前回の「『EOS R』開発者に聞く 一眼レフEOSから操作性を変えたワケ」に続き、今回も

キヤノンのフルサイズミラーレス「EOS R」の開発陣にうかがった開発秘話をご紹介します。後編の今回は、現行のEOS RやEOS RPでは省かれたボディ内手ぶれ補正機構についての考えや、EFレンズにはないRFレンズの特徴、デザインのポイントなどを語ってもらいました。

  • キヤノンのフルサイズミラーレス「EOS R」。ボディ単体モデルの実売価格は税込み24万円前後

    キヤノンのフルサイズミラーレス「EOS R」。ボディ単体モデルの実売価格は税込み24万円前後

  • 今回お話をうかがったキヤノンのEOS R開発担当者のみなさん

ボディ内手ぶれ補正、今後登場する機種は?

――EOS Rはボディ内手ぶれ補正機構を搭載していませんが、ボディサイズを優先したからなのでしょうか? それとも一眼レフEOSと同じく、手ぶれ補正はレンズ内補正でこなす、という考えなのでしょうか?

山澤氏:EOS Rはトータルバランスを重視し、レンズ内手ぶれ補正のみとしました。

――ボディ内手ぶれ補正機構を搭載すると、どうバランスが崩れるのですか?

山澤氏:ボディが大きくなる、高価になる、ということは簡単に想像していただけると思います。これ以外にも、さまざまな技術的な観点から、今回のEOS Rはレンズ内手ぶれ補正のみとしました。ただ、今後もボディ内手ぶれ補正機構を搭載しないわけではなく、製品のキャラクターに合わせて最適な仕組みを選んでいきたいと考えています。

――ボディ内手ぶれ補正機構がEOS Rのシステムでは不可能なわけではない、ということですね?

山澤氏:はい、不可能ではありません。ユーザーからの要望も多くいただいておりますので、重要な機能だと認識しております。

  • イメージコミュニケーション事業本部 ICB光学開発センター 主幹 今田信司氏

EFレンズではなくRFレンズを使うメリット

――RFシステムでは、「RF24-105mm F4L IS USM」が標準ズームレンズ的な役割を果たしています。しかし、同じ焦点距離とF値の交換レンズがEFマウント版にも存在し(EF24-105mm F4L IS II USM)、EOS Rでもマウントアダプター経由でEFマウント版のレンズを使えば十分、と思っている人も多いと思います。RFマウント版の24-105mmを使うメリットを教えていただけませんか?

山口氏:RFマウント版のRF24-105mm F4L IS USMですが、EFマウント版のEF24-105mm F4L IS II USMよりも全長が約1cmほど短くなっています。EF24-105mm F4L IS II USMをマウントアダプターに装着しますと、RF24-105mm F4L IS USMよりも34mmぐらい長くなります。実際にカメラに取り付けると、サイズ感はかなり違ってきますね。

――(実際に装着した2台を手にしてみて)いや、実際だいぶ違いますねー!

山口氏:もうひとつの特徴として、RF24-105mm F4L IS USMはナノUSMという新しいアクチュエーターを搭載しています。それによって高速なAFと、リングUSMと比べてなめらかで動画に適したAFが実現できています。あとは、レンズ内手ぶれ補正の段数も上がっています。スペックや見かけでは分かりにくいのですが、改良点は多岐にわたっています。

――光学設計が違うので、得られる画質や解像感も違うわけですよね?

前瀧氏:RF24-105mm F4L IS USMは、描写性能を極限まで高めた設計というよりは、取り回しのよさやISの効きなど、全体的なバランスを重視したレンズに仕上げました。ただ、実際にEOS Rで使っていただくと、カメラ内DLO(デジタルレンズオプティマイザ)の搭載や周辺の改良で画質が上がったなぁと感じていただけると思っています。

山澤氏:動体を追う時にEVFの表示をより見やすくする「高速表示」は、RFレンズの装着時にしかできない、といった違いもありますね。ほかにも、EFレンズでは実現できなかった新しい機能があるので、RFレンズを使うことでカメラの性能を十分に発揮できる、とお伝えしたいです。

  • イメージコミュニケーション事業本部 ICB光学開発センター 室長 前瀧聡氏

――そういったRFレンズならではのメリットを感じさせる機能がこれからも増えるといいですね。

佐藤氏:実際、EOS RとRFレンズをお使いいただいているユーザーからは、アダプターを付けて従来のEFレンズを使うより扱いやすいね、という声をたくさんいただいております。そのあたりを、ファンのみなさんにもっと伝えていかなければいけません。

白井氏:ほかにも、RFレンズでは動画の撮影中にカメラ内で電子的に動画の歪曲収差補正がリアルタイムでかけられるようになっています。それもあり、動画をしっかり撮影したい方はRFレンズを使っていただいたほうが表現の幅が広がると思います。

  • イメージコミュニケーション事業本部 ICB光学開発センター 主任研究員 佐藤武彦氏

――RFマウントは、電子接点のピンがEFマウントから増えていますが、どういう役割を持たせているのですか?

山澤氏:今は言えません(笑)。今後できることをいろいろと準備しています。

  • イメージコミュニケーション事業本部 ICB統括第二開発センター 主任研究員 白井邦宏氏

新搭載のFvモードの使いどころ

――EOS Rで新搭載となった露出モード「Fvモード」(フレキシブルAE)は、どういった点で便利に使えるとお考えですか?

山澤氏:Fvモードの搭載も、マルチファンクションバーと同じくEOS Rでの新しい提案の1つとなります。そもそも、EOS Rでモードダイヤルをなくしてモードボタンとしたのは、EVFをのぞきながら露出モードを変えられることを重視したためですが、開発側としてはFvモードにしたまま露出モードを変更することなく撮影する仕組みを考えました。

Fvモードでは、シャッター速度を変えればTvモード、絞り値だけを変えればAvモードというように、さまざまな露出モードをフレキシブルに使っていただけます。マニュアルモードと違う点としては、一発でオート値がセットできるところにあります。あとは、最初Pモード(プログラム)で使い、いろいろなモードに移れるのもメリットだと考えています。

カメラを手にするとEOSだと感じられる

――EOS Rのデザインを検討するにあたっての苦労話などはありますか?

松浦氏:EOS Rは、開発当初から「高画質の観点からレンズは大きくしたい」「操作性も高めたい」「けれどもカメラ本体は小さくする」という目標を定めていました。グリップ内のバッテリーを傾けて収納するなどの工夫で、ボディの巨大化を防ぎつつグリップのホールド性を高めました。

――僕はふだんEOSを使っているのですが、EOS Rはこれだけ構造が違うのに、いざカメラを手にするとその感触から「これはEOSだ!」って分かるんです。この感覚のもとになっているのは何なんでしょうか?

松浦氏:いくつか細かいポイントはありますが、レリーズボタンとメイン電子ダイヤルのポジションが大きいかなと思います。あとは、グリップの中指の上にあるひさしのような部分を深めに設計しているところでしょうか。持ってみて「EOSだね」と感じていただけるのは開発陣にとってすごい褒め言葉で、そこは絶対に変えられないというか守ろうとした部分ですね。

  • デザイン検討のために作成したモックアップ

――あと、デザインの知られざる苦労話などありましたら。

松浦氏:EOS Rの開発にあたって、我々デザイナーが最初に何を考えたかというと、先ほど話に出た「EOSである」ことがまずありました。それでいて、新システムなので、進化し続けている姿を見せなければなりません。

従来の一眼レフEOSは、レンズを装着するとレンズ交換式カメラの要であるマウントが隠れてしまいます。そこで、新システムのRFシステムでは、レンズマウントをしっかり表現したいと考えました。カメラ本体とレンズに共通した金属のシリンダーの意匠を設け、レンズ装着時の一体感を演出するとともに、新システムであることを見た目で訴求するようにしました。

機能的な効果も持たせており、上から見ると指の逃げ場になっていたり、レンズ取り外しボタンを押す際にレンズの角がじゃまにならず押しやすくなっています。この点は、カメラとレンズのデザインを考えるうえで重要視したポイントですね。

サブ電子ダイヤルは復活するのか

――今後、EOS Rよりもボディが大きい高性能モデルが発売されるとしたら、EOS Rで省かれた背面のサブ電子ダイヤルが復活する可能性はありますか?

山澤氏:今回のEOS Rでは新しい操作部材を搭載し、ユーザーのみなさんからさまざまな声をいただきました。それらの要望とカメラの性格などのバランスを考え、一眼レフEOSのようなサブ電子ダイヤルを搭載する可能性もあれば、まったく新しい部材を搭載する可能性もあります。そのカメラに最適で、しかもユーザーの要望にも応えられるデバイスを提供できればと考えています。

高野氏:細かい部分なのですが、RFレンズの外観はユーザーが必要な情報だけを残すという思想にし、EFレンズよりもシンプルに仕上げています。RFレンズは多くの新技術を搭載していますが、それらを記載すると一番必要な焦点距離が分かりづらくなってしまいます。そこで、必要な情報をひと目で識別しやすいデザインにしました。

  • 総合デザインセンター 専任主任 高野盛司郎氏

――本当だ、EFレンズにあった「IMAGE STABILIZER」や「ULTRASONIC」といった技術ロゴがありませんね。というか、F値の表記もないのですか! 鏡筒にあるのは、RF50mm F1.2 L USMのレンズであれば「50」だけなんですね。最後に、EOS Rでアピールしておきたい点はありますか?

山澤氏:EOSシリーズでは初めて、内蔵バッテリーがUSBで充電ができるようになりました。残念ながらUSB給電しながらの撮影はできませんが、バッテリーグリップ内のバッテリーもUSB充電できますので、モバイルバッテリーがあればバッテリー切れの心配を減らせます。

山澤氏:iPad用アプリ「Digital Photo Professional Express」を使うと、カメラの電源がオフの状態でもRAW画像をiPadに転送し、iPad上でRAW現像できます。カメラをカメラバッグに入れたまま、電車の移動中や喫茶店などで手軽に編集作業ができるので、ぜひ使っていただきたいです。

  • イメージコミュニケーション事業本部 ICB統括第二開発センター 大谷内貴彦氏

――ありがとうございました。