2020年にGoogleは、「Pixel 4a」「Pixel 5」「Pixel 4a 5G」「Nest Audio」「Chromecast with Google TV」などを発売した。Pixel 5には、SoCにハイエンド機種が採用しているSnapdragon 865ではなくSnapdragon 765Gを採用。中価格帯を狙ったスペックを残念に思う声が上がった。

しかし、Androidスマートフォンの進化を後押しするために、iPhone対抗を意識したスマートフォンをGoogleが提供していたのはもう過去のことである。あらゆるカテゴリーにAndroidスマートフォンが浸透した今、Googleのデバイス事業の戦略はモバイルの普及から、同社が次に目指す「アンビエントコンピューティング」の実現を加速させることに移っている。Pixelスマートフォンの役割も、Googleが提供する新しいサービスや機能を最初に試してもらえるデバイスに変わった。Pixel 5やPixel 4a/ 4a 5Gは、Googleの最新のサービス/機能を利用するのに十分なスペックを、手頃な価格帯で提供する。

  • カメラそのものは突出した存在ではないが、Googleフォトとの組み合わせでGoogleならではのコンピュテーショナルフォトグラフィや撮影体験を実現

  • 曲名など思い出せない曲もふんふんと歌うだけで調べてくれる「鼻歌検索(Hum to Search)」が10月に提供開始、そのベースとなった音楽認識「Now Playing 」もPixelで試されていた

では、2021年も同様にPixelフォンが普及優先になるかというと、SoCが5nm世代のSnapdragon 888なら、アンビエントコンピューティングの観点からも新たな試みが可能になる。実際、ハイエンド・スペックの新モデルが登場するという噂がすでに飛び交っており、その能力を引き出す新しいサービスや機能をGoogleが投入することで、Snapdragon 888を採用する他のAndroidスマートフォンの可能性も広がる

フィットネスバンド/スマートウォッチのFitbitに続いて、7月にはメガネ型端末の加Northを買収した。Appleに比べてGoogleはスマートウォッチ市場で存在感を発揮できていないものの、アンビエントコンピューティングを実現する上でウェアラブルは欠かせない。「Pixel Buds」に続くGoogleのウェアラブルにも期待したいところだ。

  • Northが開発・提供していたスマートグラス「Focals」

ただし、FitbitやNorthのような買収による新市場開拓は今後不透明なものになる。今年の夏に欧州委員会が、GoogleによるFitbit買収に対して競争法違反の疑いで調査を開始。最終的に条件付きで認められたが、危うくご破算になるところだった。欧米で独禁法関連訴訟を抱えるGoogleやFacebookは、進出分野を開拓するスタートアップを早めに買収する従来の戦略を採用しにくくなる。そうした制約がGoogleのデバイス事業の今後にどのように影響するかは気になるところ。

また、独禁法関連訴訟の影響がユーザーの利用するサービスに及ぶのも避けられないだろう。例えば、今はGoogleフォトに制限なくアップロードできる写真/動画の「高画質」保存(写真は16MPに、動画は1080pに縮小)が、2020年6月からユーザーのストレージ容量を消費するようになる。11月に突然発表されたストレージ規約の変更は、プライバシー保護に配慮した広告配信に移行する影響が理由の1つと見られている。事業分割を要求されるような局面を避けるためにGoogleが自発的にビジネス慣行を改めるとしたら、これまでのように「これが無料!」と驚くようなサービスで人々を引き付けることは難しくなる。