宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は2月13日、MHIの田代試験場(秋田県大館市)にて、新型の大型エンジン「LE-9」3基による燃焼試験を実施、その様子をプレスに公開した。LE-9は、2020年度の初打ち上げを目指し、開発を進めているH3ロケットの第1段で使われるもの。試験は無事完了し、H3は完成に向け、大きく前進した形だ。
BFT後半シリーズの最終回が実施
今回実施したのは、第1段の「厚肉タンクステージ燃焼試験」(BFT:Battleship Firing Test)と呼ばれるテストだ。LE-9エンジンの単体試験は種子島で実施されているが、それに対し、田代で行うBFTはシステムレベルの試験という位置付けになる。
BFTでは、エンジン本体に加え、実機相当の配管やバルブなどを使用。より実機に近い条件で燃焼させ、問題が無いか確認する。JAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャは、「BFTは大規模な試験。夜中から作業を開始しており、ロケットの打ち上げ準備をしているような感覚だ」と述べる。
BFTは、合計8回実施する計画。前半シリーズの4回は、エンジン2基形態で実施しており、その後コンフィギュレーションを変更してから、3基形態の後半シリーズが2019年10月より始まっていた。前半シリーズについては、過去記事も参照して欲しい。
H3ロケットの大きな特徴は、固体ロケットブースタ無しの形態(H3-30S)が用意されることだ。従来のH-IIA/Bロケットは、推力を補うために固体ロケットブースタが必須だったが、H3ロケットのLE-9エンジンは推力を1.4倍に強化、H3-30Sではこれを3基束ねて(クラスタ)使うことで、ブースタ無しでの打ち上げが可能になった。
後半シリーズの4回は、このH3-30S形態を想定した試験である。追加するエンジンの到着が遅れたため、1回目のみ2基で行ったものの、2回目からは3基形態で実施。3基形態の初回は、設備側の問題で予定より早く燃焼を停止したものの、その次の回は燃焼時間を順調に延ばし、良好なデータを得ることができたという。
3基目のエンジンに最新型を投入
BFTで使われるのは、「実機型」と呼ばれるLE-9エンジンだ。これは慣例的に"実機型"と呼ばれているものの、フライトモデル(FM)というわけではなく、実際は開発中のエンジニアリングモデル(EM)に相当する。実機型の成果をフィードバックして製造する「認定型」エンジンの方が、フライトモデルであると言える。
LE-9では、合計4基の実機型エンジンを製造した。BFTの前半シリーズでは、「#3」「#4」を使用。後半シリーズでは、それに加え、3基目のエンジンとして「#1」を組み直した最新モデル「#1-3」を投入した。この#1-3では、初めて3Dプリンタ製の噴射器(インジェクタ)が採用されたという。
ちなみに後半シリーズは当初、昨年6月~8月あたりに実施する予定だったのだが、それが大幅に遅れたのは、#1-3の到着を待っていたからだ。ただH3の打ち上げ時期を考えると、BFTの完了をこれ以上遅らせたくないため、初回を2基形態に変更し、仕様を変えた新しいコンポーネントの確認を先行して行ったというわけだ。
最終回となる今回のBFTは、約40秒の燃焼を予定。特に、スロットルダウン時のデータが欲しいとのことで、点火から13秒で推力を3分の2に落とす。さらにスロットルダウンやエンジン停止のタイミングを、1基だけ意図的にずらして、異常な挙動が起きないかどうかも確認する。
燃焼試験は、14時40分ころに実施。報道陣は、今回も約700m離れた見学席で取材していたのだが、筆者個人の感覚では、2基形態よりも大きな音だったように感じた。音や噴煙からは、スロットルダウンによる変化は良く分からなかったものの、ほぼ予定通りの38秒間の燃焼を終え、BFTは無事完了した。
第1段の燃焼試験としては、種子島で行う「実機型タンクステージ燃焼試験」(CFT)がまだ残っているものの、BFTの完了は大きなマイルストーン。MHIの新津真行プロジェクトエンジニアは、「BFTは準備期間まで含めると2年近くかかっている。今日の試験を終えたことで、頂上が綺麗に見えた気がする」と笑顔を見せた。