半導体関連市場動向調査会社である台湾TrendForceは10月、台北国際コンベンションセンターで会員企業を招いて2021年の半導体およびアプリケーション市場に関する年次予測イベント「TrendForce Annual Forecast 2021」を開催。同社所属の各アナリストが注目する成長産業界の2021年の動向に関する予測結果を発表した。

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    TrendForce Annual Forecast 2021で講演する同社のアナリスト (提供:TrendForce)

ファブレスIC設計業界:コロナ特需で売上高は前年比5.4%増加

新型コロナウイルスの収束がいまだに見えないため、世界的に外出自粛や外出禁止令が続行している。そのため、コロナ特需も持続しており、ネットワーキングおよびノートPC製品の高い需要が続いている。同時に、5Gスマートフォン(スマホ)の継続的な値下げとインフラストラクチャの整備が進み、世界のスマホ出荷台数は従来の流れに戻ると予想されることから、2021年にはファブレスIC業界の市場規模は前年比5.4%増の967.3億ドルになるとTrendForceは予測している。

一方、過去2年間におよぶ米中貿易戦争のリスクを軽減する対策をすでに多くのチップメーカーが実施しており、新型コロナのパンデミックによる在庫積み増しのための部品需要増加もファウンドリIC設計業界の売上増につながっており、米中貿易戦争の影響も最小限に抑えられる見込みである。

AIに関しては、NVIDIAが2020年5月にAIモデルトレーニング用のGPU「A100」をリリースした。同社は2〜3年ごとに主要アーキテクチャの更新をするとしているが、今後もNVIDIAが中心となることで、HBMテクノロジーがIDM、ファウンドリ、およびOSAT(アウトソーシングされた半導体アセンブリおよびテスト)間の将来の関係を決定するとTrendForceは見ている。

サーバ市場:2021年のアフターパンデミック時代のニューノーマルを歓迎

5Gの商用化は、データセンター業界を活性化し、マイクロデータセンターとエッジコンピューティングの成長の助けるだけでなく、2021年から2025年までデータセンター業界のドライブ役となり、IoTおよびV2Xアプリケーション全体で利用されるようになることが期待される。

また、業界の再編とサーバコンピューティング能力の向上に伴い、サーバアプリケーションの開発は、従来の既存のユースケースとは異なる方向に向かう傾向にあり、データセンター業界のサーバ需要をさらに押し上げることが期待されている。特に、グローバルなデータセンターの構築がDRAM需要の推進力となっており、サーバDRAMの成長を支える要因となっている。

モバイルネットワーク市場:事業者は2021年にネットワークカバレッジとサービスの拡張に焦点

モバイルネットワークでは、データ転送の需要が増加し、さまざまな新しいアプリケーションやサービスをサポートするため、5Gネットワークの普及拡大が求められるようになる。そのため、モバイルネットワーク事業者はサードパーティの機器サプライヤとのパートナーシップの機会を模索、5Gネットワークをオープンで相互運用可能なスタンダードとして推進し、モバイルネットワーク機器のコストを最小限に抑え、5G RANインフラが「仮想化、柔軟性、オープンスタンダード、および総電力化」のトレンドに向けて発展するように努めているという。

5Gネットワークのスペクトル効率を高めるために、3GPPはいくつかのソリューションを提案したが、その中でもっとも顕著なのはDSS(動的スペクトル共有)だという。DSSは実装コストが低いことが特徴で、その実装を通じて、モバイルネットワーク事業者は、2021年以降、同じスペクトル内に4Gおよび5Gネットワークを展開し、ユーザーの要求に応じて2つのネットワーク間でスペクトルリソースを割り当てることができるようになるため、モバイルネットワーク事業者の5G戦略の鍵になりつつあるという。

ドライバー監視システム市場:今後年平均92%で爆発的な成長

近年、自動車での採用率が上昇しているADAS(先進運転支援システム)への過度の依存により、ドライバーが道路状況を無視する形で交通事故が生じるようになったことから、自動車業界はドライバーの監視機能に注目するようになっている。ドライバー監視機能の方向性としては、よりアクティブで信頼性が高く、正確なカメラシステムの開発が求められることとなる。これらのシステムは、虹彩追跡や行動監視を通じてドライバーの眠気と注意散漫を検出することで、ドライバーが疲れているか、気が散っているか、または不適切に運転しているかをリアルタイムで識別できるようにするもので、自動運転システムの実現においては絶対に必要なものとなる。ドライバーの状況判断、および必要に応じて運転制御の引き継ぎなど、そうした機能を搭載自動車は数年のうちにでも量産に入ると予想されている。法改正と市場の需要に牽引されて、車両に搭載されたドライバー監視システムの数は2020年から2025年の間に年平均92%で急成長するとTrendForceは予測している

ARメガネ市場:スマートフォンがARメガネのプラットフォームに

2021年、スマホがARメガネのコンピューティングプラットフォームとして機能するようになる。

これにより、ARメガネのコストと重量が削減されるようになる。特に、2021年に5Gネットワーク環境が成熟するにつれ、5GスマホとARメガネが統合され、ARアプリをよりスムーズに実行できるようになるだけでなく、追加されたコンピューティング機能を活用して高度なパーソナルオーディオビジュアルエンターテインメントなど実現できるようになる。その結果、2021年にはスマホサプライヤやモバイルネットワーク事業者がARメガネ市場に大規模に参入することが見込まれる。2021年には、多くの企業をこの分野に参入することが予測されるため、ARメガネ市場はかなりの成長を示し、2024年にはその年間出荷台数は1000万台を超えるとTrendForceは予測している。

ディスプレイ業界:大型パネルの需給は均衡へ、スマホへの有機ELパネルの普及率は上昇

韓国を拠点とするSamsung Displayは、中国のパネルメーカーとの競争力に乏しく、生産能力で圧倒的な差をつけられたために、大型液晶市場から撤退しつつある。同社の離脱後、中国のパネルメーカーは全世界のパネル生産能力のほぼ60%を占め、業界を寡占することとなる。一方、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛や外出禁止は、テレビとノートPC向けの需要の増加につながり、その結果、2020年第3四半期のテレビパネルの需要は前四半期比で30%増と伸びた。

しかし、中国メーカーはパネル生産能力を増加させており、大型パネルの過剰比率は2020年の0.8%から2021年には2.8%に上昇すると予測されていることから、パネル価格が上昇し続けるかどうかは不明である 。

一方、スマホへの有機ELディスプレイの搭載率は2020年の33%から2021年には38%に上昇すると見込まれている。

米中貿易戦争の継続的な激化、Huaweiへの制裁によるスマホパネルサプライチェーンの再編、さまざまなパネルタイプの需要の不均衡、およびTDDI(タッチパネルコントローラICとディスプレイドライバICを1チップ化したTouch and Display Driver Integration)チップの不足などの観点から、パネルメーカーは、市場シェアを拡大または維持する上でますます大きな課題に直面する見込みだという。