7月27日、ワコムはスタジオコロリドと共催でクリエイティブコラボウェビナーを開催した。ウェビナーにはスタジオコロリドから石田祐康監督がゲストとして登場。ワコムのエヴァンジェリストを務める轟木保弘氏とともに、デジタルアニメ制作の可能性についてトークを行った。
新型コロナウイルスの影響で、対外的なイベントや学校でのセミナーの中止が相次ぐなか、ワコムではクリエイターを目指す学生を支援する「ワコム クリエイターズ カレッジクラブ(WCCC)」の活動として、最新のトレンドや技術を紹介するウェビナーを学生・教育機関向けに実施しており、本ウェビナーもその一環として行われた。
スタジオコロリドの石田監督は1988年生まれ。高校時代からアニメ制作を開始し、2年生の時に処女作『愛のあいさつ-Greeting of love』を発表。その後、京都精華大学マンガ学部アニメーション学科に進学し、09年に発表した自主制作作品『フミコの告白』はその完成度の高さからネットでも大いに話題を呼び、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞、10年オタワ国際アニメーションフェスティバル特別賞、第9回東京アニメアワード学生部門優秀賞など数々の賞を受賞した。
卒業後、スタジオコロリドに所属した石田監督は2013年、劇場デビュー作品となる『陽なたのアオシグレ』を発表。2018年には『ペンギン・ハイウェイ』で劇場長編作品監督デビューを飾るなど、まさに今もっとも注目を集めるクリエイターである。
アニメ業界で存在感増すデジタルツール
スタジオコロリド、そして石田監督といえばデジタル作画でアニメを制作することで知られている。学生当時から石田監督が使用しているのが液晶ペンタブレットだ。「『フミコの告白』を制作する少し前に購入したもので、板のペンタブよりも良さそうだと思いました」と石田監督は当時を振り返る。
一方で撮影工程については液晶ペンタブレットよりも、いわゆる“板”のペンタブレットの方が効率が良いという。背景作業についても同様に、全体を見ながら画を俯瞰して描いていくのにはペンタブレットの方が向いているというクリエイターもおり、どちらが優れているというわけではなく、使い分けが重要になるようだ。
スタジオコロリドにとって転機の一つとなったのが石田監督が制作した『陽なたのアオシグレ』。当時、スタッフの多くは石田監督と同世代の20代だったが、最初はまだ紙で描いて進めていたという。しかし、途中からデジタル作画のメリットに気づき、後半はデジタルで制作を進めていった。
「業界はまだまだ紙が多いのですが、そういう方にもデジタル作画を提案すると興味を持っていただけることが多いんです。実践の中で身につけて、デジタルとアナログは融合していくのだと思います」(石田監督)
アニメ制作におけるデジタル作画の存在感は年々増している。日本動画協会資料の「アニメーション制作の流れ」でも、近年になって「原画・動画・美術・背景」の説明に「タブレット等でも作画する」という一文が加えられた。石田監督が述べたように今後はさらにデジタルを取り入れるスタジオやクリエイターが増えていくことだろう。
打ち合わせもオンライン コロナ禍で在宅メインの働き方に
では、スタジオコロリドではどのようにデジタル作画に取り組んでいるのだろうか。
まず、メインツールとしてはTV Paintが挙げられる。絵コンテから撮影までの工程のすべてに対応できるフランス製のツールで、『ペンギン・ハイウェイ』でも途中から使用されている。他にも使用しているセルシスのStylosやCLIP STUDIO PAINTなどのツールも有力な選択肢だろう。絵コンテの制作にはToonBoom Storyboard Proなども実験的に導入しているという。
また、企画や脚本、世界観設定といった作業も、どんどんオンライン化を進めている。たとえば脚本はこれまでWordで書いて印刷して共有していたが、現在はPDFをチャットで共有し、アイデアやコメントなどをデジタルで書き込んでいくという形を試しているという。試行錯誤を繰り返しながらベストな形を模索しているということだ。
スタジオコロリドでは、管理面でもデジタルツールを導入している。
「スタジオの予定はGoogleカレンダーを使って見える化しています。また今は在宅がメインなので、Chatworkで連絡をとったり、オンライン会議ツールで画面共有しながら作業したりもしています」(石田監督)
新型コロナウイルスによる現状は早く改善されるべきだが、一方で石田監督は「会社としてデジタル作画のみならず、デジタル環境自体をつくっていくことに取り組んでいく機会でもある。この情勢のなかでもできることはあるはず」と前向きに語った。
デジタル作画はメリット多数、しかし「落とし穴」も
デジタル制作の強みとは何だろうか。たとえば、3Dの背景で動き回るようなカットはデジタルが実現する表現の真骨頂だ。アナログ作画では背景のCGをプリントし、そこにキャラクターをのせて動きをつくっていたというが、それでは紙の分量が増えてやりにくいと石田監督は言う。
デジタルではあらかじめ背景をムービーデータとして設定しておき、その上にキャラクターの動きをタイムラインとして乗せられるため、紙と比べてはるかに効率化できるのだ。『陽なたのアオシグレ』はそういったカットを多く入れたかったため、デジタルが向いていたのだという。
また、作画でもデジタルのメリットは大きい。アナログでは指の間に紙を挟んで、パラパラ漫画の要領で動きを見ながら描いていくが、それで確認できる動きは最大4枚程度。デジタルならその制限がなく、何枚でも動きを見ることができ、なおかつ速度も自由自在だ。さらにアンドゥ機能や拡大縮小、プレビューなどデジタルならではの強みは多々ある。
一方で、それらの機能は逆に落とし穴ともなり得る。たとえば拡大縮小できるようになったことで細部を気にしすぎてしまい、画面で見ると大したことがないところに労力を割いてしまうことがありえるのだという。
「細かいところが見えるようになったことで、むしろ全体のクオリティダウンに陥ってしまうこともあります。“道具に使われないよう”気をつけて下さい」(石田監督)
石田監督が考える、これからのアニメ制作
デジタル作画の最前線を走る石田監督だが、今後のアニメ制作についてどう考えているのだろうか。
石田監督は「まだ想像しきれていないところがある」と慎重に前置きしつつ、「学生の頃からデジタルを使ってきた人たちが、これからアニメ制作の現場にどんどん入ってきます。良い、悪いは別に、世代的にはもうそうなるんでしょう。デジタルで描くことが当たり前で、それしか選択肢がないくらいの世代が主になっていくんでしょうね」と将来を予測。
さらに、これまでのアニメ業界について「紙でのアニメ制作の工程は盤石なシステムであり、効率化・洗練された世界でした」と述べ、「それ故にデジタル導入初期は紙の制作工程と一緒になったことで混乱もありました」とコメント。「紙のシステムから学ぶべきところは学び、デジタルの良さも生かしてシステムを構築していかないといけません」と見解を示した。
また、「デジタルは便利ではあるけれど、あくまでも道具。こういう画面を実現したいという思いを効率化、手助けしてくれるものにすぎない」と述べた上で、「デジタルにいくら強くても、画力がなければ意味がない。その画力の発起点となる想像力とか、その画を実現したいと思う原動力がなくては始まりません」と強調した。
現在、長編アニメの制作の真っ只中だという石田監督。スタジオコロリドではデジタル作画で一緒に仕事ができる仲間を募集しているとのことで、「人が集まらないと作品は作れないし、デジタルであっても、結局人がいて、盛り上がらないと作品は出てこない。みんなで集まって、どんどん盛り上げていきましょう!」と呼びかけ、ウェビナーを締めくくった。