日本初、3基クラスタへの挑戦
日本はH-IIBロケットで2基クラスタの経験はあったものの、第1段の大型エンジンで3基クラスタというのはH3ロケットが初めて。未知の領域だったと言えるが、岡田プロマネは「案外スムーズにいった」と、安堵の表情を見せる。
しかもLE-9エンジンは、「エキスパンダーブリード」と呼ばれる日本独自のサイクルを第1段の大型エンジンに適用するという、世界初のチャレンジも行っていた。この方式は副燃焼室を持たず、「2段燃焼」サイクルのような高温・高圧の配管が無い。異常発生時にも爆発しにくい安全性の高い方式で、第2段の「LE-5B」で採用していた。
ただ、副燃焼室が無いため、燃焼室の冷却で暖められ、ガス化した燃料でタービンを回すしかなく、大推力化が難しいとされていた。これについて岡田プロマネは、「現状で、真空中推力は150トン、比推力は422秒が出ている。目指した実力は出せるエンジンだということは確認できた」と述べ、順調さをアピールした。
なおLE-9については、今後、2種類のエンジンを認定していくことがすでに決まっている。以前の燃焼試験において、ターボポンプで共振の問題が発生したことから、まず初号機で搭載するタイプ1では、共振領域を避けて運転することとし、先行して認定。噴射器は従来の機械加工のものを使い、手堅く進める。
続くタイプ2で抜本的な対策を行い、共振領域自体を無くす設計とする。噴射器も3Dプリンタ製のものを採用し、これでLE-9の開発が完了となる。タイプ2は2号機での適用を目指しているとのこと。
H3ロケットの打ち上げまで、いよいよあと1年程度。固体ロケットブースタの燃焼試験や分離試験、地上施設の整備などが順調に進みつつあり、岡田プロマネは、「現在は最終段階として、システムを統合しているところ。急な坂道を上っている感覚を持っている」と、進捗について述べる。
近年、小型衛星による大規模なコンステレーションの存在感が増すなど、ロケットを取り巻く環境は変化している。岡田プロマネは、「H3ロケットのコンセプトを決めた当時から、世の中は大きく変わった。まずはH3を作った上での話になるが、多様化する国際打ち上げ市場に柔軟に対応できるロケットにしたい」と意気込んだ。
試験後のLE-9エンジンが公開!
燃焼試験の翌日には、BFTで使われたエンジンの公開が行われた。
田代試験場のBFTスタンドは、9階建てで高さは約55m。H-IIBロケット等の試験でも使われた設備で、これを改修してH3でも利用している。ただ、ロケット実機と配管の長さを同じにするため、液体酸素タンクは嵩上げして9階部分に配置。天井一杯まで使っており、高さ的には、なんとかギリギリ収まったような感じだ。
エンジンが設置されているのは4~5階部分で、4階では、ノズルスカートを見ることができる。3基のエンジンは、正三角形の位置に配置。当然ながら、実際のロケットの配置に合わせている。
前述のように、BFTの後半シリーズでは、タイプの異なる2種類のエンジンが使われている。どれが新型の#1-3なのか気になるところだが、チェックポイントはノズルスカートのリブ(補強のために使われるリング状の構造)。#1-3はコストダウンのため、従来の#3と#4より本数が少なくなっているので、区別は容易だ。
そのほかの違いは分かりにくいのだが、#1-3はより実機に近くなっており、電動バルブのアンプやコントローラなども搭載されているとのこと。ちなみに従来の「LE-7A」エンジンでは、バルブはヘリウムガスで駆動していた。ジンバルのアクチュエータやバルブが電動化された点もLE-9の大きな特徴の1つである。
ところで、700m離れた場所からの映像だと迫力がイマイチ伝わらないかもしれないので、最後にJAXA提供の公式動画をご覧いただこう。これはノズルスカートの真横に設置したカメラで撮影したもの。LE-9エンジンの3基クラスタ、合計推力450トン(!)の大迫力を味わえるだろう。