TrendForceの半導体メモリ市場調査部門であるDRAMeXchangeは、NANDサプライヤ各社が64/72層の3D NAND製造の歩留まりを向上させたことにより、2018年第3四半期のNAND業界全体のビット出荷数量が増加したとの調査結果を発表した。

一方でNANDの需要は、年末の繁忙期を控えているにもかかわらず低調で、供給過剰状態が続いている。要因は、Intel CPUの供給不足が続いていることと、新しいiPhoneの販売が予想を下回っているためで、ノートPCやスマートフォン向け需要の伸びが鈍化していることにある。また、米中の貿易紛争も、市場全体にマイナスの影響を与えているといえる。

NAND市場は2018年初頭以降、供給過剰傾向が続いていることもあり、第3四半期におけるNANDの大口契約価格は前四半期比で平均価格は10~15%減と、今年に入って3四半期連続での2桁下落を続けている。

DRAMeXchangeのアナリストであるBen Yeh氏は、「NAND市場は、第4四半期も供給過剰が続くと予想されており、さまざまなNAND製品の価格がさらに下落する見込みである。メモリモジュールメーカーとOEMは、すでに北米と欧州の年末のホリデーシーズンの準備が終えたため、在庫を積み増すことには消極的であるほか、米国と中国の貿易紛争も需要減少の要因となっている。特に、エンタープライズSSDとNANDウェハ市場で価格競争が激化している。そうした中、NANDサプライヤは、NANDでの利益を維持するためにエンタープライズSSD市場に集中し、在庫削減を促進するためにウェハ市場に集中している」と市場の動きを説明する。

  • NANDサプライヤランキング

    2018年第3四半期のNAND市場における自社ブランド・サプライヤの売上高ランキング (出所:TrendForce/DRAMeXchange)

またDRAMeXchangeは、NAND大手6社の生産・販売状況や今後の計画に関する調査結果を以下のように報告している。

Samsung Electronics

2018年第3四半期のSamsung ElectronicsのNAND事業の売上高は、前四半期比2.1%増の60億5250万ドルと、年末に向かう繁忙期に需要が予想を下回ったにもかかわらず、旗艦スマートフォン用NANDの主要サプライヤとして存在感を示したほか、PCおよびサーバ向けSSDの出荷台数も増加したことから、出荷ビット数量が20%以上の増加となり、プラス成長を達成した。ただし、市場全体でNANDの価格下落が進んだ結果、同社の平均販売価格(ASP)は前四半期比で約15%ほど下落したという。

また、同社の民生用SSD(チャネル市場向け)は現在、第5世代製造プロセスで製造された3D NANDであるが、今後はPCおよびUFS向けのクライアントSSDにも徐々に適用されていく見通しだ。しかし、2018年の年頭以降、NANDサプライヤからの供給過剰が続いており、同社は2019年にプロセス移行のペースを遅くする見込みである。これは、2019年のNAND市場の主流製品が、 64/72層の3D NANDのままであることを意味することとなる。

SK Hynix

SK Hynixの第3四半期におけるNAND事業の売上高は前四半期比6.0%増の18億3350万ドルで、スマートフォンの季節的要因による出荷台数の伸びとSSD向けの成長で売り上げを伸ばし、平均販売価格は同10%下落と下げつつも、出荷ビット数量を同19%増と伸ばすことで業績を伸ばした。

同社はモバイルストレージ市場分野に注力しており、128GB以上のモバイル機器向けの出荷数量は、ハイエンド仕様のスマートフォンの発売に伴って拡大。同社のビット出荷数量の増加を下支えした格好だ。またSSD向けには72層3D NANDをベースとした製品の販売に注力しており、こちらも業績の拡大に大きく寄与した。

東芝

伝統的な繁忙期による需要増と新しいiPhoneの発売により、第3四半期の東芝の出荷ビット数量は前四半期比で20%を超す増加を達成したが、その平均販売価格は同約15%減となったことから、同社の同四半期業績は合計で同1.9%増の32億ドルにとどまった。

最近の同社の生産能力と技術開発の計画に関するDRAMeXchangeの調査によると、東芝のNAND総出荷数量における64層3D NAND生産比率はすでに70%を超えているという。同社は第6製造棟の拡張により、2019年に生産能力を増加させる計画だが、市場の供給過剰傾向と同社の技術の成熟度を考慮すると、第6製造棟では主に64層3D NANDをベースにした製品が製造される見通しである。

Western Digital

Western Digitalは第3四半期に平均販売価格を前四半期比16%と下げたものの、小売業や流通市場における同社のブランド力と戦略的に低めに価格設定されたSSDの好調から、出荷ビット数量は前四半期比28%増とし、売上高も同7.0%増の25億3400万ドルとなった。

同社は2019年の設備投資を絞り込むことで、将来の生産能力拡大を抑制。それによる供給過剰の打開を図る意向で、この影響から、2019年上半期における3D NANDの生産能力拡大と96層 3D NAND開発の進展が若干減速すると見込まれる。

Micron Technology

Micronの第3四半期業績は、平均販売価格が前四半期比で約15%の下落となったものの、スマートフォン市場を中心とする繁忙期とSSDの売上増加により、ビット出荷数量が同25%を超す増加を達成。その結果、売上高は同14.7%増の22億2900万ドルとなり、大手の中で唯一の2桁成長を達成した。

同社はコスト構造の改善に向け、チャネル市場の製品シェアを減少させている。同社が狙っているのは、高密度ストレージに対する需要を満たすことを目的としたNVMeインタフェースとQLC NANDの両方を搭載した製品のリリースである。また、モバイルストレージ市場では、中国のモバイルベンダとの協力を継続し、中国での商流を拡大させようとしている。

Intel

Intelは、エンタープライズSSD市場において長期的な支配力を持っているため、第3四半期のビット出荷数量は前四半期比10%超と増加傾向となったほか、平均販売価格の下落率も同9%超程度に抑えることに背移行。これにより、NAND事業の売上高は前四半期比でほぼフラットの10億8100万ドルとなった。

また、SSDへの64層の3D NANDの適用が増加、総SSD出荷数量の5割以上を占めるようになっており、それに伴うコスト削減効果により、第3四半期の利益は、今年の最高額を記録したとする。

Intelは、中国・大連工場の第2段階拡張工事により2018年第3四半期から生産能力を増加させたが、フル稼働となるのは2019年上半期の予定である。

その一方で、IntelとMicronが進めてきた不揮発性メモリの分野における協力関係は終了してしまった。 そのためMicronはIM Flash Technologiesの所有権をすべて取得する予定だが、Intelが2020年末までLehi工場(米国ユタ州)での3D XPointメモリの生産に引き続き使用することができる契約にもなっている。Intelは、3D XPointの第3世代品の開発を自社のみで行っており、このタイプのメモリは今後自社内で製造する体制を敷く可能性が高い。