アクティブノイズキャンセリング機能を搭載したアップルの完全ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」、最大のライバルといえるソニーの「WF-1000XM3」と実機を聞いて比較し、違いをチェックしました。

  • ノイズキャンセリング機能を搭載したアップルの完全ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」

    アップル「AirPods Pro」。実売価格は税込み3万円前後

ANC機能付き完全ワイヤレスイヤホンに進化したAirPods Proを、現在最大のライバルといえるソニーの「WF-1000XM3」と出来映えを比べなら迫ってみたいと思います。AirPods Proの単体レビューもぜひ合わせてお読みください。

  • ソニー「WF-1000XM3」。実売価格は税込み2万6000円前後

AirPods Pro、なぜアクティブノイズキャンセリング機能を搭載したのか

これまでのAirPodsは開放型のハウジングを採用しており、クリアでヌケが良く、こもりの少ない音が楽しめるイヤホンとして人気を集めていました。iPhoneに付属する有線タイプの「EarPods」も同じ開放型ハウジングのイヤホンです。

  • ロングヒットを続ける、おなじみの「AirPods」

  • AirPodsは開放型ハウジングを採用している

AirPodsは音質の面でも評価の高いイヤホンですが、構造が開放型だけに、バスや地下鉄、飛行機の中など、音量の大きな騒音に囲まれる場所では、音楽の低音や高音が若干聴きづらくなることを指摘する声がありました。ハウジングを密閉型とし、さらに耳栓タイプのイヤーチップを組み合わせれば、イヤホンの遮音性を高めることができます。新しいAirPods Proは、密閉型ハウジングと耳栓タイプのイヤーチップに加え、なんとアクティブノイズキャンセリング機能(以下、ANCと略す場合もあります)まで搭載してきたのです。

リスニング環境周囲の騒音だけを消してくれる機能は、イヤホンに搭載されていると便利である反面、有効にすると周囲の音が聞きづらくなり、特に歩きながら使うことが難しくなります。そこでアップルは、AirPods ProにANC機能を搭載するだけにとどまらず、イヤホンに内蔵するマイクで周辺の環境音を取り込みながら音楽が聴ける「外音取り込み」の機能も合わせて搭載し、心地よく安全な音楽リスニングを可能にしました。高い没入感が味わえる遮音性能の高いイヤホンを安全に使えるようにするため、アップルは密閉型・耳栓タイプのAirPodsを飛び越えて、一気にANC機能の開発・採用に踏み切ったのではないでしょうか。

AirPods ProとWF-1000XM3をさまざまな視点で比べてみた

アップルのAirPods ProとソニーのWF-1000XM3は、完全ワイヤレススタイルの特徴を活かしたアクティブノイズキャンセリング機能搭載のイヤホンとして、まさに人気を二分する代表製品といえます。両方の製品を試した筆者が、各モデルで気がついた点をまとめてみました。

【アクティブノイズキャンセリング機能と遮音性能】

ANC機能をフルに効かせた場合、WF-1000XM3のほうが高・中・低域の各帯域にわたってまんべんなく消音効果が得られる手応えを感じました。本体に付属するイヤーチップを装着したことによるパッシブな消音効果と合わせ、かなりの消音が期待できます。

AirPods ProはANC機能をオンにした際、耳穴の中に発生する不快な内圧を回避するために、ノズルからハウジングの背面側に抜ける小さな通気孔を設けています。そのためなのか、WF-1000XM3に比べると消音効果はややソフトで、バランスの良さを重視したチューニングに仕上がっています。ANC機能のオン・オフを切り換えた時に発生する内圧は、AirPods Proのほうがより違和感が少ないと感じました。

どちらのイヤホンも、ハウジングの内外両側にマイクを載せ、リスニング中の音楽信号に混ざる環境ノイズ成分だけを解析・消去するハイブリッド方式のANC機能を搭載しています。AirPods Proは、変化する周辺ノイズのコンディションに対して常にベストな消音効果が得られるよう、イヤホンが自動調節してくれる手軽さが魅力。ソニーのWF-1000XM3は、アプリからANC機能と外音取り込みの強弱のバランスが好みに合わせて20段階で変えられます。このマニュアル調整のメニューに、ユーザー独自のこだわりを反映できます。

  • WF-1000XM3は、ノイズキャンセリングの効果を20段階から設定が可能

【装着感】

最適な遮音効果と心地よいサウンドを得るためには、イヤーチップを耳の奥まで挿入してしっかりとホールドさせることが肝要です。AirPods Proは、付属の3種類のシリコン製イヤーチップから適切なサイズを選べば、誰でも簡単に正しく装着できるイヤホンです。iOSの設定アプリから「イヤーチップ装着状態テスト」の機能を走らせると、イヤホンの装着状態をセルフチェックできるのが便利です。

  • AirPods Proは「イヤーチップ装着状態テスト」の機能を使い、正しく装着できたかをチェックできます

WF-1000XM3は、AirPods Proに比べるとイヤホン本体のサイズがやや大きいため、自分の耳に合うサイズのイヤーチップを選んで正しく耳に装着することがベストパフォーマンスを引き出すための大事なファクターになります。以前に本機のレビューでも紹介した、ソニーが公開しているWF-1000XM3の装着方法を紹介する動画がよいお手本になるので、参考にしてみてください。

【音質】

音質については、どちらの製品もイヤホンに由来する余計な色づけがなく、ソースに収録されているありのままの音楽情報を素直に引き出す方向にチューニングされていると感じます。

ソニーのWF-1000XM3は、きめ細かな音の質感の再現力に富んでいます。特に、専用アプリ「Sony Headphones Connect」で、圧縮音源のサウンドを独自のアルゴリズムにより補完しながらハイレゾ相当の音質にアップコンバートする「DSEE HX」の機能をオンにすると、ボーカルやアコースティック楽器の音色に心地よい温かみが乗ります。

  • WF-1000XM3は、モバイルアプリ「Sony Headphones Connect」で細かなノイズキャンセリング機能の調整や、イコライザーなど音質に関係するセットアップが行えます

AirPods Proは、ひずみがなく伸びやかなミドルレンジとパンチの効いたタイトな低音再生に惹かれました。筆者の好きなJ-POPにもよく合います。従来のAirPodsに比べると、ビートの利いたロックやEDM、力強いジャズのベースラインが、騒音に囲まれる場所でもとても聞こえやすくなっていて、グルーブ感を体で味わえる心地よさがあります。

【ワイヤレス接続】

スマートフォンなどの音楽プレーヤーとのワイヤレス接続の安定性については、WF-1000XM3、AirPods Proともに高いレベルにあると感じました。

ソニーのWF-1000MX3は、専用アプリから音質モードと呼ぶワイヤレス接続の品質設定が「音質優先」と「接続優先」から選択できるので、もし混雑する駅前や通勤電車の中などで音切れが気になるようであれば「接続優先」に切り換えてみるとよいでしょう。

AirPods Proは、ごくまれに音が切れることがあったものの、従来のAirPodsと同様にさすがの安定感だと感じます。