ワコムは8月25日、クリエイティブコラボウェビナーをYouTubeにて開催した。ウェビナーにはゲストとしてジェノスタジオから瀬川昭人氏、EOTA・撮影ユニットから福田光氏が登壇。ワコムのエヴァンジェリストを務める轟木保弘氏とともに、アニメ制作現場の“今”と、業界が求める人材像についてのトークを行った。

なお、本ウェビナーはクリエイターを目指す学生を支援する「ワコム クリエイターズ カレッジクラブ(WCCC)」の活動の一環。新型コロナウイルスの影響で対外的なイベントや学校でのセミナー中止が相次ぐなか、オンラインで開催されたものである。

  • ジェノスタジオ 瀬川昭人氏、EOTA 撮影ユニット 福田光氏

    ジェノスタジオ 瀬川昭人氏(左)、EOTA 撮影ユニット 福田光氏(右)。瀬川氏は前職でフジテレビ「ノイタミナ」セクションに在籍していた。 (c)野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会

ジェノスタジオ、コロリドなど7つの制作会社が「EOTA」グループに

瀬川氏が所属するジェノスタジオと、福田氏が所属するEOTAについては説明が必要だ。まず、EOTAとはEngine Of The Animationの略称で、2020年4月に設立されたばかりの新しい会社である。

アニメの企画・開発・宣伝を行っているツインエンジンのグループ会社であり、ツインエンジンが企画したアニメ制作を行う実働部隊として誕生したものだ。

  • 設立後間もないEOTAは、ツインエンジングループのいわば実働部隊

    設立後間もないEOTAは、ツインエンジングループのいわば実働部隊

EOTAには7つの制作プロダクションが所属している。TVアニメ『ゴールデンカムイ』の制作で知られるジェノスタジオやLay-duceはTVシリーズ、前回のウェビナーに登壇した石田祐康監督が在籍するスタジオコロリドは劇場作品をメインに制作。Peakysは3D映像を得意としている。

EOTAの体制について瀬川氏は「最近は劇場作品やショートムービー、CM、YouTubeなど様々な映像作品でアニメが使われるようになり、オーダーが増えてきました。各スタジオで補完しあいながら独自の色を出していきたい」と狙いを語る。

  • EOTAは7つの制作会社がまとまったグループ。各スタジオごとの特色を強みとしており、スタジオごとに得意とする分野が異なる

    EOTAは7つの制作会社がまとまったグループ。各スタジオごとの特色を強みとしており、スタジオごとに得意とする分野が異なる pet: (c)三宅乱丈・KADOKAWA/ツインエンジン、ゴールデンカムイ: (c)野田サトル/集英社・ゴールデンカムイ製作委員会、泣きたい私は猫をかぶる: (c) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会

もう一つの目的は「クリエイターが長く働ける環境を整える」こと。アニメ業界にも働き方改革の波が訪れており、課題だった労働環境を改善しようという声が上がっている。それぞれ得意分野を持つ制作プロダクション同士が連携することでアニメ制作を効率化し、品質と働きやすい職場の両立を目指すというわけだ。

そんな目標を掲げるEOTAグループだが、現状の制作現場はどんな状況なのだろうか。EOTAの福田氏によると、働き方はコロナ禍で大きく変わったのだという。

「コロナ禍まではスタジオで作業していましたが、緊急事態宣言からはテレワークを模索しました。その結果、機材を各スタッフの自宅に運んで仕事をするのが良いだろうということになりました。ですから、スタジオは今からっぽです」(福田氏)

そう語る福田氏の仕事は「撮影」だ。EOTA直下に撮影を手掛けるグループがあり、そこでさまざまな作品に携わっている。

撮影とはアニメーターが描いた作画をもとに、背景を合成したりエフェクトをつけたりして、最終的な仕上がりをつくる仕事である。もとはセル画時代にセルを重ねて効果をつけることを撮影と呼んでいた。その名残で、デジタル化が進んだ今も合成作業を「撮影」と呼ぶのだという。

「キャラクターに水彩処理を入れたり、木々が揺れる処理をつけたり、1枚の雲を加工してハイスピードカメラっぽくしたりと本当に様々です」(福田氏)

EOTA撮影ではショートアニメを主軸にしており、これまでにTVアニメやCM、ゲーム内アニメ、広告アニメ、MVといった様々なジャンルで作品を制作してきた。アニメというとTVシリーズやOVA、劇場作品がまっさきに思い浮かぶが、それ以外の媒体と組み合わせたアニメ表現が生まれている時代なのだ。

スタジオごとに異なるデジタル作画の浸透

コロナ禍ということもあり、アニメ制作の現場は変化を迫られている。

「スタジオの人数を制限したり、会議室の入室制限やリモートの活用などを進めています。デジタル作画は自宅でもできなくもないですが、それでもスタジオのきちんとした環境でやりたいという声もありました」(瀬川氏)

「EOTA撮影はショートアニメ主体なので何とか切り抜けていますが、劇場作品や3DCGアニメやTVシリーズなど物量が多くなると、厳しい会社も出てくるかもしれません」(福田氏)

そうした中で、これから必須になると思われるのがデジタルツールの活用である。轟木氏は日本動画協会の資料「アニメーション制作の流れ」を紹介し、そのなかで制作工程の一部に「デジタル化」に関する記載があることを指摘。デジタル作画が注目を集めている状況を説明した。

  • ジェノスタジオの制作風景。同スタジオでは紙での作画の比率が多いという

    ジェノスタジオの制作風景。同スタジオでは紙での作画の比率が多いという

EOTAグループで見ると、スタジオコロリドなど一部の制作プロダクションではデジタル作画を導入しているが、逆にジェノスタジオのようにアナログ作画がメインのスタジオもある。まさに今、過渡期といったところだ。本格的にデジタル作画が浸透するのは、やはり新たな世代が育ってきたときだろう。

アニメ業界への挑戦、大切なのは「やりたいこと」と「センス」

変化の真っ只中にあるアニメ業界だが、今後はどんな人材が求められるのだろうか。

「業界問わずコミュニケーション力は必要です。現場で仲良く話すこともあれば、自分の意見を出したり、課題があれば指摘したりすることも含めてコミュニケーションです」(瀬川氏)

「クリエイティブ面でいうなら、今はもう様々な効果を簡単につけられます。すると、その後に問われるのはセンスなんです。何を作りたいのかを明確にしてセンスを磨いていくことが大事です。たとえば水だったら、雨が降ってきたら水たまりや窓についた水滴を観察しましょう」(福田氏)

  • EOTAの撮影セクションで行っている業務を図示したもの。「撮影」の仕事に、得意なことを“プラスアルファ”した働き方が求められる

    EOTAの撮影セクションで行っている業務を図示したもの。「撮影」の仕事に、得意なことを“プラスアルファ”した働き方が求められる

  • EOTAの撮影セクションで手掛けた作品

    EOTAの撮影セクションで手掛けた作品

EOTAグループでは現在、人材採用を行っている。新卒・第二新卒の初任給は経歴を問わず22.5万円、中途は22.5~40万円とのことだ。詳細はツインエンジンのWebサイトにて参照のこと。

撮影業務では主にAdobeのAfterEffects、PhotoShopを使用するが、新卒・第二新卒については「ゼロから教えるので、多少なりとも本を読んだりして調べておくくらいで構わない」(福田氏)という。

「アニメ制作で使用するソフトは多数あり、特に作画業務では企業によっても使用ソフトが変わります。新卒・第二新卒の場合はふわっと全体を理解しておくくらいでいいと思います」(福田氏)

ただし、制作する意欲は重要だ。それほど深い知識や技術を入社前に身につける必要はないが、「After Effectsでも別のツールでもいいので、15秒くらいの短い映像を作ってみてください。そうすると見えてくることがたくさんあるはずです。作り上げることで、その経験と知識が他にも生きてきます」(福田氏)

最後に瀬川氏は、「(自身の所属する)ジェノスタジオは今後もTV放送用のフォーマットで作品を制作する予定です。自分が何をやりたいのか、どうなりたいのか明確なビジョンがある方は力強い戦力です」とコメント。

福田氏は「アニメ業界ではたくさんの作品が作られていて、人が足りていない状況です。やりたいという気持ちを持って来てくれたら願いは叶うと思います」とコメントしてウェビナーを締めくくった。

アニメ業界は変化の時代を迎えている。コロナの影響もあって働き方は大きく変わり、デジタル作画も浸透し始めた。EOTAグループはそんな新しい時代を象徴する制作会社といえそうだ。