アップルの完全ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」で立体的なサラウンド音声が楽しめる新機能「空間オーディオ」が、今秋に予定する無料のソフトウエア更新により追加されることがWWDC 20の基調講演で発表されました。強力なアップデート機能の内容を紹介しましょう。

  • AirPods Proのファームウエア更新により追加される新機能「空間オーディオ」などが、WWDCの基調講演で発表されました

3Dサラウンド再生が楽しめる「空間オーディオ」

AirPods Proは、独自のアクティブ・ノイズキャンセリング機能により、周辺の環境ノイズをシャットアウトしながら没入感の高いリスニングを楽しめる完全ワイヤレスイヤホンです。ステレオ再生はもちろん、片側の耳に装着してモノラルのヘッドセットとしても利用できます。

  • 2019年10月の発売以来、高い人気を獲得しているアップルのワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」。実売価格は税込み30,000円前後

秋に予定するソフトウエアアップデートを実施すると、iOS 14をインストールしたiPhoneやiPod touch、iPadOS 14をインストールしたiPadとの組み合わせで、映画やドラマなどさまざまなコンテンツで立体的なサラウンド音声が聴けるようになります。

空間オーディオは、2019年秋に登場したiPhone 11シリーズの内蔵スピーカーで迫力あるサウンドが楽しめる機能としてデビューしました。イヤホンでの再生には非対応だった空間オーディオが、少しアレンジを加えてAirPods Proで楽しめるようになるイメージです。

  • 立体的なサラウンド音声がAirPods Proで手軽に楽しめるようになります

5.1chや7.1ch、およびドルビーアトモスの音声フォーマットで製作されたコンテンツが、空間オーディオのテクノロジーを介して、より立体的なサラウンド音声とともにAirPods Proで聴けるようになります。ステレオ音声で製作されているコンテンツも、今後アップルが提供するAPIにより、空間オーディオ対応のサラウンドコンテンツに変換することが可能になります。

頭や身体の向きを変えても音が正しい方向から再生される

空間オーディオとともに、AirPods Proには「ダイナミック・ヘッドトラッキング」という技術が追加されます。サラウンド空間に広がる音を正しい方向に定位させて聴くための技術です。

通常、映画館や家庭で映画を楽しむ場合、スピーカーが置いてある場所から音が聞こえてくるもの。空間オーディオでこのようなリスニング感を再現するために、AirPods ProとiPhoneなど送り出し側機器に搭載されている加速度センサーとジャイロスコープでユーザーの頭や身体の向きをリアルタイムに測定しながら、まるでコンテンツの中に入って音を聴いているようなリアルなサラウンド体験を実現するために作られた新技術がダイナミック・ヘッドトラッキングです。

この技術が備わることによって、iPadで映画を見ている時に、正面から聞こえていた役者の声に注意しながら顔を横に向けると、その声が正面方向に定位を保ったまま聞こえてくるようになります。

  • ダイナミック・ヘッドトラッキングの技術により、頭の向きを変えても音があるべき位置に固定されて聞こえてくるので、リアルなサラウンド感が味わえます

また、例えばバスに乗りながらiPadで映画を鑑賞している時、バスが進行方向を転換してもコンテンツの音が聞こえてくる位置が固定されていると、役者のセリフが左右に振られてしまい聴きづらく感じるもの。身体の向きを変えたときには音場全体の方向転換を合わせて行えるように、AirPods Proと送り出し側機器のセンサー群が賢く連携します。

  • 身体の向きが変わると、サラウンド音場自体の向きも合わせて最適化されます

ダイナミック・ヘッドトラッキングの技術を外部のコンテンツやアプリのデベロッパーが利用できるように、アップルはAirPods ProのCore MotionフレームワークのAPIも提供を開始します。今後、ユーザーの頭の位置や身体の向きを測定しながら、腕立て伏せの回数を正確にカウントしてくれるフィットネスアプリや、リアルな効果音が縦横無尽に飛び交う世界に深くのめり込めるゲームアプリが次々に誕生するかもしれません。

iPhoneからiPad、Macへ…AirPodsの接続切り換えが超スムーズに

ユーザーのiCloudアカウントに登録されているAppleデバイス同士で、AirPodsの接続の切り替えがさらに素速くなる「自動スイッチング」の機能も、アップデートによる追加を控えています。

本機能は、Apple H1チップを搭載する第2世代のAirPods、AirPods Pro、ならびにBeats by Dr.Dreのイヤホンとヘッドホンが対象になります。送り出し側の機器はiPhone/iPad/iPod touch、ならびにMacとApple Watchです。

  • 自動スイッチングの機能により、異なるApple製デバイスの間で対応するイヤホン・ヘッドホンのペアリングがスムーズに行えるようになります

AirPodsシリーズは、特にiPhoneとiPad、iPod touchにはとても簡単にペアリングできるのが特徴です。現在、AirPodsに対して接続する機器を選び直す際には、いったんBluetooth設定に入ってリストに並ぶAirPodsをタップする必要があります。

自動スイッチング機能が加わると、ペアリング機器の入れ替えがもっと速くスムーズにできるようになりそうです。例えば、iPhoneで音楽を聞き終わったあと、iPadで映画の再生を始めるだけで耳に装着しているAirPodsから映画の音声が聞こえてきます。映画の鑑賞途中、iPhoneにかかってきた電話をiPhoneで応答すれば、そのままハンズフリー通話が始められます。

自動スイッチング機能が追加されたあとも、ユーザーが接続先のデバイスをプルダウンメニューから選択したり、自動スイッチング機能を使わない選択もできるようになるそうです。それぞれの機器をBluetoothによって接続するところなどは従来から変わらないものと思いますが、ほかの製品どうしの組み合わせでは実現できないスピーディーな接続切り替えがどれほどのものなのか、使い勝手も含めて検証できる機会が楽しみです。

AirPodsの音の聞こえ方がパーソナライズできる

ほかにも、「アクセシビリティ」のなかには、AirPods Proを含むApple H1チップ搭載イヤホン&ヘッドホン、ならびに有線イヤホンのEarPods with Lightning ConnectorをiPhoneにペアリング・装着した時に、音の聞こえ方を最適化する「ヘッドフォン・アコモデーション」機能が追加されます。

  • テストパターンを聴きながらユーザーの聞こえ方に合わせてサウンドを最適化できる「ヘッドフォン・アコモデーション」

こちらは、イヤホン・ヘッドホンを装着した状態で、テストパターンを鳴らしてユーザーの耳の「聞こえ方」を計測し、ソフトウエア処理により聞こえにくい音域を補いながらサウンドを聞こえやすくしてくれる機能です。

AirPods Proを接続している場合は、ヘッドフォン・アコモデーションから「外部音取り込み」の取り込みレベルを段階的に調節できる機能も加わるようです。現在はオン・オフから選択する仕様の外部音取り込みが、今後ますます便利になります。

  • AirPodsのバッテリー残量をポップアップで知らせてくれる機能も追加されます

  • 1台のソース機器に2台のワイヤレスイヤホンやヘッドホンをペアリングしてペアリスニングが楽しめるオーディオ共有の機能が、Apple TVでも利用できるようになります

新機能に対応する「アップルのヘッドホン」や「新AirPods」の発表も?

新機能の空間オーディオとダイナミック・ヘッドトラッキングは、WWDC 20の開催時点では「AirPods Pro専用」の新機能として発表されました。左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンでサラウンド音声が楽しめる機能は確かに便利で、とても革新的だと思いますが、より一層の没入感はヘッドホン再生でこそ味わえるものです。

特に、映画やドラマは役者のダイアローグもさることながら、迫力の重低音再生が加わることによって音場の安定感と立体感がさらに引き立ってきます。よりパワフルな低音再生が楽しめる、アクティブ・ノイズキャンセリング機能を載せたヘッドホンでこそ「空間オーディオ」の魅力が際立ってくることはアップルも承知のはず。そう考えると、「アクティブ・ノイズキャンセリング機能を搭載するアップル初のヘッドホン」が、空間オーディオの機能がAirPods Proに向けてリリースされるタイミングまでに発表される可能性は十分にあると筆者は考えています。

  • 写真はBeatsのSolo Pro。本機に対抗する「Appleのヘッドホン」も誕生するのでしょうか

これでもまだ、ふたつの新機能が使える製品の数が少なくて寂しい感じがします。筆者は、以前からウワサになっている「第3世代のAirPods」も、空間オーディオとダイナミック・ヘッドトラッキングに対応してくるのではないかと読んでいます。新しいiPhoneの登場に沸く今秋は、アップルのオーディオ新製品の発表・発売ラッシュもあるのではないでしょうか。