アクティブノイズキャンセリング機能(以下、ANC)を搭載するアップルの完全ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」、10月30日の販売開始以来、好調に売れているようです。アップルストアや家電量販店ではいまだに入荷待ちの状態が続いており、現在注文しても12月以降の配送になっています。

  • アップル「AirPods Pro」。実売価格は税込み3万円前後

ANC機能付き完全ワイヤレスイヤホンに進化したAirPods Proを、現在最大のライバルといえるソニーの「WF-1000XM3」と出来映えを比べなら迫ってみたいと思います。AirPods Proの単体レビューもぜひ合わせてお読みください。

  • ソニー「WF-1000XM3」。実売価格は税込み2万6000円前後

AirPods Pro、なぜANC機能を搭載したのか

これまでのAirPodsは開放型のハウジングを採用しており、クリアでヌケが良く、こもりの少ない音が楽しめるイヤホンとして人気を集めていました。iPhoneに付属する有線タイプの「EarPods」も同じ開放型ハウジングのイヤホンです。

  • ロングヒットを続ける、おなじみの「AirPods」

  • AirPodsは開放型ハウジングを採用している

AirPodsは音質の面でも評価の高いイヤホンですが、構造が開放型だけに、バスや地下鉄、飛行機の中など、音量の大きな騒音に囲まれる場所では、音楽の低音や高音が若干聴きづらくなることを指摘する声がありました。ハウジングを密閉型とし、さらに耳栓タイプのイヤーチップを組み合わせれば、イヤホンの遮音性を高めることができます。新しいAirPods Proは、密閉型ハウジングと耳栓タイプのイヤーチップに加え、なんとANC機能まで搭載してきたのです。

リスニング環境周囲の騒音だけを消してくれる機能は、イヤホンに搭載されていると便利である反面、有効にすると周囲の音が聞きづらくなり、特に歩きながら使うことが難しくなります。そこでアップルは、AirPods ProにANC機能を搭載するだけにとどまらず、イヤホンに内蔵するマイクで周辺の環境音を取り込みながら音楽が聴ける「外音取り込み」の機能も合わせて搭載し、心地よく安全な音楽リスニングを可能にしました。高い没入感が味わえる遮音性能の高いイヤホンを安全に使えるようにするため、アップルは密閉型・耳栓タイプのAirPodsを飛び越えて、一気にANC機能の開発・採用に踏み切ったのではないでしょうか。

AirPods ProとWF-1000XM3をさまざまな視点で比べてみた

アップルのAirPods ProとソニーのWF-1000XM3は、完全ワイヤレススタイルの特徴を活かしたANC機能搭載のイヤホンとして、まさに人気を二分する代表製品といえます。両方の製品を試した筆者が、各モデルで気がついた点をまとめてみました。

【ANC機能と遮音性能】

ANC機能をフルに効かせた場合、WF-1000XM3のほうが高・中・低域の各帯域にわたってまんべんなく消音効果が得られる手応えを感じました。本体に付属するイヤーチップを装着したことによるパッシブな消音効果と合わせ、かなりの消音が期待できます。

AirPods ProはANC機能をオンにした際、耳穴の中に発生する不快な内圧を回避するために、ノズルからハウジングの背面側に抜ける小さな通気孔を設けています。そのためなのか、WF-1000XM3に比べると消音効果はややソフトで、バランスの良さを重視したチューニングに仕上がっています。ANC機能のオン・オフを切り換えた時に発生する内圧は、AirPods Proのほうがより違和感が少ないと感じました。

どちらのイヤホンも、ハウジングの内外両側にマイクを載せ、リスニング中の音楽信号に混ざる環境ノイズ成分だけを解析・消去するハイブリッド方式のANC機能を搭載しています。AirPods Proは、変化する周辺ノイズのコンディションに対して常にベストな消音効果が得られるよう、イヤホンが自動調節してくれる手軽さが魅力。ソニーのWF-1000XM3は、アプリからANC機能と外音取り込みの強弱のバランスが好みに合わせて20段階で変えられます。このマニュアル調整のメニューに、ユーザー独自のこだわりを反映できます。

  • WF-1000XM3は、ノイズキャンセリングの効果を20段階から設定が可能

【装着感】

最適な遮音効果と心地よいサウンドを得るためには、イヤーチップを耳の奥まで挿入してしっかりとホールドさせることが肝要です。AirPods Proは、付属の3種類のシリコン製イヤーチップから適切なサイズを選べば、誰でも簡単に正しく装着できるイヤホンです。iOSの設定アプリから「イヤーチップ装着状態テスト」の機能を走らせると、イヤホンの装着状態をセルフチェックできるのが便利です。

  • AirPods Proは「イヤーチップ装着状態テスト」の機能を使い、正しく装着できたかをチェックできます

WF-1000XM3は、AirPods Proに比べるとイヤホン本体のサイズがやや大きいため、自分の耳に合うサイズのイヤーチップを選んで正しく耳に装着することがベストパフォーマンスを引き出すための大事なファクターになります。以前に本機のレビューでも紹介した、ソニーが公開しているWF-1000XM3の装着方法を紹介する動画がよいお手本になるので、参考にしてみてください。

【音質】

音質については、どちらの製品もイヤホンに由来する余計な色づけがなく、ソースに収録されているありのままの音楽情報を素直に引き出す方向にチューニングされていると感じます。

ソニーのWF-1000XM3は、きめ細かな音の質感の再現力に富んでいます。特に、専用アプリ「Sony Headphones Connect」で、圧縮音源のサウンドを独自のアルゴリズムにより補完しながらハイレゾ相当の音質にアップコンバートする「DSEE HX」の機能をオンにすると、ボーカルやアコースティック楽器の音色に心地よい温かみが乗ります。

  • WF-1000XM3は、モバイルアプリ「Sony Headphones Connect」で細かなノイズキャンセリング機能の調整や、イコライザーなど音質に関係するセットアップが行えます

AirPods Proは、ひずみがなく伸びやかなミドルレンジとパンチの効いたタイトな低音再生に惹かれました。筆者の好きなJ-POPにもよく合います。従来のAirPodsに比べると、ビートの利いたロックやEDM、力強いジャズのベースラインが、騒音に囲まれる場所でもとても聞こえやすくなっていて、グルーブ感を体で味わえる心地よさがあります。

【ワイヤレス接続】

スマートフォンなどの音楽プレーヤーとのワイヤレス接続の安定性については、WF-1000XM3、AirPods Proともに高いレベルにあると感じました。

ソニーのWF-1000MX3は、専用アプリから音質モードと呼ぶワイヤレス接続の品質設定が「音質優先」と「接続優先」から選択できるので、もし混雑する駅前や通勤電車の中などで音切れが気になるようであれば「接続優先」に切り換えてみるとよいでしょう。

AirPods Proは、ごくまれに音が切れることがあったものの、従来のAirPodsと同様にさすがの安定感だと感じます。

【デザインとサイズ感】

イヤホン本体と充電ケースは、大きさに差があります。ソニーのWF-1000XM3が発表された当時は「よくぞ頑張ってここまでケースを小さく軽くできた!」と感銘を受けたものです。数々の機能を搭載していることを考えれば、このポータビリティの高さは驚異的と言っても間違いではありません。ですが、AirPods Proはさらにひと回り以上、ケースとイヤホンがコンパクトになっています。AirPods Proのほうがバッグの中で占有スペースを抑えられるので、特に女性の音楽ファンは魅力的に感じるのではないでしょうか。

  • ケースのサイズはAirPods Pro(左)のほうがひと回りぐらいコンパクト。バッグの中のスペースをむやみに占有しません

  • イヤホン本体もAirPods Pro(左)のほうが小さくてスリムです

【代表的な機能】

ソニーのWF-1000XM3が搭載する多彩な機能を挙げ始めるとキリがありませんが、AirPods Proにも搭載してほしいと感じた機能が1つあります。イヤホンを耳から外さなくても、ハウジング側面のタッチセンサーリモコンを長押ししている間だけ周囲の音をさっと聞ける「クイックアテンションモード」です。コンビニのレジで会計をする短い時間にイヤホンを耳から外したり、外音取り込みモードにスイッチする手間が省けます。

  • WF-1000XM3は、イヤホンの側面がタッチセンサーリモコンになっています。長押し操作をクイックアテンションモードの起動に設定できます

  • AirPods Proは、ステムの部分にタッチセンサーリモコンを内蔵しています

反対に、AirPods Proが強みとしているのが、IPX4相当の防滴・耐汗性能を備えていること。WF-1000XM3も、水滴に軽く濡れる程度であれば全然大丈夫ではあるのですが、汗を多くかくスポーツシーンで使う場合は、やはり本体のサイズ感を考えてみてもAirPods Proが適しているといえます。

【バッテリー】

ANC機能をオンにした場合の最大音楽再生時間は、AirPods Proが約5時間、WF-1000XM3が約6時間と大きな差はありません。充電ケースでチャージしながら使う場合は、どちらも約24時間の連続音楽再生が可能です。

WF-1000XM3は、汎用性の高いUSB Type-Cケーブルが充電に使えるところが大きなアドバンテージになります。AirPods Proは、iPhoneと同じLightningケーブルを使って充電します。iPhoneユーザーであれば同じケーブルが共用できるので、不便はないでしょう。Qi規格に対応するワイヤレス充電にも対応しているので、自宅やオフィスにスマホ用のワイヤレス充電器があれば、そこにポンと置くだけで充電ができます。

  • USB Type-C充電端子を搭載するWF-1000XM3

  • AirPods Proの充電端子はトラディショナルなLightningコネクタです

【カスタマイズ性】

イヤホンは、音や外観を自分の好みに合わせてカスタマイズしながら使うと、より愛着が深まってくるもの。しかし、完全ワイヤレスイヤホンはカスタマイズできる余地が少ないアイテムといえます。ソニーのWF-1000XM3は、同こんしている2種類のイヤーチップを交換して音や装着感をアレンジできます。ノズルの形状は互換性が高いので、サードパーティー製のイヤーチップと交換して楽しむことも可能。

  • WF-1000XM3は、サイズが異なる2種類のイヤーチップを同梱しています

AirPods Proは、独自形状のイヤーチップを装着して使うため、今のところ互換性のある交換品が存在しません。従来のAirPodsは、華やかな柄の「ケースを収納するケース」や、左右の本体を一時的に結んで“肩掛け”できるようにするストラップなど、サードパーティー製のAirPods専用アクセサリーが充実していました。AirPods Proの人気ぶりを見ると、今後イヤーチップをはじめとする対応アクセサリーが続々と登場するのは間違いないでしょう。

  • AirPods Proはイヤーチップの形状が独特。一般的なイヤーチップとの互換性はありません

ANC搭載完全ワイヤレスイヤホン、戦国時代に突入

ANC機能を搭載する完全ワイヤレスイヤホンは、各社から続々と登場することが見込まれます。ファーウェイは、「FreeBuds 3」を日本でも11月29日に販売することを発表しました(予想実売価格は税別1万8800円)。デンマークのリブラトーンも、強力なANC機能を載せた完全ワイヤレスイヤホン「Track Air+」を商品化しています(実売価格は税込み2万5000円前後)。

  • AirPodsにルックスもよく似ているファーウェイの「FreeBuds 3」

  • デンマークのオーディオブランド、リブラートンの「Track Air+」も日本上陸を果たしました

さらにアメリカでは、あのアマゾンがボーズとタッグを組んでノイズリダクション機能とAIアシスタントのEchoを内蔵した完全ワイヤレスイヤホン「Echo Buds」を発売しました。ボーズ自身の製品では、“高性能なノイズキャンセリング機能”を搭載して2020年に発売を予告している「Bose Noise Cancelling Earbuds 700」の詳細も気になります。

アップルのAirPods ProとソニーのWF-1000XM3の対決から幕が開けた「アクティブノイズキャンセリングイヤホン戦国時代」、2020年にかけて目が離せなくなりそうです。