Adobeは、10月15日から17日まで、米国カリフォルニア州ロサンゼルスでクリエイティブの祭典「Adobe MAX」を開催した。ロサンゼルスでの開催は3年ぶりだったが、2015年当時の参加者は6,500人だったのに対し、2018年は14,000人にまで膨れあがった。Adobeは、主力のクリエイティブ製品をサブスクリプション制に転換し、Adobe IDユーザーを増加させ、製品を毎月有料で利用する購読者への転換を図ってきた。

Creative Cloud製品全体を総括するCPO、Scott Belsky氏はサブスクリプション制への移行について「すべてが変わった」と振り返る。それまで、18カ月ごとのメジャーアップデートで最高の製品を届けるよう努めてきたが、現在は1カ月ごとに届ける体制になったと語った。

  • 10月中旬に米国で開催したAdobe MAXにて、フル機能版のiPad用Photoshopが発表された

この戦略は、Adobe MAXへの参加者の増加を見ても、成功していると評価してよいだろう。

モバイルの役割が変わる

Adobe Creative Cloudユーザーの増加には、Adobe IDを保有するユーザーが増えなければならない。そのAdobe IDを作らせてきたのはモバイルアプリだった。

Adobeはこれまで、スマートフォンのカメラを用いてさまざまなモノをキャプチャし、アセットとして活用できるようにする「Adobe Capture」や、Photoshopの画像編集機能を切り出してスマートフォンで利用できるようにする「Photoshop Mix」「Photoshop Fix」といったアプリや、簡単にデザインが作成できる「Adobe Spark」を提供してきた。

これらのモバイルアプリによってAdobeのクリエイティブツールへの興味を持ってもらい、月額1,000円以下の低料金でPhotoshopとLightroomなどが利用できるフォトグラファープランからサブスクリプションに入ってきてもらう、という戦略は鮮やかだった。

しかし2018年、彼らはシフトチェンジをしたようだ。Adobe CEOのShantanu Narayen氏は、「万人にクリエイティブを届ける」「誰もがストーリーテラーになる」というビジョンを基調講演で掲げ、教育にまで言及した。

Adobeは、より身近にクリエイティブツールに触れることができ、誰もがコンテンツを作って学習やビジネスに生かす世界を作り出そうとしている。そのドライバーとなるのは、これまでのデスクトップではなく、モバイルであることは言うまでもない。

つまり、これまでクリエイティブツールに興味を持ってもらう役割が大きかったモバイルアプリが、それだけで作業が完結できるレベルの本格的なワークフローに組み込まれるプロのツールとして、変化が必要となったのだ。

Phil Schiller氏の突然の登壇

Adobe MAX初日の基調講演で意外な人物が登場した。Scott Belsky氏がステージに呼び込んだのは、Appleのワールドワイドプロダクト担当シニアバイスプレジデント、Phil Schiller氏だったからだ。

  • Adobe MAXの基調講演にサプライズで登壇したAppleのPhil Schiller氏(左)

Schiller氏は、2015年のiPad Pro 12.9インチモデルの登場以来、AdobeとAppleが緊密に連携してきたことを明かした。もちろん、両者が長年にわたって深い関係にあったことにも触れた。

その上で、iPadはより強力なパフォーマンスによって、クリエイティブのワークフローにおける重要性を増していることをアピールした。Aシリーズのチップ、GPU、そして可変リフレッシュレートを採用するProMotionに対応したRetinaディスプレイは、プロにとって重要な機能の数々であると指摘。Adobeは当初からiPadの可能性を理解していた、と述べた。

Belsky氏は、2019年までにPhotoshopの完全版をiPadに移植することや、Apple Pencilを生かしたiPad向けドローイングツール「Project Gemini」のリリース、そしてAppleが力を入れるARコンテンツを作成するプラットホームとなる「Project Aero」を紹介し、AppleのiPadがこれまでにないクリエイティブツールに変貌することを予告した。

しかし、Photoshop以前から、iPadはクリエイティブの第一線で活躍するツールに変化しつつあった。2017年には、写真現像アプリのLightroom CCが刷新され、クラウドでの同期が可能になった。デスクトップと同じ写真の編集と書き出しを、タッチスクリーンを生かしたiPadで実現できるようになったわけだ。

2018年の新しいアプリとして、YouTubeなどのビデオ制作にフォーカスした「Adobe Premiere Rush CC」は、デスクトップ、スマートフォン、タブレットのマルチデバイス上でビデオ編集と書き出しが可能になる環境を提供している。

Adobeは、クリエイティブアプリのデータはすべてクラウドにあるべきで、どのアプリからでも共有ができるようになるべき、という思想で各アプリの刷新を続けている。そうしたなかで、iPad Proはパワフルなモバイルデバイスとして、Adobeの戦略の中での重要性を増している。