昨今、クラウドは多くの企業におけるデジタル変革の戦略に不可欠となっているものの、複雑性の観点から基幹システムのクラウド移行に難色を示す企業が多いのも事実だ。本稿では、2月12日~14日に開催された「IBM Think 2019」の2日目に行われた「Journey to Cloud」と題した基調講演の模様をレポートする。

クラウド第2章は基幹システムの移行

初日に講演したIBM Chairman President and CEOのGinni Rometty氏は「現状では企業のアプリケーションは平均して20%のワークロードでしか動いていないのです。残りの80%は基幹アプリケーションであり、モダナイズするべきです。クラウド時代が過ぎ、ミッションクリティカルの領域に移動しています」と指摘している。

これは、企業ではアプリケーションとワークロードの近代化、およびベンダーロックインとデータのサイロ化を克服することに苦しんでいる状況だからだという。

そのような状況を踏まえ、IBM Cloud and Cognitive Software SVPのArvind Krishna氏は「クラウドの第1章はアプリケーション、インフラの節約などがありました。第2章は、基幹システムをクラウドに移行することです。クラウドの未来はオープンであり、そこには2つの重要な理由があります」と話す。

  • IBM Cloud and Cognitive Software SVPのArvind Krishna氏

    IBM Cloud and Cognitive Software SVPのArvind Krishna氏

1つ目は、すべてのワークロードが平等だということは嘘であり、一般的には40%がプライベートクラウド、60%がパブリッククラウドとなっており、この割合は各業界で異なり、規制が厳しければプライベートクラウドが多く、規制が比較的緩ければパブリッククラウドが多くなるという。オープンであることは選択と最適化に関して重要であり、だからこそ同社はKubernetesなどをサポートし、ハイブリッドクラウドのワークロードを最適化するとしている。

2つ目は、ワークロードを最適化するだけでなく、どこの環境でも運用を可能とし、固定しないことであり、データとワークロードをクラウドで統合する際の課題としてはマルチクラウドの環境でどのように管理するのか、ということだという。

”管理”の側面から考えれば、同社では「IBM Services for Multicloud Manager」の提供により、クラドの可視化と管理ができ、IBM CloudやAmazon Web Services(AWS)、Microsoft Azureなど、そのほかのクラウドプロバイダーが提供するコンテナクラスタでも利用を可能としている。

また、レッドハットの買収により、これらのケイパビリティは拡張されることに加え、「IBM Cloud Integration Platform」は、すべてのクラウドのワークロードを統合するほか、「IBM Cloud Hyper Protect Services」は、あらゆる環境のデータを保護するという。

ここでVMware CEOのPat Gelsinger氏が登壇し、クラウドへの移行や今後の展望に関してKrishna氏と意見を交わした。

  • VMware CEOのPat Gelsinger氏

    VMware CEOのPat Gelsinger氏

まず、Gelsinger氏は「今日、マルチクラウドの時代となり、ユーザーはマルチ/ハイブリッドクラウドのケイパビリティが必要だと考えています」と、指摘。

そして、同氏は「マルチ/ハイブリッドクラウドは未来への架け橋だと思います。これには3つの法則があり、物理的な法則と経済の法則、地理の法則です。特に地理の法則は、例えばその国独自の規制を考えてワークロードを検討しなければなりません。適材適所で、ユーザーの要求に柔軟に対応し、最適解を提案するのです」と続けた。

クラウドの可視化と管理を可能にするKubernetes

Gelsinger氏の後に登壇したのはIBM Cloud VP兼CTOのHillery Hunter氏だ。同氏は「世界中でデジタル変革としてクラウドへの移行が進んでいます。クラウドへの移行は、それぞれの特徴があり、特定のスキルや各業界の専門能力、理解が必要ですが、正しい方法やツールにより、移行がより加速するでしょう」との認識を示す。

  • IBM Cloud VP兼CTOのHillery Hunter氏

    IBM Cloud VP兼CTOのHillery Hunter氏

これは、クラウドへの適応はワークロードをデリバリし、必要なカ所に配置できるということであり、異なるビジネスのニーズに合致することを可能としているということだ。しかし、Hunter氏は「デプロイメントのケイパビリティにはコンピューティングも必要になり、管理する上で課題が生じます」と話す。

クラウドの可視化と管理を分散型のコンピューティングの中において、どのように実行していくかはクラスタやソフトウェアの違い、オンプレミス、オフプレミスとあるものの、コンテナ技術はこれらを管理することを可能としている。

同氏は「Kubernetesは多様性と伸縮性を考え、デプロイしています。例えば小売店、銀行などは世界中にオフィスやホームページがあり、基本的には複数のパブリッククラウドだけではなく、プライベートクラウドも含まれています。IBM Services for Multicloud ManagerはKubernetesベースのアプリケーション、ワークロードの可視化と管理をどの環境でも可能としているのです」と、強調していた。