キッチンカウンターやデスクの足元などに置き、体に冷風を当てて涼しさをもたらす“卓上エアコン”というコンセプトのポータブルエアコン「Carrime」(キャリミー)が、空調機器で知られるダイキン工業から登場。ユーザー参加型の製品開発プロジェクトで生まれ、クラウドファンディングではわずか10日間で目標を達成するなど、華々しいスタートを切ったことで話題になりました。筆者も一目惚れしてクラウドファンディングに応募し、無事に1台ゲットしたのですが、見た目のかわいらしさに反して扱いが難しい“じゃじゃ馬”だと感じました。

  • 工事不要で使えるダイキン工業のポータブルエアコン「Carrime」

    工事不要で使えるダイキン工業のポータブルエアコン「Carrime」(キャリミー)。クラウドファンディングで支援者に販売したのち、一般の量販店でもごく少数を販売した。現在は完売状態となっており、次回の販売は未定とのこと

本格的なエアコンの機能をコンパクトボディに凝縮

昨年に続き猛暑が続いている日本列島。洗面所やガレージなど、エアコンのない場所で涼を取りたい…という際に活躍するのが、小型の空調機器です。

このジャンルの家電としては、低価格で入手でき工事不要で使える「冷風扇」がポピュラーな存在として挙げられます。冷風扇は、一見すると小型エアコンのように見えますが、水を含んだフィルターに風を当て、気化熱を利用して涼しくする仕組みなのがエアコンとの違い。長時間使い続けると湿度が上昇し、逆に蒸し暑くなってしまう欠点があります。

  • 手ごろな価格で買えるクール家電として根強い人気を持つ冷風扇。エアコンのような外観をしているが、仕組みはエアコンとはまったく異なる

やや高価ながら冷風扇の欠点を解消したのがポータブルエアコンです。持ち運び可能なコンパクトサイズながら、一般的なエアコンと同じ熱交換式の仕組みを採用しており、しっかりと冷やされた風が出てくるのがポイント。同時に湿気も奪ってくれるので、カラリとした涼しさが味わえます。

各社のポータブルエアコンはデザインがいまひとつで本体サイズが大柄な製品が多いなか、さっそうと登場したのがダイキン工業の「Carrime」です。2019年11月、ユーザー参加型の製品開発プロジェクト「DAIKIN LAUNCH X」(ダイキン ローンチ エックス)で発表され、クラウドファンディングで支援者を募ったところ、わずか10日間で目標金額を達成して製品化が決定。クラウドファンディングの支援者には、6月から順次発送が始まりました。

  • シンプルでスリムなデザインを採用したCarrime。本体の側面には縦格子の凹凸が設けられており、おしゃれな印象を高める

  • 背面。上の開口部は吸気口、中央の開口部は排気口だ。電源ケーブルは直付けとなる

Carrimeの最大の特徴がコンパクトなボディです。本体サイズはW190×H400×D190mmで、20cm四方の空きスペースがあれば設置できます。このサイズに、家庭用エアコンの室内機と室外機に相当する機能が凝縮されているのは正直驚かされます。重量は約6kgと軽量。本体上部には持ち運び用の本革製ハンドルが装備され、片手でもひょいとつかんで持ち運べる利便性をもたらすとともに、デザインのアクセントとしています。

  • 上部には本革製のハンドルを装備。本体重量は約6kgと軽く、女性でも片手で手軽に持ち運べる

見た目のスマートさも魅力といえます。縦縞のラインが施されたタワー型の本体は各社のポータブルエアコンとは一線を画すおしゃれなデザインで、部屋に置きたいと感じさせる仕上がりです。運転の際に室内から奪い取る水分(ドレン水)は本体内のタンクにたまる構造で、排水用のホースなどを接続する必要がなく、電源ケーブルを接続して電源を入れるだけで即使える点もスマートだと感じさせます。

  • ドレン水は本体内のタンクにたまる。タンクの容量は少ないので、連続して運転した場合はまめに捨てに行く必要がある

冷風は前面上部から出てくる構造です。ボタンは電源ボタンと風量ボタンの2つだけで、温度調整機能はありません。電源を入れてから涼しい風が出てくるまでは5分ほどかかり、家庭用エアコンやカーエアコンよりは待たされます。しかし、安定してくるとしっかり冷やされた風が出てきて、風呂上がりでほてった体には快適だと感じました。

  • 前面の上部から冷やされた風が出てくる。吹き出しの角度を上下方向に調整するレバーが備わっている

  • 吸気口は前面と背面の2カ所に用意。どちらにも、ホコリをキャッチするフィルターが付いているのは親切だ

騒音とダクトホース選びに悩まされる

デザインがスマートでシンプルに使えるCarrimeですが、意外にも使用感はスマートではありませんでした。

まず悩ましいと感じたのが運転時の騒音。電源を入れた直後から豪快な駆動音と風切り音が響き渡り、かなり気になります。騒音を計測できるApple Watchの「ノイズ」機能で測ったところ、室内の騒音が37~38dBの環境下で、Carrimeから1mほど離れた場所で60dBを超えました(風量最大時)。家庭用エアコンの静かさを期待してはいけません。

シンプルさを追求したことで、調整できるのは4段階の風量調整だけしかなく、一般的なエアコンでは普通に搭載されている温度調節やタイマーなどの機能がばっさりと落とされてしまった点も残念に感じます。ワイヤレスで接続したスマホから制御する、といったイマドキの機能もありません。

  • 上部にあるのは、左の風量調整ボタンと右の電源ボタンの2つのみ。風量は、中央のLEDの明るさで表示される仕組み

一番困ったのが、冷却効率を高めるための排気ダクトなどが付属しておらず、適合するものを購入するのにかなり骨が折れたことです。

一般的なエアコンと同じ熱交換式のCarrimeは、運転時に前方から涼しい風が出てくる代わりに、後方の排気口からは奪った熱を含む温風が排出されます。そのため、部屋の真ん中にCarrimeを置いて使うと、後方からの排気の影響で部屋全体は涼しくならず、排気をドアの外など離れた場所に追いやるのが涼しさを保つポイントとなります。その際、排気を導くダクトホースやダクトカフス(ダクトホース本体とCarrimeの間に接続する中継用パーツ)が必要となるのですが、Carrimeには付属してこないばかりか、純正オプションとしても用意されていません。

  • 後方の排気口から温風が出てくるので、ドアを少し開けて排気を室外に出すように設置する必要がある

  • 排気を導くダクトホースを別途用意すれば、より効率的に排気を室外に追いやれる

  • 付属の白いパーツを排気口にはめ込むと、直径75mmのダクトホースが接続できるようになる。本来は、両者の中間に「ダクトカフス」というパーツを装着する必要があるが、テープなどで固定すればなくても構わない

当初は、Amazonやヨドバシ・ドット・コムなどの通販サイトを探せば簡単に手に入るだろう…と考えていたのですが、ダクトホースなどは基本的に業者向けのパーツのため、数m単位での販売しかしていないところがほとんど。径や素材、耐熱性、長さなど適合するものを探しまくり、これなら大丈夫だろう…と思って購入したダクトホースも、予想以上に固くて取り回しが悪く、結局Carrimeを使うのが面倒に感じることになってしまいました。

  • 今回、インターネット通販で購入した1.5mのダクトホース。ダクトホースをカットして個人に販売してくれるお店はとても少ない

アイリスオーヤマのポータブルエアコンは、ダクトホースや窓の外に排気を出すためのパーツがちゃんと付属してきます。Carrimeも、ダクトホースやダクトカフスなどのパーツをせめて純正オプションで用意してほしかったところです。

  • アイリスオーヤマのポータブルクーラー「IPC-221N」は、排気ダクトや窓枠取り付け用のパーツが標準で付属する

デザイン面でひと目惚れしたCarrimeですが、どことなくデザイン優先で使い勝手を練り込まないまま登場したという印象を受けました。製品のコンセプトは悪くないと感じますので、より実用性を高めた次期モデルに期待したいところです。