キヤノンのフルサイズミラーレス「EOS R」「EOS RP」が好調に推移しています。調査会社のBCNが集計したフルサイズミラーレスの販売台数シェア(2019年4月)では、1位のソニー「α7 III」に続いて2位にEOS RPが、3位にEOS Rがランクイン。先日発表された「カメラグランプリ2019」でも、EOS Rが4位に選ばれました。

  • キヤノンのフルサイズミラーレス「EOS R」。ボディ単体モデルの実売価格は税込み24万円前後

両機種とも、新開発のRFマウントを採用したミラーレスで、一眼レフのEOS DIGITALにはない特徴を多く備えています。2018年10月に販売が始まった一号機のEOS Rについて、カメラの特徴や開発秘話をキヤノンの開発担当者にうかがいました。

  • 今回お話をうかがったキヤノンのEOS R開発担当者のみなさん

光学性能を追求したEOS R

――改めて、EOS Rの「R」の意味をお伺いしたいと思います。

山澤氏:EOS Rの開発コンセプトとして「Reimagine Optical Excellence」を打ち出し、その頭文字の「R」を取っています。日本語では「光学性能の追求」といった意味になります。EOS Rは光学技術や光学性能を重視して作った、ということをお伝えしたく名付けました。

――RFマウントのマウント径は、従来のEFマウントと同じ54mmなのはなぜですか? これよりも大きくする必要はなかったのですか?

山澤氏:マウント径はカメラ側とレンズ側で相反の関係とでもいいましょうか……。カメラ設計者はできるだけ小さくしたい、レンズ設計者はもっと大きくしたい、という要望があり、日々さまざまな議論を交わしあいました。作りたいレンズを仮設計ですべて検討したうえで、このマウント径であれば基準を満たしたものが作れる、ということを追い込んでいき、このマウント径とバックフォーカスが最終的に決まりました。EFマウントと同じサイズになったのは、まったくの偶然ですね。

  • イメージコミュニケーション事業本部 ICB製品事業部 山澤秀雄氏

コントロールリングはEF時代から構想があった

――一眼レフのEOSやEOS Mシリーズにはなかった「コントロールリング」をEOS Rで新たに搭載した狙いは?

山口氏:操作性の向上が第一の目的です。撮影される方の意図を素早く反映できるようにしました。実は、コントロールリングのアイデア自体はEFマウントの時代からあったのですが、今回は通信系を含めて基本設計を一新したこともあり、効率よく搭載できた次第です。昔のメカ絞りのレンズやシネレンズには絞りリングがありましたが、コントロールリングに絞りの機能を割り当てていただければ、それに近い操作ができます。

  • レンズの先端にあるのが、RFレンズの特徴といえるコントロールリングだ

――EFマウントのLレンズでは、一部を除いてレンズの先端にフォーカスリング、根元側にズームリングという不文律のような決まりがあり、どのレンズに持ち替えても使いやすかった覚えがあります。それを崩してまで、今回のRFレンズでは先端部にコントロールリングを装備したのはなぜですか? コントロールリングマウントアダプター経由でEFレンズを装着する際は、コントロールリングが逆にレンズの根元になり、RFマウントのレンズと取り替えるたびに戸惑いを覚えてしまいます……。

山口氏:さまざまな位置を検討して試作を重ねた結果、この4本のレンズについては根本より先端のほうが操作しやすいだろう、という結論のもと先端にしました。ただ、マウントアダプター装着時は物理的に根元にならざるを得ませんので、その点はご理解いただければと思います。

――コントロールリングのクリックをサービス対応でなくすこともできますね。親切な配慮だと感じましたが、もともとそのように決めていたのですか?

山口氏:リングのクリック感の有無も議論を重ねた部分です。どの機能に設定しても操作したことが分かりやすいことを重視し、クリック感はあったほうがいいという結論になりました。一方で、動画を撮られる方はマイクがクリック音を拾ってしまうので、動画撮影が中心の方にとってはクリック感がないほうがよいのは間違いありません。それを考慮し、リングのクリック感はサービス対応でなくせるよう当初から設計していました。

  • イメージコミュニケーション事業本部 ICB光学事業部 山口聖吾氏

マルチファンクションバーを採用した理由

――新設といえば、マルチファンクションバーもありますね。どうしてこの形状や位置になったかや、うまい使い方を教えていただけますか?

松浦氏:あらゆるデザインを3Dプリンターで試作してさまざまな検討を重ねた結果、この形状が最善だと決めました。左右端でのタップやスライドの操作ができる、ということが一目瞭然で分かる形状にすべく、両端をボディから少し盛り上がらせることで「この部分は押せそうだな」と感じさせるデザインにしています。

  • 総合デザインセンター 松浦泰明氏

  • EOS Rの背面。EVF接眼部の右に、タッチセンサー式のマルチファンクションバーを搭載。液晶右にはEOSの特徴であるサブ電子ダイヤルの代わりに4方向ボタンを配置した。近ごろのトレンドであるスティック型デバイスは搭載しない

――背面のサブ電子ダイヤルをはじめ、一眼レフEOSの操作性のよさはプロ・アマから高く評価されていました。それをあえて廃してまでマルチファンクションバーを搭載した意味は何ですか?

菊田氏:ボディの小型化とEVFをのぞいた状態での操作性のよさを両立する方法として、今回の操作部材を提案させていただきました。また、新しいシステムということもあり、新しい操作部材を使いたいと考えて検討を始めた経緯があります。

  • イメージコミュニケーション事業本部 ICB開発統括部門 主席 菊田恵美子氏

山澤氏:マルチファンクションバーは無音で操作できるので、動画をメインに使われる方にとってはメリットが大きいかと思います。

――ジョイスティック的なコントローラーではダメだったのですか?

山澤氏:スティック状のコントローラーだと、基本的に測距点の移動くらいしかできません。EOS Rは測距点が大幅に広がったので、測距点の変更は液晶を指でなぞってコントロールする「タッチ&ドラッグAF」に任せ、新たな操作性やカスタマイズを提案すべくマルチファンクションバーを採用いたしました。

これまでのEOSではできなかったこと

――一眼レフEOSやEOS Mでは不可能だったものの、EOS Rで実現できた機能は何がありますか?

山澤氏:RF50mm F1.2L USMのレンズ限定ですが、EOS RはEV-6という暗い場所でもAFが効きます。光学ファインダーではまったく見えないような状況でも、EVFで明るくライブビューを確認しながら確実にピントを合わせて撮影できるメリットがあります。

渡澤氏:あと、EOS Rではデジタルレンズオプティマイザが撮影時にカメラ内でリアルタイムに実行できるようになりました。今までは処理に時間がかかりすぎてデフォルトでオンにできなかったのですが、EOS Rシステムでは画像処理エンジンのDIGIC 8の組み合わせによって実現できました。

レンズの収差などが気になって絞り開放では使いづらいシーンがあったと思いますが、デジタルレンズオプティマイザはレンズごとの収差を補正するので、今までよりも絞りを開けたり、ワイド端を攻めた撮影が高画質で楽しめるようになり、撮影領域が広がるのではと考えております。

  • イメージコミュニケーション事業本部 ICB製品開発センター 主任研究員 渡澤泰之氏

――瞳AFの重要度ってどうお考えですか? 人物を撮るカメラマンにとってとても重要な機能で、認識精度が高ければピントをカメラ任せにして構図と表情に集中できるんです。今のEOS Rは、瞳AFがまだサーボAFには対応していないなど、洗練度がもうひとつの観があります。

山澤氏:そのあたりは強化していきたいと思っています。RF50mm F1.2 L USMやRF28-70mm F2L USMなどの明るいレンズはピント精度が求められますが、瞳AFが組み合わせれば歩留まりを確実に上げられると思います。今後、瞳AFはさらに強化していく方針であり、EOS Rシステムの強みにしていきたいと考えています。

※インタビュー後の2019年4月18日に公開された「ファームウエア Version 1.2.0」により、瞳AFのサーボAF対応や、AFフレームサイズ「小」のサーボAFに対応しました。

  • イメージコミュニケーション事業本部 ICB統括第一開発センター 室長 福田浩一氏

次回の後編では、ボディ内手ぶれ補正機構についての考えや、EFレンズにはないRFレンズの特徴、デザインのポイントなどをうかがいます。