普通はあまり作業の裏話はご紹介しないのだが、今回はちょっと説明の必要があるだろう。今年(2018年)10月8日、Intelはニューヨークで「Fall Desktop Launch Event」を開催。ここで第9世代のCoreプロセッサとCore-Xプロセッサ、さらにXeon W-3175Xプロセッサのアナウンスを行ったという話は、Yoichi Yamashita氏の記事にある通りだ。

■デスクトップ向け「第9世代Core」登場、メインストリームに8コア16スレッド
■Intel、18コアの「Core i9-9980XE」と28コアの「Xeon W-3175X」発表

  • Intel Core i9-9900Xレビュー

    デスクトップ向け「第9世代Intel Coreプロセッサ」

この発表の「後で」、Intelは各国のレビュアーに対して評価機材の発送を始めた模様で、早いところでは10月10日前後に評価機材が到着、ベンチマークを開始した「らしい」。「らしい」というのは、実は筆者は10月14日からサンノゼ出張を控えており、帰国が10月20日というスケジュールになっており、10月10日前後は連載の前倒し入稿をやってる真っ最中。なので、このタイミングでベンチマークを行って結果をまとめて日本時間の10月19日の情報解禁にあわせて記事を上げる、というのは不可能であった。編集部には伝えてあり、そんなわけで第9世代の話は頭から追いやって出張に出かけたわけである(*1)。

ところが帰ってきてみると、確かに情報解禁にあわせて主要なメディアはいずれもレビューを掲載してはいたものの、肝心の製品が全然出荷されていない状況である。辛うじてCore i5-9600Kのみ「ひっそりと」((c)大塚実)発売されたが、Core i7-9700KとCore i9-9900Kは11月2日にやっと発売になったばかり。後追いで評価記事をお届けしても、これから購入を考えている読者の役に立つであろう、という判断が成立した。

そんなわけで帰国後(10月24日!)からベンチマークを回し始めて、やっとこの記事をお届けできたというわけだ。異様に後出しレビューなのはそういう事情であり、それ以上の意味はないのでご理解いただきたい。近年、ここまで出荷に苦心したプロセッサも珍しい(昨年の Core i9-7980XEですら、もう少しマシだった気がする)。

(*1) 出張中にベンチマークをやる、という荒業は大昔に某同業者が試みたことがあるが、現地で19インチモニタを購入し帰国時に捨てて帰っただの、出張が終わってもまだベンチが終わってなかっただのという、色々な意味で伝説に残る故事があり、試す気にはなれなかった。そもそも出張中はずっと取材をしているので、ベンチマークを回している暇などないのだが。

苦心の第9世代Intel Core

さてラインナップやスペックは先のYamashita氏の記事にあるので繰り返さない。基本的に第8世代Coffee Lakeとの違いは、
・コア数を2つ増やして8コア構成に増強。これに合わせてL3キャッシュ容量は最大16MBに
・TIM(Thermal Interface Material)を従来のグリスからハンダ(Solder)に変更
というのがプレスリリースに明記された違いで、他に
・Meltdown V3(Rogue Data Cache Load)とL1TF(Speculative Side Channel variant L1 Terminal Fault)に対応したハードウェアが搭載(その他の脆弱性はMicrocode+Softwareで対応)
が挙げられる。

ただし、この脆弱性対応のハードウェアの規模は大きくないようで、実際ダイ写真(Photo01)を見比べても、個々のコアそのものの大きさはほとんど従来のCoffee LakeやKaby Lakeと変わっていない(Photo02)。ただ個々のコアのサイズが変わっていないといっても、ダイ全体でいえばだいぶ大型化しているのがここからも分かる。

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    Coffee Lake Refreshのダイ写真。多分配線層の、それでもけっこう下のほうかもしれない

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    上からKaby Lake、Coffee Lake、Coffee Lake Refreshの順。いずれもIntel発表のものを、高さを均一にそろえる形でリサイズして並べた形

Intelはウェハの写真(Photo03~05)も公開してくれているのだが、ここで実際に有効なコア数を数えると、1枚のウェハから取れる個数がCoffee Lake RefreshではKaby Lake比で3割減となっているのが分かる(表1)。ちなみにこの数はウェハ上の欠陥は考慮していないので、実際には取れる数がもう少し減ることになるから、要するにCoffee Lake Refreshは、Kaby Lake世代と比べて大幅に供給量が減る宿命にある。

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Coffee Lakeの時点で、ラフにいって供給量がKaby Lake比で2割減るわけで、そのCoffee Lakeがメインストリームになったときに、Intelの14nmプロセスはかなり逼迫した状態にあった。これに加え、Core-X世代はSkylake-SPのコアを利用するから、こちらもダイサイズはかなり大きく、さらにプロセスを逼迫することになる。そして(Z370以外の)Intel 300シリーズチップセットが22nmから14nmに移行したことで、供給不足は隠し切れないことになった。

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    Kaby Lakeのウェハ。有効ダイ数は509個

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    Coffee Lakeのウェハ。有効ダイ数は411個

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    Coffee Lake Refreshのウェハ。有効ダイ数は344個

今年(2018年)9月28日、Intelは「SUPPLY UPDATE」というリリースを出し、14nmの製造ラインがあるオレゴン(D1D)、アリゾナ(Fab32)、アイルランド(Fab24)、およびイスラエル(Fab28)の各Fabに、合計で10億ドルの追加投資を行い、製造能力増強を行うことを発表した。もとはといえば、2014年に同社が建設予定だったFab42(アリゾナ、14nm)を一旦ホールド、2017年にこれを10nm向けにするべく70億ドルを投資したという判断が間違っていた(ちなみにどちらの判断も前CEOのBrian Krzanich氏によるもの)ということになるが、死んだ子の齢を数えていても仕方がない。

問題は、これによる設備増強が目に見えて分かるようになるのは、早くて2019年末、おそらくは2020年になるということだ。もちろん発表前にこの増強の決断は行われ、水面下で製造装置メーカーと折衝がほぼ終わっているとは思うが、それでも発表直後に装置を納入できるほど、昨今の製造装置のリードタイムは短くない。製品にもよるが、普通は数カ月を要する(長いものだと軽く1年は超えるが、こうした装置だと事前にスケジュールのすり合わせを綿密に行っているから、逆に今回はそこまで長いものはなく、おそらく数カ月で出荷できるだろう)。

ただそれを、アメリカとアイルランドとイスラエルに輸送し、Fabに搬入するのも一苦労である。小型の装置はともかく、大型の装置になるとクリーンルームを一時的に開放する必要があるから、製造そのものを止めなければならない。これが新規建屋に納入だと、装置を入れ終わってからクリーンルーム化を行うから話が簡単なのだが、今回は建屋は増強しないようなので、けっこう大変であろう。

そして納入してからも一苦労だ。何しろ「Copy Exactly」が同社の製造ラインのモットーであり、新規に入れた機器が以前からある機器とまったく同じ結果になるように調整しないといけないことになる。この調整は製造のかたわらでテストウェハを流しながら延々と行うことになり、それなりの期間を要する。

となると、新規に追加した装置が製造ラインに投入できるようになるのは、ラフにいって来年(2019年)の今ごろ。その結果として出荷量が増えるのは2020年の第1四半期かそこら、ということになる。まだ1年以上、14nmラインは逼迫が続くことになる。そこにこのCoffee Lake Refreshが、いわばとどめを刺すかのように投入されるわけで、致命的なまでに供給が足りないことになる。

すでにIntelはH310に関して、22nmプロセスを利用したH310Cというバージョンを投入すると報じられているが、おそらくIntel 300シリーズチップセットを全部22nmに持ち込んでもまだ逼迫は解消しないだろう。個人的には来年位になると、CeleronとかPentiumクラスまで22nmプロセスで製造したものが出てきても不思議ではないと思っている(*2)。

(*2) なんてことを書いている最中に、台湾DigiTimesがまさしくそういうニュースを報じた。もっともこちらでは、チップセットとAtomプロセッサをTSMCに生産委託する、という話で正直それは難しいのではないかという気がするが(昔のAtomはともかく、現行の14nm製造のAtom製品をTSMCにそのまま持ってゆくのは無理だろう)。

もう一つ問題なのは、この第9世代が異様に動作周波数が高いことだ。まぁこれは言うまでもなくAMDのRyzen対抗であって、Core i7-9700KとCore i9-9900KはBase Clockこそ3.6GHzながら、1core有効時の動作周波数は4.9GHz/5GHzに達している。もうほとんどCore i7-8086K並みであるが、異なるのは、Core i7-8086KがCore i7-8700Kをベースにした高動作周波数選別品として提供できるのに対し、Core i7-9700K/Core i9-9900Kはそもそも全部が高動作周波数選別品でないといけないことになる。

そんなに高い動作周波数で全量が回るわけもない。今回で言えば、同じダイを使いながらも、6コア相当でしかも最大でも4.6GHz動作で済むCore i5-9600Kが比較的潤沢に供給されつつも、Core i7-9700K/Core i9-9900Kの出荷が遅れたというのは(出荷可能な数量が全然足りていないらしい)、このあたりに理由がある気がする。

余談であるが、評価用キットとして最初に配られたCPUの中には、All Core状態でBase+1bin(つまり3.7GHz)でしか回らなかったものがあったとか、そもそも評価キットが途中で一度全回収になったとかいう騒ぎがあったらしい(冒頭に書いたように筆者は直接これに関わっていなかったので、伝聞である)というのも、これの傍証になるかと思う。