富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、新たな世界軽量に挑戦した。それが、「LIFEBOOK UH95/D2」である。

2018年11月に発表したLIFEBOOK UH-Xは、13,3型モバイルノートPCとして、698gを実現。世界最軽量の座を堅守し、圧倒的ともいえる軽さを、さらに更新してみせた。そのFCCLが、新たに挑戦したのが、ペン内蔵2in1ノートPCでの世界最軽量である。FCCLが2019年7月10日に発表した「LIFEBOOK UH95/D2」は、868gという軽量化を実現し、新たな世界最軽量を樹立してみせた。なぜ、FCCLは、新たな世界最軽量に挑戦したのか。

  • 富士通「LIFEBOOK UH95/D2」

    FCCLが開発した、世界最軽量の13.3型ペン内蔵2in1「LIFEBOOK UH95/D2」

開発の「エース」を集めて挑んだ最軽量

富士通クライアントコンピューティング(FCCL)には、世界最軽量のノートPCを開発するPCベンダーというイメージが定着してきた。

2017年2月に発売したLIFEBOOK UH75/B1が761g、2017年11月に発売したLIFEBOOK UH75/B3が748g、2018年11月に発売したLIFEBOOK UH-Xが698gというように、次々と、13.3型モバイルノートPCの世界最軽量の記録を更新。この分野では他社の追随を許さない。

そして、そのFCCLが、新たな世界最軽量の達成に向けて、開発の「エース」たちを集めて挑んだのが、ペン内蔵2in1ノートPCでの世界最軽量への取り組みだった。

「UH75/B1を製品化した当初から、軽量化した2in1ノートPCが欲しいという声が法人ユーザーから出ていた」と、富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第一技術部 マネージャーの河野晃伸氏は振り返る。

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    富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第一技術部の河野晃伸マネージャー

開発を担当した富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第一技術部の赤見知彦氏も、「業務上、どうしてもタブレットの利用が必要になり、クラムシェル型ノートPCと一緒にiPadを持ち運ぶなど、2台持ちの環境を余儀なくされているユーザーも少なくなかった。軽量化した2in1ノートPCによって、1台持ちで済む提案をしたかった」と語る。

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    富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第一技術部の赤見知彦氏

現場の声は「より軽い2in1が欲しい」

FCCLでは、過去に法人向け2in1ノートPCを製品化していたが、重量は約1.2kgと、モバイル用途としては重たかった。しかし、UHシリーズが登場したことで、より軽量化した2in1ノートPCの製品化に対する要求が一気に拡大したという。

MR(医薬情報担当者)は、忙しい医師の時間を割いてもらい、廊下で立ったまま、ディスプレイを見せながら新たな薬品などを説明する場合が多いという。また、生命保険会社や大学をはじめとする文教分野、銀行窓口での利用などにおいても、タブレット用途で利用したり、ペンで書き込んだりといった使い方が多いという。そうした業種においては、ノートPCとタブレットを2台持ちしないで済ませたり、より軽量な2in1が欲しいという要望が高まってきたのだ。

だが、2in1ノートPCで、軽量化を実現するには、初代UHの技術では限界があった。そこで、FCCLでは、第3世代となるUH-Xにおいて、2in1ノートPCにも応用できるように設計を進めたという。実際、世界最軽量の2in1ノートPCの基板は、UH-Xと同じ基板を使用しており、インターフェース類も基本的には一緒だ。

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    LIFEBOOK UH95/D2の内部

「徹底的に軽量化を追求したUH-Xのリソースをそのまま利用した部分もあった。これまでの経験から、どこをどうすれば軽量化できるといったことが社内にノウハウとして蓄積されており、これらの経験を生かすことできたことが大きい」と、今回の新たな挑戦においては、準備を整えた優位なポジションにあったことを、河野マネージャーは明かす。

タブレット機能を足し算、目標は800g台

698gとなるUH-Xのノウハウは、軽量化の観点だけでなく、モバイル用途で必要とされる堅牢性やバッテリー駆動時間の実現などにおいても活用されている。

「UH-Xの派生として開発した2in1ノートPCが、UH95/D2。UH-Xと比べても、機能や性能は落とさないことを前提にした」(河野マネージャー)と語る。

まず、同社が軽量2in1ノートPCの開発において取り組んだのが、『目指すべき指標の設定』であった。具体的には、重量である。

「既存の法人向け2in1ノートPCの1.2kgからの引き算であれば、1kgを切ることが目標となる。だが、698gのクラムシェル型ノートPCからタッチパネルやヒンジの強化などの要素を加える足し算の考え方であれば、目指す目標は800g台でなくてはならない。基本的な考え方は、UH-Xにタブレットとしての機能を足すという考え方。タッチバネルだけで100g以上増加することなどを考慮し、800g台を目指すことにした」(赤見氏)。

実は、2in1ノートPCでは、NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)が、769gという世界再軽量を実現した「LAVIE Hybrid ZERO HZ500/LA」を投入している。2in1ノートPCで世界最軽量を実現するのであれば、700g台を実現しなくてはならないともいえる。

しかし、FCCLは、これよりも軽くすることをターゲットにはしなかった。

というのも、NEC PCの「LAVIE Hybrid ZERO HZ500/LA」は、指でのタッチ方式であるのに対して、FCCLのLIFEBOOK UX95では、ペン対応としている点が大きく異なる。FCCLが目指したのはペン入力を実現したモバイル2in1ノートPCでの最軽量であった。

  • 富士通「LIFEBOOK UH95/D2」

    NEC PCの13.3型2in1「LAVIE Hybrid ZERO HZ500/LA」。ペン入力には対応していない

「指によるタッチは、資料や地図をビューワーとして利用する際にはいいが、データを操作したり、クリエティブな使い方をする際には、ペンが適している。現場からの声を聞いたところ、ペン入力が必要だという声があがった。ビジネスでの利用を前提とするならば、ペンの採用は必須であると、開発当初から決めていた。ペンを本体に内蔵し、そこで充電機能を持たせることも、最初から決定していたこと」(赤見氏)という。

ペンでも押しやすいよう、ボタンにくぼみも

FCCLでは、ビジネスで利用できる精度を持ったペン対応とするために、ワコム製の4,096階調に対応した高精細タッチパネルを採用。指タッチモデルに比べると、ディスプレイ部のガラス1枚分重くなる。さらには、ペンを本体に内蔵し、自動的にペンを充電できるよう仕様にしたことも、重量の増加につながる。だが、FCCLは、軽量化よりも、これらの機能を優先した。

  • 富士通「LIFEBOOK UH95/D2」

    内蔵できるペンは、本体の薄さを追求したため、直径が5.3mmと細いが、システム手帳に付属するペン程度の直径は維持しており、書きやすさは犠牲にしていない

ペンへのこだわりは、すぐに、ペンでメモができる「Windows Inkワークスペース起動ボタン」を本体に搭載したことからもわかる。

このボタンを押すだけで、すぐに付箋に文字を書いたり、アプリの画面や撮影した写真に、直接ペンで入力することができる。「現場での利用では、ペンを使って、資料や撮影した写真などにさっと書き込むという使い方が意外にも多い。そこで、このボタンを押すだけで、すぐにペンを使えるようにした」(河野マネージャー)という。

そして、「Windows Inkワークスペース起動ボタンの中央部は、ペンでも押せるように、ペン先の太さにあわせたくぼみをつけている」(富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第三技術部 主任技術者の飯島崇氏)と細かい工夫も凝らしている。

  • 富士通「LIFEBOOK UH95/D2」

    Windows Inkワークスペース起動ボタンの中央は、ペンでも押せるようにとくぼんでいる

  • 富士通「LIFEBOOK UH95/D2」

    富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第三技術部 主任技術者の飯島崇氏

一方で、UH-Xでも実現した有線LANポート、フルサイズSD、USB Type-CおよびType-Aをそれぞれ2ポートずつを搭載するといったこだわりは譲らなかった。また、HDMI出力も可能にしており、ビジネス用途で不可欠なインターフェースは、欠かすことなく採用といえる。

単に、2in1ノートPCとして世界最軽量を目指すのではなく、ビジネスシーンで、求められる機能を搭載した上で、世界最軽量を目指すことを選択したというわけだ。

  • 富士通「LIFEBOOK UH95/D2」

    右側面には有線LANやフルサイズのSDスロットが並ぶ