車内でプラネタリウム鑑賞、野辺山駅で星空鑑賞会

発車するとすぐに、プラネタリウムの投影と、その日見られる星空の解説が始まる。投影は入れ替え制で、乗車時にもらう整理券に従って、何回かに分けて行われる。

解説を担当するのは、星空案内人(星のソムリエ)の齋藤泰文さん。齋藤さんはもともと国立天文台の技師として、野辺山宇宙電波観測所にある45m電波望遠鏡の運用などに携わっていたという。定年退職された現在でも、同所の4Dシアターの案内人を務めるとともに、今回のようなHIGH RAIL 星空での解説など、さまざまな形で宇宙や天文の広報・普及活動に尽力されている。

「今日はいい天気ですから、きっと素晴らしい眺めになりますよ」と齋藤さん。よどみなく耳心地のいい解説で、その日見える星や星座を教えていただいた。

  • HIGH RAIL 1375

    案内と解説を担当していただいた、星空案内人(星のソムリエ)の齋藤泰文さん

そして19時06分、列車は野辺山駅に到着。ここで約50分間の停車となり、乗客は一度列車から降り、駅から程近い「銀河公園」に行く。そして斎藤さんの解説のもと、星空観察会が始まる。

斎藤さんが太鼓判を押したとおり、この日は見事な快晴で、まさに満天の星空が広がっていた。齋藤さんも「雲も風もない、これほどいい条件なのはめったにありません」と語るほど。

まず南の空に目を向けると、最も見つけやすい、おおいぬ座のシリウスが瞬いていた。オリオン座もひと目でわかり、そのベテルギウスと、こいぬ座のプロキオンからなる冬の大三角もすぐ見つかり、さらには「冬の大六角形」も簡単に見つかった。

ほかの方角に目を向けると、すばることプレアデス星団も見え、カストルとポルックスからなるふたご座も、ぎょしゃ座のカペラも、北極星も、北斗七星も……この時期、この時間帯に見られる目ぼしい星や星座はほとんど見ることができた。

なにより驚いたのは、少し目が慣れてくると、うさぎ座や、いっかくじゅう座といった、都会では見えづらい星や星座もはっきりと見えたこと。星の解説書をそのまま空に映して読んでいるかのような、あるいは「まるでプラネタリウムみたい」という倒錯したたとえが頭に浮かぶほど、素晴らしい星空を堪能することができた。

  • HIGH RAIL 1375
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  • 残念ながら筆者の腕と機材ではうまく星空が撮れないので、プロの方が撮影した写真をご紹介 (提供:JR東日本長野支社)

あっという間に時間は過ぎ、列車の発車時刻が近づいた。後ろ髪を引かれる想いで野辺山駅に戻り、ふたたびHIGH RAIL 星空に乗り込むと、あとは自由時間。ゆったりとしたシートに座り、さっき見てきた星空を思い返すもよし、物販カウンターでお土産を選ぶもよし、プラネタリウム室で本を読むのもよし、とてもリラックスした時間を過ごすことができる。

なお、事前に「オプションプラン」を予約しておくと、このタイミングで特製弁当が受け取れる。駅弁の名店として知られる「丸政」が作っているお弁当で、信州サーモンの手まり寿司、野沢菜むすび、巨峰を使ったお餅など、地元の名産を使った料理を楽しめる。HIGH RAIL 星空に乗るなら、ぜひオプションプランをつけたい。

ちなみに、昼間に走るHIGH RAIL 1号のオプションプランでは地元の名産を使ったブランチが、2号ではスイーツが楽しめる。

また、列車の後ろ寄りの1号車には物販カウンターがあり、ここでしか買えないグッズや、お菓子や飲み物などが購入できる。地ビールや地酒もあるが、残念ながら筆者は仕事のため飲めなかった。

アテンダントさんによると、おすすめは、チョコサンドクッキーとクッションとのこと。クッキーは特製のHIGH RAILオリジナル缶に入っており、缶をペン立てなどに再利用でき、いつでも旅の思い出にひたれる。一方クッションは、HIGH RAIL 1375の座席と同じつくりでできており、見た目も美しく、座り心地も抜群である。

このほかにも、ちょっとした小物や、車内限定の星座ガチャなどもあるので、旅の想い出にぜひ購入したい。

  • HIGH RAIL 1375

    事前に「オプションプラン」を予約しておくと、車内で特製弁当を食べることができる。駅弁の名店として知られる「丸政」が作っているお弁当で、信州サーモンの手まり寿司、野沢菜むすび、巨峰を使ったお餅など、地元の名産を使った料理を楽しめる

  • HIGH RAIL 1375

    車内には物販カウンターがあり、ここでしか買えないグッズや、お菓子や飲み物などが購入できる。おすすめは、HIGH RAILオリジナル缶に入ったチョコサンドクッキーと、HIGH RAIL 1375の座席と同じつくりでできたクッションとのこと

ぜひ一泊して宇宙県・長野県を堪能しよう!

楽しかった旅もあっという間、いよいよ終着駅が近づいてきた。

ここでふたたび中野さんにお話を伺った。

Q:ご乗車されたお客様の感想や、評判などはいかがでしょうか?

A:お客さまからは、「たくさんの星を見られて楽しかった」「また違う季節に乗車しで星空を眺めたい」など感想をいただいています。中には「天気が悪く、星空が見られなかったけど、次回は必ず星空を見に乗車します」というお言葉を頂戴することもあります。お客さまからは好評をいただいていると感じます。

Q:HIGH RAIL星空を今後、どのような列車、サービスにしていきたいか、これからの展望について教えてください

A:2019年7月に、HGIH RAIL 星空は運行から2年目を迎えることとなります。引き続き、乗車されたお客さまに「星空」や「宇宙」に興味を持っていただけるよう、小海線沿線の星空案内人の皆様や沿線地域の皆様と一体となり、列車を育てていきたいと考えています。

そして21時39分、列車は終点の小諸駅に到着した。

なお、ひとつ前の佐久平駅で下車し、新幹線に乗り換えれば、その日のうちに東京に帰り着くことができる。ただ、せっかくなら小諸などで一泊し、長野県を堪能して帰りたいところ。

たとえば小諸市には、城下町よりも低いところに築かれた珍しい「小諸城」の跡(小諸城址懐古園)があるほか、名物の小諸そばも美味しい。また、東へ行けばリゾート地として有名な軽井沢があり、西へ行けば、真田氏で有名な上田城のある上田市などがある。

あるいは、もし翌日も運転日なら、HIGH RAIL 1号や2号に乗って、昼間のHIGH RAIL 1375と小海線を堪能するのもいい。

なかでも、いちばんおすすめしたいのは宇宙施設巡りである。長野県は、野辺山宇宙電波観測所やJAXAの臼田宇宙空間観測所など、宇宙関連の研究施設が多くあり、またプラネタリウムや公開天文施設も多い。このことから同県では、日本の中でもとくに宇宙と関わりが強い県として、「長野県は宇宙県」という合言葉で、宇宙をテーマにした観光や教育を積極的に推進している。

筆者は今回、小海線の普通列車に乗り、まず岩村田駅で下車。歩いて約5分のところにある「佐久市子ども未来館」を訪れた。ここには長野最大級のプラネタリウムがあるほか、NASAの「マーキュリー」宇宙船の熱試験モデルが展示されており、見どころ満載。とくにマーキュリーは、コックピットの中を覗き込めるほどまで近づけるため、その小ささを存分に感じられるほか、細部までじっくり観察できる。

ひとしきり堪能したあと、ふたたび小海線に乗り、昨夜の想い出の場所である野辺山駅で下車。徒歩40分ほどのところにある野辺山宇宙電波観測所を訪れた。ここでは、大迫力の45m電波望遠鏡のほか、ミリ波干渉計、電波ヘリオグラフなどが間近で見ることができ、インスタ映えも抜群。また、展示の解説も充実しており、電波天文学や、電波望遠鏡の仕組み、研究内容や成果について、詳しく、わかりやすく学ぶことができる。

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    小海線・岩村田駅から歩いて約5分のところにある「佐久市子ども未来館」には、NASAの「マーキュリー」宇宙船の熱試験モデルが展示されている

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    コックピットの中を覗き込めるほどまで近づけるため、その小ささを存分に感じられるほか、細部までじっくり観察できる

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    小海線・野辺山駅から徒歩40分ほどのところにある野辺山宇宙電波観測所も訪れた。ここでは、大迫力の45m電波望遠鏡などが間近で見ることができ、展示の解説も充実しており、電波天文学や、電波望遠鏡の仕組み、研究内容や成果ついて、詳しく、わかりやすく学ぶことができる

  • HIGH RAIL

    同所に入ってすぐのところに立ち並ぶミリ波干渉計。現在、科学運用は終了している

このほか、タクシーやレンタカーでしか行けないが、もし時間があれば、JAXA臼田宇宙空間観測所や、新たに建設中の美笹深宇宙探査用地上局(GREAT)なども訪れたいところ。

美しい星空と数多くの宇宙施設に囲まれた、宇宙県・長野県を走るHIGH RAIL 星空。日常からのリフレッシュにも、宇宙の勉強にも、信州観光の一部としても、どんな形でも楽しめること請け合いである。

参考

JR東日本旅客鉄道株式会社 長野支社 | HIGH RAIL1375
JR東日本旅客鉄道株式会社 長野支社 | HIGH RAIL 星空
長野県は宇宙県
国立天文台 野辺山
佐久市子ども未来館 sakumo(サクモ) のホームページへようこそ!|信州・佐久

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info