東北大学は5月10日、東北大 材料科学高等研究所の西原洋知教授らの研究チームが2016年に開発した、活物質や導電助剤として活用することでリチウムイオン電池や燃料電池などの各種電池の性能向上や、次世代電池の開発を進展させられるとするカーボン新素材「グラフェンメソスポンジ」を2021年度の東北大発ベンチャー企業支援プログラムに採択して同素材の生産量を増強し、2021年5月からMTA契約に基づく一般への有償サンプル提供を開始することを発表した。
カーボン材料は活物質や導電助剤など、電池の必須構成要素として広く活用されている。一般に知られる材料には、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ(CNT)などがあるが、これらの材料において、多孔性(電気を貯める量に関係)と酸化耐久性(化学的な耐久性)はトレードオフの関係にあり、両立させることが困難であり、それが電池の高性能化や次世代電池の実現の障害とされていた。
そうした中、西原教授らが2016年に開発したグラフェンメソスポンジ(GMS)は、緻密に設計されたナノ構造により、従来のカーボン材料を上回る優れた多孔性と酸化耐性の両立を実現した素材とされる。具体的には、3~8ナnmの泡状の細孔構造をしており、細孔壁は欠陥のないグラフェンで構成されているため、多孔性と耐食性を両立していることが特徴だという。
また柔軟であり、可逆的に圧縮・復元することも可能なため、充放電に伴って激しく構造変化をする活物質の動きに追従することができ、機械的な耐久性にも優れているとされる。
GMSの特徴を以下に示す。
- 細孔壁がグラフェンシート1層であるため、面積を重量で割った値である比表面積が2000m2/g程度と、活性炭並みに大きい(面積に対して軽い)
- 直径3~8nmの泡状構造により、細孔面積が3~4cm3/gと大きく(活性炭の2~3倍以上)、そのため活物質を大量に担持可能
- 細孔壁のグラフェンに欠陥がないため、酸化耐性(空気酸化、薬品酸化、電気化学酸化を含む)が高く、活性炭、多孔性カーボンブラック、CNTを上回る
- 高品質なグラフェンから構成されるため、カーボンブラック並みに伝導率が高い
- 引張強度が高く、柔軟なグラフェンで構成されるため、伸縮性に優れる。ナノ細孔で可逆的に圧縮・復元するため、激しく構造変化する活物質にも追従可能
そしてGMSは、各種電池の性能を向上させることから、以下のようなアプリケーションでの活用が期待されるという。
1.スーパーキャパシタ
従来の材料である活性炭に対し、GMSは比表面積は同程度であるが、導電率が高く、耐電圧も高い。典型的な有機電解液を使った対称セルでの比較では、従来材料の活性炭の耐電圧は2.8V、これまで最高の材料であったCNTの耐電圧は4.0Vであるのに対し、GMSは最大で4.4Vを達成。高電圧モジュール作成において、単セル積層数を従来の6~7割程度に削減可能としている
2.リチウムイオン電池
さまざまな活物質との相性に優れ、なおかつ耐酸化性能も優れることから、電池の高容量化、長寿命化、高電圧化が期待できるという。
3.燃料電池
プラチナなどの触媒を大量に担持可能。耐酸化性に優れるため、触媒の長寿命化を可能としている。
4.リチウム硫黄電池
硫黄を大量に担持可能で、硫黄の体積変化にも追従可能。また耐酸化性に優れるため、電池の長寿命化も可能。
5.全固体電池
リチウム硫黄電池と同じで、硫黄を大量に担持可能で、硫黄の体積変化にも追従可能。また耐酸化性に優れるため、電池の長寿命化も可能。さらに高温での耐久性も良好としている。
6.空気電池など
メソ細孔容積が大きく、耐酸化性に優れるため、電池の高容量化や長寿命化が期待できるとしている。
これまでは、西原教授らの研究室でサンプル製造が行われていたが、その生産能力が限られていたため、サンプルの提供は限定的であったという。しかし、2021年度からは製造量を数百g~数kg程度に引き上げることから、数g~数十gの単位で潜在的ユーザーに広く提供できるようになるとしている。
そのため、今後は、それを活用してそれぞれの用途における試行実験などに利用してもらい、そのフィードバックを得ることで、ユーザーのニーズおよび材料の改良・改善などの課題の収集を行う計画だ。GMSはほかのカーボン材料とは性状が異なり、用途に応じた適切な取り扱いが必要となるため、サンプル提供と同時に西原教授による専門的な助言も行われるという。