フルサイズミラーレスカメラが席巻していた今回のCP+2019。特に、最大のブースを構えていたソニーがフルサイズミラーレスで圧倒的なシェアを持っており、スタンダード的な存在になっています。

それに対抗するのが、フルサイズミラーレスでは後発となるニコン、キヤノン、パナソニックです。特に、一眼レフカメラでは王者だったキヤノンとニコンの両社が追う立場となっているのが興味深いところです。両社のブース展開から、フルサイズミラーレスの戦略や課題を追いました。

  • CP+2019のキヤノンブース

    フルサイズミラーレスを中心とした展示だったキヤノンのブース。ニコンも同様に、フルサイズミラーレスに力を入れていました

キヤノンブースの中心は、3月14日に発売するフルサイズミラーレスカメラ「EOS RP」です。ボディ単体で税別16万円台という低価格と、上位モデル「EOS R」よりも大幅な小型軽量化を実現した意欲作です。

  • キヤノンのEOS R(右)とEOS RP(左)。コンパクトなEOS RPには「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」が似合います

個人的には、2003年に登場したデジタル一眼レフカメラ「EOS 10D」を想起したのですが、「EOS Kiss Digitalの再来」という声も多いようです。どちらも低価格で市場を沸かせたモデルで、EOS 10Dは当時30万円を超えていた同クラスで、いきなり20万円を切ってきました。EOS Kiss Digitalは2006年の登場で、圧倒的な低価格化と小型軽量化によってデジタル一眼レフカメラの市場を切り拓いたモデルです。

これら両モデルはAPS-Cサイズのセンサーを搭載したカメラでした。それが今回、フルサイズセンサーを搭載して安価に、しかもコンパクトなサイズで登場したことは、市場の拡大につながる大きな一歩といえます。キヤノンも力を入れており、ブースでは豊富な台数を用意して撮影体験できるコーナーを設けていました。それでも長蛇の列となり、来場者の注目の高さがうかがえました。

同様に、フルサイズミラーレス「Nikon Z」シリーズ中心のブース展開をしていたのがニコン。ボディは、昨年発売済みの「Nikon Z 7」「Z 6」の2機種ですが、新たに追加した「NIKKOR Z 14-30mm f/4 S」と「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」の2本が試写できるようになっていて、多くの人が詰めかけました。

  • こちらはニコンのZ 6。レンズは新レンズのNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sです

それ以上に注目を集めていたのが、「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct」です。ボディと同時発表ながら、いまだに発売日が決まっていないレンズですが、会場で撮影体験コーナーが設けられており、ブース最大の注目を集めていました。初日には、撮影コーナーの脇に設置されていた同レンズ、行列があまりにも長くなって通路をふさいでしまったことから、翌日からは撮影コーナーの中央に移動したという点も、注目度の高さにふさわしい逸話といえます。

  • 注目の的だったNIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct

キヤノンとニコンの新ミラーレス、普及の課題は

キヤノンとニコンの新たなフルサイズミラーレスは人気ですが、マウントが一新されることからまだユーザーは少ないのが実情。マウントアダプターを開発するサードパーティのブースで話を聞いたところ、「会場で両機種を手にした人をまだ見かけていない」というほどの「レア度」です。

気になるのが、両社の交換レンズのラインアップです。そもそも新マウントなので充実するには時間がかかるとはいえ、まず用意されているのが高額なレンズ中心なのがいただけません。

キヤノンは、RFマウントレンズを4本発売していますが、もっとも安い「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」でも実売価格は63,000円前後(税別)、標準ズームの「RF24-105mm F4 L IS USM」は138,000円前後(税別)となかなかのお値段。ニコンのZマウントレンズは、先日発表した2本を含めて5種類を用意。もっとも安い「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」は72,500円前後(税別)、標準ズームの「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」も118,000円前後(税別)と、こちらも高価です。

キヤノンのEOS RPはボディを税別16万円台前後と安価に抑えたことで、より手軽にフルサイズを手に取ってほしいという思いを感じさせます。ところがレンズが高額なので、ややちぐはぐな印象を受けます。今後登場するロードマップでも、いわゆる「大三元ズーム」と呼ばれるF2.8通しの3本のズームレンズや、F1.2という明るい大口径単焦点レンズが2019年に登場する予定ですが、手ごろな価格の交換レンズは予定に入っていません。

  • キヤノンのRFマウントレンズ。上段にあるのが現行ラインアップ、下段の6本がロードマップにある新レンズです

  • 開発中のレンズでは注目株のRF70-200mm F2.8L IS USM。小型軽量が見込まれますが、価格は張りそう

唯一、高倍率ズームレンズ「RF24-240mm F4-F6.3 IS USM」がいくぶん手ごろな価格になりそうではあるものの、それでも10万円超えは確実。EFレンズにある50mm F1.8のような安価でコンパクトな単焦点レンズや、キットレンズのような安価なズームレンズがほしいところです。

ニコンも会場で交換レンズのロードマップを公開しており、2019年から20年にかけてNIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctに加え、大三元ズームレンズ、広角レンズ2本、明るい単焦点レンズを発売予定です。

  • ニコンのZマウントレンズ。奥の3本が現行レンズ、その隣にNIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctがあり、新レンズの2本が続いています。それ以降が開発中のレンズです

  • ニコンのレンズロードマップ。値が張りそうな大口径タイプが中心

  • 開発中のレンズのモックアップ。こちらは24mm f/1.8、85mm f/1.8、70-200mm f/2.8。どれも比較的大ぶりのレンズです

このように、キヤノンのRFマウントもニコンのZマウントも、価格はさておき高画質寄りになっているのが気になります。両者とも、新マウントの高画質化に自信を見せますが、当然ながら高画質なレンズは高価になりがちです。

ソニーは、Eマウントレンズのラインアップが充実しているうえ、キットモデルならばボディ単体モデルの+2万~3万円で入手できる標準ズーム「FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS」などの低価格レンズも用意しています。

  • すでに主要なレンズは出そろったソニーのEマウント

さらに、ユーザー数が増えたことでサードパーティの参入も多く、安価な交換レンズが続々と登場するなど、好循環に入っています。キヤノンとニコンの新マウント対応レンズも一部で出展されていましたが、やはりまだ絶対的な種類が足りません。

  • SAMYANGのブースには2本のRFマウントレンズが展示。こちらは14mm F2.8 RFで、予想実売価格は5万円前後。2019年春の発売予定とのことです

  • こちらは85mm F1.4 RFで、予想実売価格は4万円前後。こちらも今春発売を見込んでいます

「フルサイズミラーレスではチャレンジャー」というキヤノンのコメントにもあるとおり、強い意気込みでフルサイズミラーレスに取り組む姿勢を見せていたキヤノンとニコン。現状では「後回し」感がありますが、幅広いユーザーにアピールするための安価な製品を中心に、交換レンズの充実が求められているのは間違いないでしょう。

  • ちなみに、ケンコーブースにはZマウント用(左)、RFマウント用のデジタルオート接写リングが展示されていました。2019年夏の発売予定だそうです。こうしたアクセサリの拡充も重要でしょう