JAXAと鹿島建設は5月18日、2016年から実施している、月面での無人による有人拠点建設を目指した「遠隔操作と自動制御の協調による遠隔施工システムの実現」の共同研究の一環として、2021年3月に遠隔からの建設機械の操作および自動運転による施工実験を実施し、1000km以上離れた場所からの遠隔操作と、自動運転による作業ながら高精度での施工ができることを確認したと発表した。

日本も参加することが決定しているアルテミス計画では、単に月面有人探査を実施するだけでなく、月面に基地が建設される予定となっている。最初に建設される小型の基地はまだしも、将来的に建設される予定の長期滞在型の大型基地については、多数の人員を月まで送り込んで人手での建設を行うのは難しいと考えられており、これはアルテミス計画の先として考えられている火星有人探査に関しても同様で、原則として無人での施工が想定されている。

しかし、地球から約38万kmの距離に位置する月面であっても、地球からの指示は3~8秒ほどの遅延が発生する。火星にいたっては5500万km以上離れているため、光の速度でも3分以上の遅延が発生してしまう計算だ。そのため、操作の効率性や不具合が発生した場合の対処の必要性の観点から、そうした指示の遅延が発生する環境下においても作業が止まらない技術が求められている。

JAXAでは、そうした環境下においても機械の衝突や干渉を事前に予測して回避すると共に、効率的な操作を支援する遠隔操作技術の研究を続けている。一方、鹿島建設は建設機械の自動運転を核とした次世代の建設生産システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」を開発し、2015年から多くのダム建設現場において実際に運用してきた。

こうした背景を受け、JAXAと鹿島建設は、JAXAが科学技術振興機構から委託した「イノベーションハブ構築支援事業」(太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ)において、「遠隔操作と自動制御の協調による遠隔施工システムの実現」を共同で行う契約を2016年に締結。

宇宙での拠点建設に向けた課題解決策として、JAXAが研究する遠隔操作技術に、鹿島建設のA4CSELの開発で得られた自動化成功技術が導入され、遠隔操作と自動制御の協調による遠隔成功システムの実現を目指す共同研究が進められてきた。

今回の実験は、JAXA相模原キャンパスと、そこから約1000km離れた、鹿島建設が施工するJAXA種子島宇宙センター衛星系エリア新設道路等整備工事の現場に設けた実験エリアを公衆電話回線で結び、遠隔操作と自動制御の協調による遠隔施工システムの実現を目指す目的で実施された。この遠隔操作は、人為的に月との間で発生する遅延を再現した上で行われたという。

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    (左)JAXA相模原キャンパス宇宙探査実験棟での遠隔操作の様子。(右)JAXA種子島宇宙センター造成現場 (C)鹿島建設/JAXA (出所:JAXA Webサイト)

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    実験フィールドの模式図。遠隔操作エリアと自動運転エリアで構成される (C)鹿島建設/JAXA (出所:JAXA Webサイト)

まず、地球から月面へ輸送した建設機械を建設予定エリアまで遠隔操作で走行させるという想定のもと、JAXA相模原キャンパス施設内にある宇宙探査実験棟の操作卓から現場の振動ローラーを遠隔で操作。月面のクレーターなどを模擬した仮想障害物を避けて移動する実験が行われた。その結果、JAXAが研究を進めてきた遠隔操作技術の有効性が確認できたという。

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    振動ローラーを遠隔操作。1000km以上の距離があり、なおかつ公衆回線を使用し、月との間で生じる遅延時間も人為的に挟んで遠隔操作は実験は行われた (C)鹿島建設/JAXA (出所:JAXA Webサイト)

次に、拠点建設の現場を想定したエリアでは、鹿島建設のA4CSELにより、自動運転に切り替えられた振動ローラーによって転圧作業が実施された。これにより、通信遅延に対応した操作支援、地形変化に対応した動作判断機能、建設機械の協調作業機能、遠隔操作から自動運転へのスムーズな切り替え操作の確認に成功したとする。

実験の結果、1000km以上離れた場所でも、また公衆回線による通信容量や通信遅延の制約があっても、建設機械の操作性や安定性を損なうことなく、遠隔操作が行えることが確認されたという。また遠隔操作から自動運転への切り替え後は、自動運転によるスムーズな成功を行うことができ、月面での無人による有人拠点建設の実現につながる成果を得られたとしている。

なお、JAXAは今後、今回の研究成果を活かして、将来の有人月面活動における遠隔操作および自動運転技術の実現を目指すという。一方の鹿島建設は、A4CSELを遠隔地から管制する遠隔自動化施工、および災害復旧で適用される無人化施工システムにおいて問題となる、通信遅延による作業効率の低下を防ぐ技術に展開していく予定としている。