Intelの最新ノートPC向けCPUは「Core Ultra シリーズ2」だ。そのランナップは多岐に渡り、構造が大きく異なるものもある。今回はその中からArrow Lake-Hこと「Core Ultra 200Hシリーズ」とLunar Lakeこと「Core Ultra 200Vシリーズ」を取り上げる。両者は何が異なるのか。どのような用途にマッチしているのか、スペックと10種類のテストで比較していく。ノートPC選びの参考になるはずだ。

  • Arrow Lake-HのCore Ultra 9 285Hを搭載するMSIのノートPC「Prestige 16 AI Evo B2HMG」。今回のテストに使用した

    Arrow Lake-HのCore Ultra 9 285Hを搭載するMSIのノートPC「Prestige 16 AI Evo B2HMG」。今回のテストに使用した

まずは、Intelの「Core Ultra シリーズ2」に触れておこう。ノートPC用としては、ハイエンド・ゲーミング向けの「Core Ultra 200HXシリーズ」、薄型・高性能・ゲーミング向けの「Core Ultra 200Hシリーズ」、薄型・高性能向けの「Core Ultra 200Vシリーズ」、薄型・省電力向けの「Core Ultra 200Uシリーズ」が存在している。例えばCore Ultra 200HXシリーズの型番は「Core Ultra 9 285HX」などとなり、末尾のアルファベットでどこのシリーズに属するCPUか判別が可能だ。基本性能としては高い順にHX、H、V、Uとなるが用途によっては順序が変わることも。そのため、今回はその中から用途や立ち位置が近いCore Ultra 200HシリーズとCore Ultra 200Vシリーズの違いにスポットを当てていく。

Core Ultra 200Hシリーズ(開発コードネームArrow Lake-H)は、性能重視のPコア(Lion Cove)、効率重視のEコア(Skymont)、省電力のLP Eコア(Skymont)、最大11TOPSのNPU、Xe-LPG+アーキテクチャのGPUを組み合わせたCPUだ。NPUは第3世代でCopilot+ PCの要件を満たさないなど性能や低めで内蔵GPUアーキテクチャも古い世代がベース、LP Eコアがあるなど前世代のMeteor Lakeに近い構成だが、内蔵GPUはAI処理を効率化するXMXエンジンが有効化されるなど進化している面もある。

今回取り上げる「Core Ultra 9 285H」は、Pコアを6基、Eコアを8基、LP Eコアを2基で合計16コア16スレッドというメニーコア仕様。PBPは45W、MTPは115Wと消費電力は高めだが、それだけに最大クロックも5.4GHzと高い。ノートPCとしてはパワフルなCPUと言える。内蔵GPUはXeコアを8基備えるArc 140Tで動作クロックは2.35GHzだ。メモリはDDR5-6400またはLPDDR5X-8400に対応する。

  • Core Ultra 9 285H。16コア16スレッドで最大クロックは5.4GHz

  • GPUとしてXe-LPG+アーキテクチャのXeコアを8基備えるArc 140Tを内蔵

Core Ultra 200Vシリーズ(開発コードネームLunar Lake)は、全モデルが性能重視のPコア(Lion Cove)×4基と効率重視のEコア(Skymont)×4基という構成のCPUだ。Copilot+ PCの要件を満たす最大48TOPSのNPU、最新のXe2アーキテクチャを採用するGPUが内蔵されている。CPUにメインメモリも統合することでメモリの高速化も実現しているのも大きな特徴だが、後から追加できないのはデメリットだ。NPU性能を重視するなら注目と言える。

今回取り上げる「Core Ultra 7 258V」は、動作クロック最大4.8GHzでLPDDR5X-8533の高速メモリを32GB搭載。GPUにはXe2アーキテクチャのXeコアを8基搭載するArc 140Vを採用している。動作クロックは1.95GHz。TDP 17Wと低消費電力ながら、高性能なNPUとGPUを内蔵しているのが大きな強みだ。

  • Core Ultra 7 258V。8コア8スレッドでメモリはLPDDR5X-8533が32GBに固定される

  • GPUとしてXe2アーキテクチャのXeコアを8基備えるArc 140Vが内蔵されている

それぞれのスペックは以下にまとめた。コア数と動作クロックはCore Ultra 9 285Hが上だがNPUとGPUは一世代前。Core Ultra 7 258Vはコア数では負けているがNPU性能が高く、GPUも最新世代だ。これがどのような性能差に繋がるかが注目と言える。

CPU Core Ultra 9 285H Core Ultra 7 258V
製造プロセス TSMC N3B TSMC N3B
コア数(P/E/LP E) 6/8/2 4/4/-
スレッド数 16 8
Pコアクロック(定格/最大) 2.9/5.4GHz 2.2/4.8GHz
Eコアクロック(定格/最大) 2.7/4.5GHz 2.2/3.7GHz
LP Eコアクロック(定格/最大) 1/2.5GHz
3次キャッシュ 24MB 12MB
対応メモリ DDR5-6400/LPDDR5X-8400 LPDDR5X-8533(CPUに搭載)
NPU 第3世代(13TOPS) 第4世代(47TOPS)
TDP 45W 17W
内蔵GPU Arc 140T(8Xe) Arc 140V(8Xe)

使用するノートPCを紹介しよう。Core Ultra 9 285HはMSIの「Prestige 16 AI Evo B2HMG」だ。Core Ultra 7 258VはASUSの「Zenbook S14 (UX5406)」だ。

それぞれの基本スペックは以下の通り。

モデル MSI Prestige 16 AI Evo B2HMG ASUS Zenbook S14 (UX5406)
CPU Intel Core Ultra 9 285H Intel Core Ultra 7 258V
メモリ LPDDR5X-7467 32GB LPDDR5X-8533 32GB
GPU Arc 140T Arc 140V
SSD 1TB(NVMe SSD) 1TB(NVMe SSD)
OS Windows 11 Pro Windows 11 Home
ディスプレイ 16型(2,560×1,600ドット) 14型(2,880×1,800ドット)
サイズ(幅×奥行き×高さ) 358.4×254.4×16.85~18.95mm 310.3×214.7×11.9~12.9mm
重量 約1.5kg 約1.2kg
  • Core Ultra 9 285Hを搭載するMSIの「Prestige 16 AI Evo B2HMG」

  • Core Ultra 7 258Vを搭載するASUSの「ASUS Zenbook S14 (UX5406)」

Arrow Lake-HとLunar Lake、ベンチマークテストの結果

さっそくは性能比較に移ろう。シンプルにCPUパワーを見るためCGレンダリングを実行する「Cinebench 2024」とアプリの性能を見るため、Webブラウザ、ビデオ会議、表計算などさまざまなアプリをシミュレートする「PCMark 10」のスコアからチェックする。

  • Cinebench 2024

  • PCMark 10

Cinebench 2024のマルチコアはコア数が多いCore Ultra 9 285Hが1.87倍のスコアと順当な結果だ。シングルコアも動作クロックの高いCore Ultra 9 285Hが上回った。PCMarkもコア数の差でオフィス系処理のProductivityやクリエイティブ系のDigital Content CreationでCore Ultra 9 285Hが高いスコアを出している。

ゲーミング性能はどうだろうか。Core Ultra 9 285Hの内蔵GPUは前世代のXe-LPGを改良したXe-LPG+アーキテクチャのXeコアを8基で動作クロックは2.35GHz、Core Ultra 7 258Vは最新世代のXe2アーキテクチャのXeコアを8基で動作クロックは1.95GHzだ。まずは、定番の3DMarkから見ていこう。

  • 3DMark

DirectX 11ベースのFire StrikeはCPU処理性能も影響するテストということもあって、Core Ultra 9 285Hが上回った。DirectX 12ベースのSteel Nomad LigthはCPUの影響は小さいが、それでもCore Ultra 9 285Hが11%ほど高いスコアとなった。クロックの高さが効いているのかもしれない。

実ゲームではどうか。ここでは、定番FPSの「オーバーウォッチ2」、格闘ゲームの「ストリートファイター6」、ハンティングアクションの「モンスターハンターワイルズ」、オープンワールドゲームの「サイバーパンク2077」を用意した。オーバーウォッチ2は、botマッチを実行した際のフレームレート、ストリートファイター6はCPU同士の対戦を60秒間実行した際のフレームレートをそれぞれ「CapFrameX」で計測。モンスターハンターワイルズ、サイバーパンク2077はベンチマーク機能を利用した。

  • オーバーウォッチ2

  • ストリートファイター6

  • モンスターハンターワイルズ

  • サイバーパンク2077

GPUのアーキテクチャはCore Ultra 7 258Vのほうが新しいが、CPU性能を求めるゲームではCore Ultra 9 285Hが優位だ。オーバーウォッチ2が顕著でCore Ultra 7 258VはCPU使用率がほぼ100%になって、平均、最小とも伸びていない。ストリートファイター6は平均こそどちらも上限の60fpsにほぼ到達しているが、最小はCore Ultra 7 258Vが低い。CPUパワーの差が安定性に影響していると言える。

モンスターハンターワイルズはほぼ同じ平均fpsだった。画質を最低設定でアップスケーラーやフレーム生成を活用しても今回の2台では快適に遊ぶのは難しい。このあたりが内蔵GPUの限界が見える部分だ。その一方で重量級ゲームでもサイバーパンク2077は十分プレイできるフレームレートが出た。画質を落とす必要はあるが、フルHD解像度なら多くのゲームが遊べるのがうれしいところだ。安定性を求めるなら、Core Ultra 9 285Hのほうが優位という結果となった。

AI性能もチェックしてみよう。様々なAI推論エンジンを実行してスコアを出す「Procyon AI Computer Vision Benchmark」を使用する。テストはすべてOpenVINO(integer)に設定、CPU、GPU、NPUのそれぞれで実行した。

  • Procyon AI Computer Vision Benchmark

注目はNPUだ。Core Ultra 9 285Hは第3世代NPUで13TOPS、Core Ultra 7 258Vは第4世代NPUで47TOPSと大きなスペック差がある。それがスコアにもハッキリと出ており、Core Ultra 7 258Vのほうが約2.5倍も高い。NPUに対応したアプリを快適に動かしたい、という目的ならCore Ultra 7 258Vのほうが圧倒的に優位だ。

エンコード性能も試そう。どちらの内蔵GPUにもH.264/H.265/AV1のハードウェアエンコードに対応したQSV(Quick Sync Video)が搭載されている。ここでは、エンコードアプリの「HandBrake」を使って、約3分の4K動画をH.265のフルHD解像度にQSVとCPUを使って変換するのにかかる時間を測定した。

  • 動画エンコード

Arcのハードウェアエンコーダーは爆速だ。CPUと比べて8分の1以下の時間でエンコードが完了できる。Core Ultra 9 285Hはクロックの高さもあってかCore Ultra 7 258Vよりも高速だ。

消費電力も測定しよう。OS起動10分後をアイドル時とし、Cinebench 2024、サイバーパンク2077実行時を測定した。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用している。

  • 消費電力

消費電力はCore Ultra 9 285HがPBP45W/MPT115W、Core Ultra 7 258VがPBP17W/MTP37Wという仕様だ。それだけに消費電力には大きな差が出た。Core Ultra 9 285HのACアダプタは100Wなので、その限界まで使って性能を出している形だ。Core Ultra 7 258VのACアダプタは65Wで最大までは届いていない。これでゲームでは平均フレームレートを上回ることもあるのでワットパフォーマンスではCore Ultra 7 258Vが上だ。

ここまでが、Core Ultra 9 285HとCore Ultra 7 258Vの比較だ。Core Ultra 9 285Hのほうが基本性能は上だ。内蔵GPUによるゲームプレイもCPUパワーの高さからフレームレートが安定しやすい。弱点はNPU性能の低さ、消費電力が大きいためノートPC本体のサイズがやや大きくなりやすいことだろう。持ち運びやすさよりも性能を重視するならこちらと言える。

Core Ultra 7 258Vは8コア8スレッドなのでCPUパワーはCore Ultra 9 285Hに劣ってしまうが、消費電力が少ないことからかなりの薄型モデルが多く、持ち運びを重視する人にとってはこちらのほうがよいだろう。またNPU性能も高く、この先AIの活用を考えている人にも向いている。どちらにもメリット、デメリットは存在するだけに、あとはそれぞれの目的次第だろう。