アットホームでは、賃貸物件の契約の流れを効率化するために不動産会社に向けスマートシリーズとして4サービスを提供している。そこで、同社のスマートシリーズの特徴と不動産業界のIT化について、アットホーム 基幹サービス開発部 部長 原雅史氏に聞いた。なお、取材はWeb会議によって行った。
2020年3月に実施した同社の調査によれば、新型コロナウイルス発生以降、不動産業界では、不急の転居が控えられたり、転勤がキャンセルされたりした影響で住み替えが減り、現状の住居をそのまま更新する傾向が強まっており、入居率は高いという。
また、新築やリフォーム用の部材の遅れによる入居遅れが発生し、賃貸では、内見なしで契約する顧客が増え、不動産業界でそれに向けた情報の充実をはかろうとする動きがみられるという。
アットホームでは、2015年の「スマート重説」の提供を皮切りに、現在まで4 つのスマートシリーズを提供している。
具体的には、不動産事業者が賃貸物件で、物件の空き状態や家賃などの問い合わせに対して自動応答する「スマート物確」、Web上で物件の申し込みが行える「スマート申込」、契約の際の重要事項説明をWeb上で行う「スマート重説」、Webで電子サインにより契約できる「スマート契約」の4つだ。
「スマート物確」では、仲介不動産会社による物件確認の電話の物件名をAIで分析し、その物件の情報を自動で応答する。これまでは人が回答していたため、電話対応が必要だったが、それを自動化できる。
「スマート物確」は、仲介不動産会社が、顧客に案内する前に物件がまだ空いているかを確認する際に利用するもの。そのため、最新の状況を知る必要があり、電話で確認するのが慣習になっているという。多いケースでは、問い合わせが1日あたり80件に達するという。
しかし、これらの情報はWeb上で公開すれば誰でも閲覧でき、わざわざ電話の音声をAIで分析する必要はない気がするのだが、この件について原氏は、「Webを見れば済む話というのはその通りで、いまの時代であれば、Webで解決できます。ただ、Webの情報の鮮度(いつ更新されたものなのか)がわからないため、最新の状態の確認に万全を期すにはまだまだ電話を利用するケースが多いです。ただ、今後、情報更新の頻度が上がっていくことで、Webで解決できるようになると思います」と語る。
「スマート申込」では、同社が不動産事業者に提供する「ATBB(不動産業務総合支援サイト)」の画面上の「スマート申込」ボタンを仲介不動産会社がクリックすることで移動でき、ここで契約を希望する顧客のメールアドレス等を入力し、メールを送信。そして顧客は、メールに記載されたURLをクリックすることで住所、勤務先、年収等の個人情報を入力し、申込を行う仕組みだ。顧客は、「スマート申込」の画面上で免許証や保険証、パスポートなどの身分証明書のコピーデータもアップロードできる。
「通常あれば、こういったものは不動産会社さんで紙に記入しますが、Webですので、顧客は自宅で好きな時間に入力することができます」
顧客の情報を入力後、申し込みボタンをクリックすると、その情報が不動産会社に届き、「ATBB」上で内容を確認できる。問題がなければ、契約可否の審査に入る。
この顧客情報は、保証会社にも連携され、審査の参考にされるという。
そして、審査が完了すると「スマート重説」を利用して重要事項説明を行い、入居にかかる手続きが完結する。入居後、入居者から更新や解約が申し込まれた際は、「スマート契約」を利用して手続きを行える。同システムでは、電子サインを押印の代わりに使用。アドビシステムズ社と提携し、サービスを提供している。
「スマート契約」は、契約書を「スマート契約」上に取り込み、登録したメールアドレスの順番にワークフロー形式で関係者に回覧し、PDF上でそれぞれが署名していく。
これらのシステムを利用することで、契約を除くすべての賃貸手続きをWebで行うことができる。
原氏は不動産業界のデジタル化について、「まだまだアナログが部分が多い業界です。新築の分譲マンションであれば、販売会社とユーザーが直接接点を持ち、顧客のリテラシーも高いのでデジタル化しやすいと思いますが、賃貸や分譲の中古物件の場合は、仲介会社が間に入ることが多いため、管理・販売する側との共同作業で契約を行っていきます。会社が異なれば使っているITツールやリテラシも違うので、1つのツールで取引成立まで行うのはは難しい面があります。自社で物件も提供し、仲介も行っているプレイヤーであれば、デジタル化していく可能性は高いと思います」と説明する。
同氏は、不動産業界でデジタル化が進まない要因は4つあるとした。
1つ目は、一生のうちで、不動産契約をする回数がそれほど多くないため、ユーザーがアナログの不便さを感じておらず、デジタル化のニーズが少ないこと。
2つ目は、小規模な不動産会社が多いため、費用・人員・手間がかかる独自のITツールを自社で開発するのが難しいこと。
3つ目は、不動産取引にいくつもの会社がかかわるため、横断的な1つのツールでまかなっていくのが難しいこと。
4つ目が、不動産会社やオーナーごと、物件ごとにさまざま独自ルールが存在し、契約書や申込書がバラバラで、標準フォーマットが統一できないことだという。
同社のスマートシリーズは、現在は賃貸契約向けだが、今後は仲介、管理、分譲の分野も視野に入れ、IT化を検討していくという。
システム化においては、自社で持っていない技術を使って実現していく場合があるため、情報収集やパートナーの見極めが重要だという。
そして、原氏は今後の不動産業界のデジタル化について、「将来的に、日本は人口や世帯数の減少、在宅ワークの普及によってオフィス需要も少なくなっていくなど、価格や価値に大きな変化が起きる可能性もあります。そのため、今後は今まで以上に効率的に業務を行っていきたいという不動産会社が増えており、アットホームはそういった業界のデジタル化を支援していきたいと思います。それを続けていけば、ITが当たり前の世界になり、効率のよい業界になっていくと思います」と語った。