、関連市場の拡大や、それらデバイスを用いた新たな研究領域の開拓などが期待されるとしている。