2021年はGoogleにとって試練の年になりそうだ。その根拠になるのが、以下の2020年に起こった3つの出来事だ。
- 1〜6月に広告不調、後半に回復:コロナ感染拡大の影響で3月に検索型広告が前年同期比9%増の245億ドルにとどまり、同社の売上の大部分を占める広告事業の伸びが鈍化。4~6月期決算は上場以来初の減収になった。しかし、下半期に広範囲で広告事業が改善。V時回復を見せた。
- Interbrandの「Best Global Brands」で4位に後退。同ランキングでは、2013年から2019年まで「1位Apple、2位Google 」という状態が7年間も続いていた。それが2020年は1位 Apple、2位 Amazonだった。
- 米司法省が反トラスト法違反でGoogleを提訴。ネット検索市場における圧倒的な支配力を利用して自社サービスを優遇し競争を阻害した疑い。IT大手を巡る大型訴訟は、1998年のMicrosoft提訴以来。多くの州・地域でも司法長官による同様の提訴が相次いだ。
ユーザーのデータを利用することで、ユーザーには無料のサービス、広告主には効果的なターゲット広告を提供する。そうした相互利益の考えに、数年前まで多くの人が理解を示し、逆にテクノロジー企業を規制する動きに対して警戒感を抱く人が少なからず存在した。Webやモバイルの成長を加速させることは経済成長につながる。ところが、気づくと「GAFA」と呼ばれるGoogle、Amazon、Facebook、Apple、それらにMicrosoftを加えた5社だけで時価総額が7兆ドルを超えた。米国の産業史において、今日のIT大手ほど短期間に独占的地位へと駆けのぼった例はない。富の集中が市場の競争を阻害するだけではない。FacebookやGoogleが個人の情報を吸い込んで成長してきたことに対する人々の不信感や嫌悪感の高まりが欧米における大型訴訟の背景にはある。Interbrandの「Best Global Brands」では、2019年にユーザーから収集したデータ流出が問題となったFacebookが前年の9位から14位に順位を落とした。2020年のGoogleの4位転落は同社への支持が揺らいでいることを示す。
2020年前半のコロナ禍の影響による広告不調から後半にV時回復したものの、司法省による訴訟で注目されているだけに、人々のターゲット広告に対する負の感情が強まりかねない。しかし、広告事業の回復は人々がGoogleを必要としていることの証でもある。それがGoogleにとって難局打開のカギになる。
Googleブランドには、良くも悪くもシリコンバレーのテクノロジー企業というイメージが根強い。その良い面を残しながら、社会や環境に貢献し、企業活動の利益を人々や社会に還元する企業として認められることが第1歩になる。そのために多くのことを2020年に行ってきた。その一部を紹介すると、製品・サービス全般の利用規約を8年ぶりに大幅改訂すると発表 (2月)、4月には全ての広告主を対象に身元証明を義務付ける制度の導入を発表するなど、公平でオープンなデジタル広告エコシステム、プライバシー保護を強化する取り組みを続けた。6月にはダイバーシティ(多様化)を推進するため、新たな採用目標とセキュリティ方針を発表した。また、コロナ禍対策として、アクティブなGoogle広告アカウントを持つ全ての中小企業に3億4000万ドル分の広告クレジットを提供。WHO (世界保健機関)など、新型コロナ拡大抑制のための情報を提供する世界の100以上の政府機関を対象に2億5,000万ドルの広告助成を拠出した。
広告モデルの変更が広告収益の下落につながるのを食い止めるのも課題の1つだ。検索広告の見出しのフォントサイズを大きくして目立たせるテストを行ったり、リードフォーム表示オプションを動画キャンペーンやファインドキャンペーンに拡大するなど、クリックスルー率の向上と検索有料広告の収益を高める様々な取り組みを通じて、広告主にプラットフォームの価値をアピールする。
一方で、中小ビジネスやローカルを重視した取り組みを強化し始めた。これまで商品リスト広告を出す必要があった買い物検索サービス「Googleショッピング」への登録を、米国で今年春に無料化。同サービスを利用する数百万のユーザーに商品を見つけてもらえるチャンスを全てのビジネスに拡大した。また、店やレストランなど地域の最新情報を伝えるフィード機能、デザイン改善など、人々が外出を控える中でも、地域のビジネスとユーザーを結ぶようにGoogleマップをアップデートし続けた。ネットは顧客とのつながりを求める中小ビジネスの有効なソリューションになり得る。中小ビジネス個々のアカウントは小さいものの、全体では巨大な市場であり、そして弱者の味方であることはGoogleのブランドイメージ戦略にも適う。
コロナ禍の影響で2020年は開発者カンファレンス「Google I/O」の開催を見送ったが、もし行われていたらキーノートで取り上げられていたであろう分野がヘルスケアと教育である。4月に、医療データを保護しながらヘルスケア分野における相互運用性の向上、医療ソリューション開発の高速化を実現する「Cloud Healthcare API」の一般提供 (GA)を開始した。カルテやCTスキャン画像など大量のデータを抱え、それらを活用することで改善できるヘルスケア・医療は、クラウドサービスによるソリューションが強く求められている領域である。教育もクラウド活用が急拡大している分野であり、Googleの場合、小中学校を中心にWorkspace (旧G Suite)とChromebookが浸透しており、同社のサービスで学んだ世代の拡大が強固なユーザー層になりつつある。
7月にインドのデジタル化支援に今後5~7年で約100億ドルを投じると表明したが、新たな成長市場と見込まれる同国への浸透は今後の長期的な成長を見通す上で大きなポイントになる。インターネットの普及率はまだ低いが、2020年代に人口で中国を上回る見通しで、インフラが整えばデジタル経済が急拡大していくと見られている。英語が準公用語で英語を使いこなす人が多く、エンジニア比率も高い。ビジネス面だけではなく、新たなデジタルソリューションが育まれる環境としても大きなチャンスが広がっている。