2018年もAppleはモバイル、PC、エンターテインメント、ヘルス、小売り、エンタープライズと幅広い分野で注目を集め、全ての製品で充実したラインナップを揃えました。しかし、終わってみると不安要素が残る一年になりました。8月に米企業として初めて時価総額1兆ドル超えを果たしたものの、11月以降に株価が大きく下落、Microsoftにトップの座を明け渡しました。数年後に、2018年はAppleが新たな成長戦略の一歩を踏み出した年と評価されるかもしれません。逆に、ピークを過ぎて減速が始まった年になる可能性もあります。Appleの今後は果たしてどちらなのか、前編になる本稿では2018年を振り返り、それを踏まえて後編で2019年のAppleの動きを予想します。

  • Apple株価の2018年の推移

    Apple株価の2018年の推移、1年前にもiPhone需要減速の報道から株価が下落しましたが、今回の方が投資家の間に強い警戒感が広がっています

まずは2018年1年間のAppleの主な動向をまとめてみました。

1月:元日にApp Storeの購入額が3億ドルを突破する新記録でスタート
2月:米国、英国、オーストラリアでスマートスピーカー「HomePod」発売
3月:米シカゴで教育テーマのスペシャルイベントを開催。Apple Pencilに対応した新しい9.7インチ「iPad」を発表、iWorkをアップデート。AR体験のアップデート、新しいアニ文字、Health Recordsなどを含む「iOS 11.3」をリリース
4月:「Apple新宿」オープン。「iPhone 8」シリーズの(PRODUCT)RED Special Editionを発売。世界各地にあるAppleの施設の再生可能エネルギーによる電力調達が100%になったことを公表
5月:メッセージのiCloud同期、HomePodステレオペアを含む「iOS 11.4」リリース
6月:開発者カンファレンス「WWDC」で「iOS 12」「macOS Mojave」「watchOS 5」「tvOS 12」「ARKit 2」を発表
7月:「MacBook Pro」アップデート、第8世代Intel Coreプロセッサ搭載
8月:「Apple京都」オープン
9月:秋のスペシャルイベントを開催。「iPhone XS」シリーズと「Apple Watch Series 4」発売
10月:「iPhone XR」発売。グループFaceTimeや新しい絵文字を含む「iOS 12.1」リリース。米ニューヨークでスペシャルイベントを開催、新しい「iPad Pro」「MacBook Air」「Mac mini」を発表
12月:John Giannandrea氏が機械学習およびAI(人工知能)戦略担当シニアバイスプレジデントに就任

2018年のiPhone新モデル、最大の強化点は、7nm製造のSoC「A12 Bionic」でした。CPUやGPUも高速になりましたが、それ以上に機械学習向けのNeural Engineが強化されました。撮影した写真を美しく仕上げ、顔認識やマルチタッチジェスチャーの反応など利用体験全般の向上にも貢献しています。AR (拡張現実)のような、これからスマートフォンが開拓する分野も見通した性能・機能を備えたSoCであり、64bitアーキテクチャに移行した「A7」と同じように、モバイル環境を進化させるSoCと言えます。

  • A12 Bionicは高性能コアがA11より最大15%高速になり、Appleが設計したGPUを搭載、Neural Engineが8コアに増加しました

2018年はiPhoneの大幅刷新の年ではなく、基本デザインはそのままに、高速化や利用体験の向上を図る"S"の年でした。しかし、ラインナップは大きく変わりました。X世代のiPhoneに「iPhone XS Max」という6.5インチの大画面モデルと、XSシリーズと同じA12を搭載する普及帯向けの「iPhone XR」が加わり、X世代が全ラインナップの主流になりました。

  • 普及帯上位の価格になる「iPhone XR」も、XSシリーズと同じA12 Bionicを搭載し、コンピュテーショナルフォトグラフィによる優れた撮影機能を楽しめます

ただし、A12 Bionicプロセッサ、TrueDepthカメラやOLEDディスプレイ、Liquid Retinaディスプレイなど、X世代のiPhoneに採用されている技術はまだ部品コストが高く、またAppleは常に利益を確保する価格に設定するため、X世代へのシフトによってiPhoneの平均販売価格が上昇しました。一方で中国系メーカーが高スペック端末を薄利多売で提供する低価格競争を展開。iPhoneとの価格の差が際立ち、スマートフォンの適正価格と価値の議論が広がりました。

  • 「iPhone 8」シリーズと「iPhone 7」シリーズも価格を引き下げて引き続き販売することで「449ドル」からのラインナップを揃えたものの、人々の興味はiPhone XSシリーズ (999ドルから)とiPhone XR (749ドルから)に集中し、平均販売価格が上昇しています

iPhoneのコンパニオンデバイスと呼べるApple Watchは、「Apple Watch Series 4」で初代から続けてきたデザインを刷新しました。より大きなディスプレイを搭載し、筐体がスリムになっています。新しいS4チップは最大2倍高速になりましたが、使用可能時間はこれまでと同じ、一日中持続します。

初代モデルでファッション性と通知機能、Series 2でアクティビティ/フィットネス、Series 3でセルラー機能と、ユーザーが常に身に着けていられるデバイスとしてApple Watchは着実に進化してきました。Series 4の強化点となったのがヘルス向け機能です。通常よりも高い心拍数に加えて低い心拍数を検知する機能やECG (心電図)など、心拍計に関する機能が強化されました。

  • FDA承認のECG機能を備えるApple Watch Series 4

Series 4に対しては好意的なレビューが多く、スマートウォッチのマイルストーン到達と見なす声も上がっています。ただ、残念ながらECGは今のところ米国のみの提供に限られ、日本ではSeries 4の全ての機能を利用することはできません。医療機器は国によって法令が異なるため、グローバル展開が容易でないことは分かります。しかし、2月に米国で発売されたスマートスピーカー「HomePod」も日本未発売で、今年macOSにも提供が拡大された「News」アプリ、ビデオコンテンツ・サービスを一カ所で管理できる「TV」アプリといったアプリの日本での提供も実現しませんでした。欧米とグローバル展開の格差が年々拡大しているのは気になるところです。

  • 米国、英国、オーストラリアで2月に登場したHomePod。6月にカナダ、フランス、ドイツでも発売になったものの、市場拡大ペースは遅い