東京工業大学(東工大)は、ペロブスカイトに類似した構造を持つ物質「Cs3Cu2I5」が青色発光し、その量子効率が90%以上あることを見出したと発表した。
同成果は、同大 科学技術創成研究院の細野秀雄 教授と元素戦略研究センターの金正煥 助教らによるもの。詳細は、独科学誌「Advanced Materials」に速報としてオンライン版に2018年9月14日付で公開された。
電子と正孔を電極から注入して発光層で再結合させて光らせるLEDは、照明だけでなくディスプレイ用途でも急速に実用化が始まっている。これらは発光層に有機分子を用いているが、その材料自体の寿命や、水や酸素との反応による発光特性の劣化が問題となっている。この問題を解決するために、半導体量子ドットやペロブスカイト系の発光材料の研究が世界的に活性化しつつある。しかし発光効率の高い材料は有害なカドミニウムや鉛を含んでいることから、有毒元素フリーで発光効率が高くかつ安定な発光材料が求められていた。
今回、細野教授らは、有害な元素あるいは化学的に弱い有機物を含まない高効率な無機発光物質としてCs3Cu2I5(CCI325)に注目。同物質中の励起子の結合エネルギーが、室温の熱エネルギーの20倍に相当する500meVであること、単結晶だけでなく、薄膜も溶液から合成可能であることなどを確認した。
また、発光のピーク波長が430nm付近に存在し、強い青色発光を示すほか、発光の量子効率が単結晶で90%以上、溶液からスピンコートで作製した薄膜でも60%以上と高効率であることも確認したとする。
さらに、作製した薄膜を大気中に2か月間放置しても発光効率が低下しないこと、ならびに新たに開発した黄色発光体と組み合わせると白色発光すること、LEDとして動作できることなども確認したとのことで、今後、電子注入層と正孔注入層を最適化することで高い電流効率を得ることもできると考えられるとしている。
なお、研究グループでは、今回の研究を通じて、大気中でスピンコートするだけで形成できる実用的なLEDを製造できる可能性が高まったとする一方、実用かに向けて、どこまで高効率化を図れるかが今後の課題となると説明している。