ベンチマークをやりながら思ったのは、「歴史は繰り返す」である。あるいは、「悪い意味で」すべての新機軸はAMDが先んじたというべきか。

Core i9-9900Kは、「Intelの作ったAMD FX」だと思う。ここで言っているAMD FXは、2013年に発売されたAMD FX-9590のことだ。Desktop初の5GHz駆動ながらTDPは220Wという化け物である。「定格よりもずっと高い周波数で無理やり動作させるて性能を引き上げる」手法の先駆者はAMDであり、結果的にIntelがこれを後追いすることになった、というのは皮肉以外の何物でもない。

もっともAMD FX-9590は、ものすごい速度で空回りしていたのに対し、Core i9-9900Kはちゃんと性能が付いてきているだけマシという見方もできる一方で、AMD FX-9590はきちんとTDPを220Wと表記したのに対し、Core i9-9900KはTDP 95Wというまるで現実味のない数字を掲げているあたり、より悪質という見方もできる。まぁどちらにしても、AMDはCore i9-9900Kの手法を笑うことはできないだろう。

要するに今回の8コア製品、確かに性能はきちんと出ることは確認した。ただしその代償は猛烈な消費電力である。ラフに言えばCore i9-9900Kの場合、TDPは2倍の190W位。Core i7-9700Kも感覚的には170W位のTDPの製品だと思えば良い。このTDPを許容できるユーザーには確かにおすすめである。まぁこれから冬を迎えるw訳で、ちょうど季節にあった製品という見方もできよう。

問題はプラットフォーム。既存のZ370でも動作するという話にはなっているが、この場合は性能が下がる場合があるだろう。マザーボードの供給電力がどの程度か?という話であって、定常的には十分であっても、急に負荷が上がったときとかに間に合うか?という話である。

本気で動かすためには、今回試用したROG MAXIMUS XI HEROのように、ATX12Vが8pin+4pinとか8pin+8pin構成のマザーがやはりほしいところである。Z370などで利用する場合は、Power Throttringが発生する可能性があることを念頭に置いておくべきだろう。

さて、これが一般的に買いなのか?である。絶対性能(それもSingle Thread性能)がとにかく必要な人にはいいかもしれないが、Multi Threadで良ければいくらでも他に選択肢がある。あと、コアが2つ増えたことにメリットを見いだせるならいいかもしれないが、そうでなければ「Core i7-8700KとかをOverclockで良くね?」と筆者などは考えてしまう。あるいは、より安価で入手性の良いRyzen 7 2700XのOverclockでもいいかもしれない。

ここまでTDPを無視している製品だと、従来のIntel CPUほどの安定性とか寿命はおそらく期待できない。であれば、最初から安いCPUを購入してOverclock動作させて使っても実際大差ない気がする。そうした手間が面倒で、かつ現時点では入手性も悪くやや高価ではあるが、それを許容できるユーザーには、Core i9-9900Kは悪くないかもしれない。

そして、今回なんちゃって動作させたCore i7-9700Kだが、消費電力がけっこう下がっている分、こちらのほうが安心感がある。今回は16MB L3でのテストで、ところが実際の製品は12MB L3だから、実際のベンチマーク結果は今回ご紹介したものより若干下がるとは思うが、大きくは変わらないと思う。お値段も安く、個人的には「どっちを選ぶか?」と言われたらCore i7-9700Kを選びたい。

それにしても、ここまでなりふり構わない構成の製品をIntelが出してきたことには、けっこう不安を感じざるを得ない。なんというか、90nmでPrescottコアを作ったら爆熱でした、という時代を思い出すのだが、あのときはPentium Mという救世主がいた。今回のIntelの苦境を救ってくれる救世主は現れるのだろうか?