レノボ・ジャパンは、法人向けデスクトップ「ThinkCentreシリーズ」のCTO(コンフィギュア・トゥ・オーダー)生産を、山形県米沢市のNECパーソナルコンピュータ米沢事業場で開始。それにあわせて、2019年11月22日、出荷式を行うとともに、生産ラインの様子を公開した。
米沢事業場は、1984年の操業以来、NECブランドのPCを35年間にわたり生産。2015年からは、レノボのThinkPadシリーズにおけるWeb販売向けモデルのカスタマイズ生産も行ってきた。
今回、新たにレノボの法人向けデスクトップにも国内生産を拡大。これまでは海外生産ということで受注から納品までに2~3週間を要していたものを、受注から最短5営業日で納品できる体制を構築する。
まずは、2019年11月18日から約2カ月間のパイロット期間を設け、米沢事業場内に2つのラインを設置。「ThinkCentre M720s Small」「ThinkCentre M720q Tiny」「ThinkCentre M920s Small」「ThinkCentre M920q Tin」という4製品にて、標準構成モデル(48種類)の生産を開始し、受注オペレーションや生産ラインの習熟を図る。2020年2月からは、本格的なカスタマイズモデルの生産を開始する予定だ。2つのラインで1日300~400台を生産し、今後は受注量の拡大にあわせて、ライン数の拡大も検討していくことになる。
出荷式に出席したレノボ・ジャパンおよびNECパーソナルコンピュータのデビッド・ベネット社長は、「設計、生産、サービスのすべてを日本で行っている外資系PCメーカーはレノボだけ。米沢事業場のリソースを活用することで、最短5日間で提供できるようになる。また、『JAPAN MADE & SUPPORT』のシールを新たに作り、今後はすべての米沢生産の製品に貼付していく。設計、組立、納品、サポートのすべてにおいて、日本のお客さまのために、日本のチームが責任を持って、製品を提供するというメッセージであり、約束の印である。One Japanのバリューを顧客体験につなげることが、日本法人社長である私の役割。日本の企業のビジネスを、レノボが加速することになる」とした。
同社が顧客の声をヒアリングしたところ、「堅牢性と信頼性に代表される組立クオリティには感心している」、「高品質、サービスの良さ、営業の対応力、価格競争力に期待している」という声があがる一方、「依頼通りの納期で見積もり回答がほしい」、「出荷を全般に改善してほしい」といった要望があった。今回の米沢生産によって、こうした要望に対応できる体制が整うことになる。
なお、レノボの経営理念は、従来は「Operational Excellence(効率重視)」であったが、これを「Customer Satisfaction(顧客満足度重視)」へと転換。今回のThinkCentreシリーズの米沢生産も、この考え方に基づいたものと位置づけた。
ベネット社長:レノボ・ジヤパンでは、ThinkPadクライテリアと呼ばれる設計基準があり、200項目以上の基準をクリアすることで品質を高め、業界で最も高い品質を目指している。修理に関しては、保証期間中であれば、95%以上を24時間以内に修理完了することを目指しており、これがすでに94%にまで達している。そして今回、CTO生産による納期を最短5営業日とし、これをコミットする。設計はレノボの大和研究所、サービスはNECパーソナルコンピュータ群馬サービスセンター、CTO生産はNECパーソナルコンピュータ米沢事業場で行う。One Japanとして取り組むことができる。
現在、ThinkCentreシリーズは、国内で年間30万台を出荷。デスクトップPC市場におけるシェアは約8%であり、これをThinkPadと同様に、13%程度まで引き上げる考えを示した。
ThinkCentreシリーズの生産ライン
現場の力で「カイゼン」
一方、NECパーソナルコンピュータ米沢事業場生産事業部長の竹下泰平氏は、次のように説明する。
竹下氏:米沢事業場では、NECブランドのPCをカスタムオーダーメイドで生産しており、短納期で指定された期日までに納品し、高い品質の製品を作ることにこだわってきた。開発、設計、生産がひとつの建屋にあり、お客さまにより良い製品を届けるためにワンチームの強みを生かしている。加えて、2万通りのCTO対応能力を持ち、最短5日間での出荷を可能にするためITシステムを最大限に利用して、生産に関わる情報をもとにCTOをコントロール。これまでトヨタ生産方式を利用し、効率的に、高品質で作るためのカイゼンに取り組んできた。これが米沢生産方式である。
NECパーソナルコンピュータでは、米沢事業場を、優れた顧客体験を実現するための国内工場と位置づけ、CTO生産への最適化、短期納品への挑戦、高品質へのこだわりを追求。電子カンバンや短納期トレーサビリティなどによる革新によって、スマートファクトリーの実現にも取り組んでいる。
スマートファクトリーとは、生産現場にある情報をデジタル化し、さらなる効率化につなげること。米沢事業場では、レノボブランドの小型コンピュータ「ThinkCentre M90n-1 Nano」を使用し、データを収集している。
また、「現場から出てきた力と意見でカイゼンを進めることも、米沢事業場の大きな特徴」とする。例えば、電動ドライバー。水道管のパイプを活用して、生産ライン上の作業者が電動ドライバーを使ったあとに収納するとき、常に同じ向きで戻る治具を独自に開発した。次に電動ドライバーを使うときに、向きをいちいち確認せずに済むというメリットがある。
そのほか、ネジを締める順番を記したテンプレートもカイゼンのひとつ。一例として、組み立てるノートPCの底面にテンプレートを置き、順番の通りにネジを締めると、きちんと仕上がるというもので、組立現場で利用している。
こうしたカイゼン案は、レノボの中国工場でも採用されているという。レノボの中国工場を対象に、米沢方式のトレーニングを開始。生産現場における品質向上への取り組みを体系化したカリキュラムを用意し、米沢事業場から中国の工場に教育担当者を派遣。すでに1万人が受講しているという。
さらに、米沢事業場ではマイスター制度を採用し、作業ごとに高いスキルを持った作業者を認定。VOC(ボイス・オブ・カスタマー)制度もあわせて、現場の声をもとに作業環境の改善につなげるといったことも行われている。実際の生産現場を見ると、そうした工夫が随所に見られた。
出荷式に出席した米沢市企画調整部・我妻秀彰部長は、「NECパーソナルコンピュータの米沢事業場は、米沢の発展に貢献しており、高い技術力によって『世界一メイドインやまがた賞』を受賞・モノづくりの街、米沢の中心的役割を果たしている。米沢市役所ではNECのPCを導入しており、市民が家庭向けに購入するPCもNECの割合が高い。市民が米沢で作られた製品に愛着を持っている。米沢事業場は、たゆみない生産改革に取り組んでおり、米沢藩主であった上杉鷹山の『成せばなる』の精神を実行している。これがレノボのPC生産にも生かされることになる。海外にも『MADE IN YONEZAWA』の名前が広がることを期待している」とした。