Hynix、そして東芝メモリを買収、次の標的は?
一方のSKグループだは、創業者一族の崔泰源(チェ・テウォン)会長が半導体こそ未来の成長産業ととらえて、2012年にHynixを買収してSKテレコム傘下の企業としてSK Hynixと社名変更した経緯がある。
Hynixは2001年に経営破たんし、その後も業績が低迷していたが、いまや売上高でSamsung、Intelに次ぐ世界3位の巨大企業に成長している。さらに、2018年には東芝メモリにも資本参加した。東芝メモリは、米韓日の企業コンソーシアムに約2兆円で買収されたが、SK Hynixは、このうち3950億円を出資した。経済産業省の意向もあり、最初の10年間は、SK Hynixは15%を超える東芝メモリの議決権保有は制限される契約になっているようだが、東芝メモリのオーナーの中で唯一の半導体メモリメーカーとして将来は東芝メモリの経営権を握る可能性が十分ある。
SK Hynixと東芝メモリは、現在、次世代新型メモリといわれるMRAM(磁気抵抗ランダムアクセスメモリ)および次世代プロセス技術のひとつであるナノインプリント・リソグラフィの共同研究を行っており、両社は良好な関係にある。
さらに、SK Hynixは、ロジック半導体ビジネス強化のため、韓MagnaChip Semiconductor(登記上の本社はルクセンブルグ)のファウンドリ事業および清州(チョンジュ)工場の買収を検討していると韓国メディアは伝えている。同社は現在この件に関してコメントを避けている。
MagnaChipは、Hynix(SK Hynixの前身)から2004年に分離独立したシステムLSIメーカーで、当時、経営破たん状態だったHynixがメモリ事業に集中するため手放したわけだが、非メモリ事業強化のためにMagnaChipを買い戻したいようだ。現在、MagnaChipの株式の8割を海外投資家が所有しており、中国ファンドも買収に関心を寄せているといわれている。
現在、SK Hynixは、非メモリビジネス強化策の一環として、CMOSイメージセンサおよびファウンドリ事業に注力し始めているが、まだまだ巨象Samsungと勝負できるまでには成長していない。
CMOSイメージセンサに関しては、従来の200mmウェハに加えて300mmウェハを用いた量産を利川本社工場M10ラインで行っている。ファウンドリ事業に関しては、SK Hynix System ICという子会社を韓国清州(チョンジュ)工場内に設立し、遊休状態だった200mmファブを使ってファウンドリサービスを始めていた。しかし、韓国内ではファブレスが育っておらず、顧客が少ないため、中国無錫市地方政府の投資会社と共同で、無錫にファウンドリ向けファブを建設中で、今後、中国市場で勝負をかけることにしている。
中国無錫工場の拡張でDRAMの生産能力を倍増
またSK Hynixは、2019年4月18日、中国江蘇省の無錫工場でDRAM製造ライン(C2)の拡張第2期工事(C2F)の竣工式を開催した。
これにより同社の無錫工場における300mmウェハ生産能力は月産18万枚に達し、売上高は年間33億ドルにのぼる見込みとなった。C2ラインは300mm DRAM製造ラインとして2006年から稼働を開始、その後、需要増とプロセスの微細化に対応するため、2016年から新棟であるC2Fの建設を進めてきた。C2Fの建屋面積はC2と同じ5万8,000m2であるから、将来に備えて建屋面積は倍増したことになる。現在, C2Fには1ラインが導入されており、今後市況をみながら、クリーンルームを拡張していくとしている。
SK Hynixは、現在、利川(イチョン)本社工場内にも新たなメモリファブ(5万3000m2)を建設中で、2020年10月に竣工予定である。投資額は3.5兆ウォン(約3500億円)。生産品目は、いずれ市況を見て決めるとしている。 SK Hynixは、Samsungとの生産能力差を縮めようと、2018年にSamsungが投資を凍結し、生産調整している間も積極的な増産に打ってでた。この新たなファブも、短期的な好不況サイクルに関係なく、将来に向けた投資の一環である。
12兆円を投じて世界最大級の半導体工場群の建設へ
さらにSK Hynixは、総額120兆ウォン(約12兆円)を投じてソウル近郊の京畿道龍仁(ヨンイン)に、世界最大とも言われる半導体工場群(Semiconductor Cluster。448万m2)を建設することを決めている。
ここに当面4つの半導体製造棟(ファブ)を建設し、月産80万枚規模の300mmウェハを処理するという。生産品目は、主力のDRAMに加えて、東芝メモリと共同開発中の次世代メモリや将来強化しようとしているシステムLSIなどになるのではないかと業界関係者は見ている。
環境アセスメントや住民への説明などの手続きを経て2022年に着工し、2024年に一部稼働開始する予定である。1万7000名の直接雇用が新たに生まれるだけではなく、この半導体団地には協力企業50社以上が入居し、雇用効果は約10万人とも言われている。
新たな半導体製造拠点として、ソウル近郊の龍仁市を選んだ理由として、韓国半導体工業会(半導体企業のほか、装置材料メーカー、サービスベンダーを含む)に属する半導体関連企業の85%がソウル近郊に位置しており、今後、これらの企業の協力を得るのに便利だからとSK Hynixは述べている。
龍仁のSK Hynix半導体クラスタは本社・研究開発センター・DRAM主力工場のある利川(イチョン)と、NANDの主力工場がある清州(チョンジュ)の中間地点に位置し、この3拠点がトライアングルを形成し、互いに行き来しやすい位置関係にあるともSKの関係者は説明している。
韓国政府は、SK Hynixの半導体クラスター計画が支障なく遂行できるように、いくつのも部局からの出向者で構成された専従支援チームを作って全面的に支援すると表明している。
SKグループとしては半導体材料分野にも進出
加えて、SKグループ全体としては、半導体製造に留まらずに半導体材料業界にも進出を試みている。2016年には半導体製造に必要な三フッ化窒素(NF3)や 六フッ化タングステン(WF6)などの特殊ガスに強みを持つ韓OCI Materials(現SK Materials)を買収。2017年には、韓国唯一のシリコンウェハメーカーであるLG SiltronをLG財閥グループから買収しSK Siltornに社名に変更している。
SK Siltornの最大顧客は現在、国内2大半導体メーカー(SamsungとSK Hynix)だが、東芝メモリはじめ広く海外にも出荷しており、今後は、SK財閥による投資資金により生産能力を拡大し、信越半導体、SUMCOに次ぐ世界3位の地位を固めたいとしている。
このように、SKグループは、崔会長主導のもとに、積極的なM&Aにより半導体事業だけではなく、半導体周辺事業も手中に収めて、半導体ビジネスに未来をかけているように見える。文大統領が4月30日に宣言したように、韓国がいままでの「メモリ強国」から将来「総合半導体強国」に発展できるか注目される。