クアッドコアCPUが生む熱をどうするか

――キーストロークの確保以外に苦労したところはどこですか。

上田 やはり、コンパクトにするという点での試行錯誤ですね。コンパクトにしながら、各種機能を搭載するということは、部品による内部空間の取り合いのようなものですから(笑)。

さらに、Intel第8世代クアッドコアを搭載しているので、内部の放熱構造には厳しいものが要求されました。各種部品の高さや配置の仕方、内部空間の風の流れを何度も計算しました。ここでは、最適な風の流れを作ると、コネクタの位置がユーザーに使いにくい場所に配置されてしまったり、逆に使いやすさばかりを優先すると、放熱効果が得られないということがありました。部品の位置や高さを何度も変えてシミュレーションを行い、最適な構造を実現したわけです。

また、QV8用に新たなファンを採用しました。ここでも、薄型化を実現するためには羽根を薄くしなくてはいけませんが、そうなると風力が弱まります。そこで、羽根の枚数や形状に工夫を加えたり、ボトムケースの様々なところにスリットを入れて空気のながれを効率的にしたりといったことをやっています。また、吸気穴と排気穴の場所は、空気圧にも関係してくるので、それもシミュレーションを行いながら場所を決めました。こうしたトータルの取り組みによって、放熱性を高め、さらにコンパクト化を実現しました。

  • QV8の内部構造

坂田 もうひとつ、コンパクト化する上では、前側の筐体と後ろ側の筐体のあわせ方を変えて、「突き当て嵌合方式」を用いました。天板とフロントキャビネットをオーバーラップさせる合わせ方ではなく、突き合わせする形にしています。液晶モジュールの最小化とともに、この仕組みを採用することで、1~2mmのコンパクト化ができ、それが軽量化にもつながっています。さらに、QV8のアイソレーションキーボートは、RZやNXと違う形のものを採用しています。これはQV8で初めて採用したもので、キーボードと筐体の横幅部分の狭小化に貢献しています。

上田 アンテナもコンパクト化では苦労した部分です。アンテナの基板面積が減ると、アンテナ性能が落ちてしまいますが、天面側部分を樹脂だけでなく、板金をあわせて使うことで、アンテナ性能を高めるといった工夫をしています。これによって、基盤面積が大きい樹脂だけの他のモデルと同じアンテナ性能を実現しています。狭額縁化するなかでも、アンテナは上の方に設置することにこだわり、アンテナ性能を維持しています。

  • QV8の内部ファン。羽根の枚数や形を従来から改善して、クアッドコアCPUの放熱を行っている

  • アンテナは天板の一番上に配置

――QV8では、指紋センサーと顔認証対応カメラの2つの生体認証を搭載しました。その理由はなんですか。

上田 多段階認証をしたいというニーズへの対応を図ったのがひとつめの理由です。指紋認証と顔認証の両方の認証を入れることでセキュリティを強化できます。もうひとつは、QV8ではモダンスタンバイを採用していますが、スリープ状態からすぐに復帰できるせっかくの機能なのに、そこにパスワードが求められるというのでは、その良さが最大限に発揮できません。しかし、指紋センサーで認証すれば、セキュリティを確保しながら素早く復帰できます。モダンスタンバイは、QV8でターゲットとした人たちにとっては重要な機能のひとつです。これをより効果的に利用するために指紋センサーを追加しています。

  • QV8の顔認証対応カメラと指紋認証センサー

――バッテリー駆動時間は約10時間ですね。

上田 Lバッテリーを搭載して約19.5時間も駆動するSV8に比べると、駆動時間が短いという指摘があるかもしれません。一泊や長距離の出張の際には、アダプターやバッテリーを持って歩かなくては不安という声もあるでしょう。ただ、これもQV8の利用者を想定したものであり、ルート営業の人たちが一日持ち歩いても、安心して利用できるだけの連続駆動が可能です。次のお客様を訪問する前に、資料を作ったり、資料をみたりといったことをしても十分現場で活用できます。また、USB3.1 Type-Cに対応していますから、USBケーブルさえ持っていれば本体を充電できます。

オールマイティではないが、必要な人が確実にいる

――発売後の市場の反応はどうですか。

小林 非常に高い評判です。発売前に行ったWebによる先行予約は、従来製品と比べても約2倍に達しましたし、タッチアンドトライを開催したところ、実際にQV8に触った人が、前回のイベントに比べて1.9倍に増えました。ここからもこの製品に対する期待が大きいことがわかります。薄さに対する評価が高く、3:2のアスペクト比についても、自分で見るのも、相手に見せるのにも適しているという評価をもらっています。これは、この領域の製品を待っていたユーザーが多かった証ではないでしょうか。

上田 オールマイティの製品ではないことは認識していますが、この製品を待っていた人が明らかにいるということは感じています。私自身、作りたかったモノがつくれたという自信があります。長年、Let'snoteの開発に携わってきていますから、レットノートとしてどこにこだわらなくてはいけないかということは熟知しています。

小林 今回の製品では、バッグへの入れやすさも考えています。私は、ぜひ多くの人にカバンに入れて持ち歩いて欲しいと考えています。

上田 デザインモックを作ったときに、設計メンバーとデザインメンバーが、男女を問わず、自分がいつも使っているバッグを持ち寄って、カバンに入れやすいデザインはどれかという採点を行いました。ほかの要素にも、点数をつけて、トータルでバランスが取れたものを選びました。資料を見たり、資料を見せたり、会議室でも、立ったままでも使える新たなコンセプトのLet'snoteが完成したと思っています。まずはぜひ触ってもらい、その良さを体感してほしいですね。

  • 左から順に上田大氏、坂田厚志氏、小林俊夫氏