GaNデバイスは、高周波領域で大出力が得られ、かつ専有面積がSiデバイスに比べて小さいという利点のため、RF業界で広く使われるようになってきた。仏Yole Développementは6月24日、GaN RF市場動向に関する最新の調査結果を発表し、その中で、「2018年に6億4500万ドルだったGaN RF市場規模は、今後、年平均成長率21%で成長し2024年には20億ドルに達すると予測される。通信インフラと防衛関連の2つのアプリケーションが今後のGan RFデバイスのけん引役となる」との予測を示した。

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    GaN RFデバイスの用途別市場規模。2018年(左)と2024年(右)の比較 (出所:Yole Développement)

5G特需でGaN RFデバイスにチャンス到来か?

Yoleのパワーおよびワイヤレス担当技術および市場アナリストのAntoine Bonnabe氏は、「世界規模の通信インフラへの投資は過去10年間安定しており、最近の投資額の増加は中国政府の意図的な投資によるものである。しかし、この安定した市場においても、さらに高周波を用いた通信である5Gの登場により、RRH(Remote Radio Head)基地局における6GHz以下の周波数の5Gネットワークでのパワー増幅にGaN RFデバイスが絶好の応用分野となろうとしている」と述べている。

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    現在主流のGaN-on-SiC、今後成長が期待されるGaN-on-Si、特殊用途のGaN-on-Diamondの各RFデバイスの今後の市場予測 (出所:Yole Développement)

GaNは、20年ほど前に商用製品が登場して以来、RFパワー用途としてはLDMOS(Laterally Diffused MOS)とGaAsを相手に、低コスト化と性能ならび信頼性の継続的向上を図ってきた。最初のGaN-on-SiCおよびGaN-on-Siデバイスはほぼ同時に登場したが、現在はGaN-on-SiCのほうが技術的に成熟している。そのためGaN RF市場の主力となっているのはGaN-on-SiCで、4G LTEワイヤレスインフラ市場で活用されてきた実績をもとに、5Gのサブ6Hz領域におけるRRHアーキテクチャに採用されることが期待されている。しかし、より安価なLDMOSの技術進歩も目覚ましく、5Gのサブ6GHzのアクティブアンテナと大規模なMIMO向けにはGaNと競合する可能性が高いとYoleは見ている。

GaN-on-SiCとGaN-on-Siに続き、GaN-on-Diamondも登場

GaN-on-Siのもう1つのターゲット市場は、コンシューマ向けの5Gハンドセット(スマートフォン)のパワーアンプ市場である。採用されれば、今後数年間で新たな市場が開かれる可能性があるとYoleは指摘している。GaN-on-Si製品の立ち上がり次第では、GaN市場でGaN-on-SiCとGaN-on-Siの両方の共存が可能になるという。

また、これら2つの技術に加え、革新的なGaN-on-Diamond技術も実用化に向けた取り組みが進められているという。同技術は、従来のGaN技術と比べてより設置面積が小さく、高い電力出力密度を実現できることから、ハイパワーBTS(ベーストランシーバステーション)、軍事および衛星通信といったパフォーマンスが求められつつも、サイズ制限などが厳しいアプリケーションでの活用が期待されるという。

そうした新技術が登場する一方で、成熟した技術とも言えるGaN-on-SiCは、すでにサプライチェーンが確立しており、RFコンポーネントのトッププレーヤーとしては、住友電工デバイス・イノベーション(SEDI)、米Cree/Wolfspeed、米Qorvoや韓RFHICなどが挙げられるほか、化合物半導体ファウンドリである台WIN Semiconductorsは、積極的にGaN RF製品の受託生産に応じている。

一方のGaN-on-Si RFは、STMicroelectronicsがMACOMと協力して、5G基地局アプリケーションをターゲットに、150mm GaN-on-Siの生産能力の向上と200mmへの拡大を目指している。また、STMicroelectronicsは携帯電話へもGaN-on-Siを適用しようとしており、こうした取り組みがGaN RFビジネスに新たな機会をもたらす可能性があるとYoleは指摘している。

GaN RF最大の市場は宇宙航空・防衛市場

GaN RFにとって最大の市場である宇宙航空・防衛市場では、各国や地域が個別にGaN RFエコシステムを強化している。米国ではRaytheon、Northrop Grumman、Lockheed Martinなどの大手企業が軍事用途のGaNビジネスを推進している。また、ヨーロッパではUMS、Airbus、Saab、中国ではChina Electronics Technology Group(CETC)が軍事向けGaN RF事業を推進している。日本でも、住友電工デバイス・イノベーション、DOWAホールディングス、三菱電機などが防衛向けのGaN RF事業を行っている。

なお、注目される通信インフラ向けGaN RF市場では、安定的なほかのGaN市場と異なり、戦略的な提携や企業買収が相次いでいる。市場のリーダー的なポジションにいる住友電工デバイスイノベーションと米II-VIは、共同で6インチGaN-on-SiCウェハプラットフォームを確立し、5Gの需要の増加に対応しようとしているほか、Creeは、Infineon TechnologiesからLDMOSおよびGaN-on-SiCのパッケージングとテストを含むRF Power Businessを買収するなど、動きを見せている。

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    世界の主要な防衛関連のGaN RFサプライヤと通信関連GaN RFサプライヤ (出所:Yole Développement)