2019年7月29日、千葉県・幕張メッセにおいて世界最大級のガレージキットの祭典「ワンダーフェスティバル2019[夏]」が開催された。会場ではプロからアマチュアまで数多くの出展者がオリジナルのフィギュアなどを展示・販売し、コアな愛好者から家族連れまで幅広い来場者で賑わっていた。

イベントには、液晶ペンタブレットや3DCGソフトなどのガレージキット制作に関連するツールを開発する企業も多数ブースを出展しており、新製品の展示やクリエイターによる講演が行われてユーザーの関心を集めていた。ここでは、そのうちワコムブース内の「デジタル原型ステージ」で行われた、「ZBrushとCLOが広げるデジタルファッションデザインの世界」の模様をレポートしよう。

  • ワンフェス2019 ワコム

    ワコムブース内の「デジタル原型ステージ」で行われた講演「ZBrushとCLOが広げるデジタルファッションデザインの世界」の様子

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    3Dモデリングデータを活用してデザインされた服の一例

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    たくさんの花をあしらったワンピースだ

フィギュアがファッションデザインの新たな可能性に

ステージに登壇したのは、文化学園大学服飾学部教授の高村是州氏と、株式会社ユカアンドアルファの笛木愛美氏。笛木氏はアパレル3D着装シミュレーションソフト「CLO」のインストラクターも務めている。

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    文化学園大学服飾学部教授の高村是州氏

講演では、まず高村氏によって服飾(ファッション)の概念や歴史、ファッションデザインの表現方法の変遷などが語られた。

高村氏によると、英語の「ファッション」は元来「流行」を意味していたが、もっとも流行のサイクルが早いのが服飾であったため、ファッション=服飾という概念が生まれたとのこと。

ファッションデザインが大きく変化したのは19世紀中期以降で、まずデザイナーが服をデザインしてモデルに着せて見せ、上流階級の顧客が選んだものをその体のサイズに合わせて作る「オートクチュール(高級注文仕立服)」が誕生した。

20世紀初頭になるとオートクチュール組合により年2回のファッションショーが開催されるようになり、ファッションのサイクルが早くなっていく。さらに若者人口の増大と大量消費社会の到来によって、ファッションのアイデアソースを若者文化から取り入れるようになり、1970年代にはビジネスの中心が「プレタポルテ」に移っていった。

その後ヒップホップやプレッピー、ネオ・パンク、ギークなどを取り入れたファッションが台頭していくが、2000年代に入るとアニメやゲームなどの日本のポップカルチャーをベースにしたファッションが続々と登場。そうした中で「無垢で純粋な遊び心」=「子ども」的な感性が求められるようになり、子ども文化が充実する日本の影響が増大していった。

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  • オートクチュールやプレタポルテなど、ファッションの変遷が語られた

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  • 3Dモデリングデータを利用することで、個人の体型にあった服のデザインが容易になる

高村氏は「ポップカルチャーの世界にはファッションデザインの新たな可能性がある」と指摘し、なかでも「フィギュア」に着目していると語った。

その理由として高村氏は「従来のファッションデザインは2Dで表現されてきたが、フィギュアの3Dモデリングデータを使ってデザインすることで、より表現の幅が広がっていく」ことを挙げた。たとえば、自分自身を3Dスキャンしてデータ化すれば、それに合わせて服をデザインすることも可能になる。自分の体型にあったコスプレ服も手軽に自作できるというわけだ。

3Dデータで個人が簡単に服作りできる時代

フュギュアデータを使って服をデザインするにはZBrushなどの3DCGソフトを使えば実現できる。だが、実際に服を製作するにはパターン(衣服製作のための型紙)に展開する必要がある。そこで登場するのがアパレル3D着装シミュレーションソフト「CLO」だ。

同ソフトは3D画面上で服をデザインしたり、パターンに展開したりできるソフト。素材の質感などもリアルにシミュレーション可能で、2Dのスケッチに比べてよりダイレクトに思い描いたイメージを再現できるのが大きな特徴だ。

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    株式会社ユカアンドアルファの笛木愛美氏

いったん作ったデザインやパターンの修正、バリエーションの作成なども容易で、縫製を行う前に画面上で完成状態を確認できるためサンプル製作のコスト削減や生産時間の短縮などにもつながる。

笛木氏は「CLO」を紹介する際、従来の2D工程だとサンプルのリードタイム(発注から納品までの期間)が37日間、サンプル採用率が15%ほどだったのが、CLO導入後はそれぞれ27時間と55%に向上した例を紹介し、3Dデータの活用がファッションデザインの効率化に役立つと語った。

続いて高村氏と笛木氏によって、ZBrushとCLOの連携によるファッションデザインの可能性が語られた。両氏は1960年代の流行であるサイケデリックをテーマにした花柄ワンピースを実際にフィギュア化し、ZBrushデータをCLOに取り込んでパターンに展開する工程を紹介。「クリエイターの自由な創造性を手軽に表現でき、服作りの可能性が広がる」とコメントした。会場には大小の立体的な花のモチーフがあしらわれたワンピースのフィギュアの実物も展示されており、来場者の注目を集めていた。

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    CLOによる3Dシミュレーション(左)と実物(右)。CLOでは、ドレープや生地の質感などもリアルに再現されている

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    文化学園大学服飾学部教授の高村氏(右)と、ユカアンドアルファの笛木氏(左)

ZBrushでフィギュア制作を行っている人のなかには、フィギュアに着せる服やコスプレに関心がある人も少なくないはず。ZBrushとCLOの連携によるファッションデザインにも挑戦してみてはいかがだろうか。

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    サイケデリック調の花柄ワンピースの制作工程が紹介され、会場では、実際に制作された服を着た実物フィギュアも展示されていた。以下に写真を紹介していこう

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