格安SIMサービスの認知度は、どのくらい拡大しているのでしょうか? 各サービスのシェアの割合は? 大手キャリアから格安SIMサービスへの乗り換えを検討している一般消費者は、どのようなことに不安を感じているのでしょう? 今回、MMD研究所による「第7回MVNO勉強会」が開催されました。
■格安スマホ、シェアNo.1は?
MMD研究所の吉本浩司所長は、2018年3月の市場調査の結果を公表しました(回答数は44,541件)。それによれば、格安SIMサービスの認知度は89.8%まで上がっています。MVNOの利用者6,721名を対象にした調査では、データSIMの割合は34.7%で、音声SIMは65.3%。吉本氏は「音声SIMの契約者は、昨年比で11.5ポイント増えました。格安スマホをメインのスマホとして利用するユーザーが増えているようです」と分析します。
サブブランドを含むMVNOのシェアを調べると、上位から順に、ワイモバイル(27.4%)、楽天モバイル(19.0%)、mineo(10.4%)、IIJmio(BIC SIM)(7.2%)、OCNモバイルONE(7.0%)、UQ mobile(6.3%)といった結果になりました。ちなみに総合満足度のトップはmineoで、IIJmio、OCNモバイルONEと続きます。
MMD研究所では、大手3キャリア、サブブランド、MVNOの利用者に対して独自の意識調査を実施しました。大手3キャリアの利用者は、「スマホ依存度は高いが、契約などで複雑なことは考えたくない」、サブブランドの利用者は「利用料金は安くしたいが、契約でそこまで苦労したくない」、MVNOの利用者は「料金を安くするため、契約もいろいろ考えている」といった傾向が見られるとのこと。この結果を受けて、吉本氏は「今後、MVNOが新規顧客を獲得していくためには、契約プランをシンプルなものにする必要もありそう」と語ります。
■ドコモをやめた後のデメリットが怖い!
勉強会の後半は、MVNOの3事業者と、格安SIMサービスを検討中の消費者3名による座談会となりました。
月額利用料金は、妻と子どもを合わせて1万5千円ほど(端末の割賦代金は含まず)という松原さん。友人が使っている格安スマホに興味があるものの「ドコモ歴は20年以上。ドコモをやめたときのデメリットがありそうで怖いんです。いま検討しているMVNOにも、それなりのデメリットがあるんでしょう?」と。
auのiPhone 6を使いはじめてから3年が経つという小林さんは「au スマートパスを利用しています。やめてしまうとサービスが使えなくなりますが、どちらがお得か。いま判断が揺れています」と苦笑い。
すでに乗り換えの検討段階に入っているという冨岡さんは「ランニングコストを考えると格安SIMの方が経済的。自分でいろいろ調べるものの、まだ整理しきれていません。格安SIMの同僚は、昼の時間帯で通信速度の遅さに困っています。自分がスマホを使うタイミングは、通勤時間帯とお昼。料金が安くなっても、通信が遅いのであればストレスになるかと思う。メインキャリアのままがよいのでは、という気持ちもあります」と明かします。
通信速度については、3名とも懸念している様子でした。これについて、ケイ・オプティコム(mineo)の上田晃穂氏は「MVNOでは、どこのサービスも似たような通信速度になります。それを我慢できるレベルかどうか。私はmineoのサービスを使って昼休みにYouTubeも見ています。画質が悪い状態なら視聴できます。この遅さが我慢できないとしたら、格安SIMサービスは厳しいかも知れません」とコメントしました。
ビッグローブ(BIGLOBEモバイル)の松田康典氏は「通信帯域を広げてしまうとコストがかさみ、格安の料金で提供できなくなります。トレードオフの問題。弊社では限られた通信速度の中で、体感速度をいかに上げていけるかに取り組んでいます」と説明します。
イオンリテール(イオンモバイル)の井原龍二氏は「利用料金をどうしても下げたい、お昼のネット利用は我慢できる、という人なら使っていただけます。イオンが店頭でお客さまにすすめるときも、お昼の通信速度について確認しています。ランチのときはWi-Fiが使える場所に移動する、などしてもらえれば」と答えました。
三太郎の特典と天秤に
通信速度のほかに、どんなところが不安要素となりそうでしょうか。
松原さんは「ドコモのクレジットカードを使い続けてきました。それをどうすればよいか。もう通信だけの問題ではなくなっています」と。小林さんは「いまはApple Storeのアプリのほか、auのアプリも入れています。引き続き、使えるのであれば嬉しい。普段は三太郎の日にプレゼントなどの特典をもらっていますが、それ以上のメリットがあれば乗り換えます」とのこと。
冨岡さんは「友人はLINEモバイルに乗り換えるときに、10万円以上するiPhoneを購入したそうです。高額だと思いました。長い期間で考えたら、大手キャリアと大差がなくなるのでは。でも、最近オススメされたのがHuaweiのスマートフォンです。価格に見合った価値があるのなら、Androidに乗り換えてもよいと思っています」と話していました。
■最後は家族会議!?
携帯電話の会社を選ぶとき、普段は誰の意見を参考にしているのでしょう。松原さんは「友人の意見を参考にしつつ、自分で決めています。私がいちばん知りたいのは、利用者の本音。実際、使い勝手はどうなのかを聞きたい」と話します。
小林さんは「ネットの口コミを参考にしています。いくつか候補を絞ったら、あとは家族会議となります。機種変更も新規契約も、家族で同時に行いたいので、自分ひとりの意見は通らないんです。あとは生活圏に、サポートしてくれるお店があるかどうかも気にしています」と説得力たっぷり。
冨岡さんは「消費者のリアルな口コミが大事だと思っています。ネットで調べると、よいことしか書いていない記事も出てくる。でもダメなとこも含めて知ることができれば、現実味がわく。自分が使ったときの状況を想像できます。格安SIMサービスは、まだ使っている人がまわりに少なくて、情報も限られていて」と話していました。
■契約は店頭? ネット?
皆さん、契約はどこで? 松原さんは「ネットでもよいとは思っていますが、初めてのときは店頭でスタッフに色々と聞きたい。ネットの契約は、自分が何を契約したのか分からなくなりそうで不安です」と話します。小林さんも「絶対、店頭で契約します。あのとき、あのお店で契約した、だから分からないことを聞きに行こう、となる。分からないことはすぐに聞きたいし、すぐに回答が欲しい。ネットだとワンクッションを挟むため時間がかかります」と真剣です。
一方の冨岡さんは、「店頭で順番を待つのが嫌なので、ネットで契約したいです。人で混んでいるお店では、話も満足に聞けません。そこにストレスを感じます」と話していました。
このほか、「写真などのデータは移行できるのか」「LINEのトーク履歴は引き継げるのか」といった質問と、「息子が動画の視聴にパケットを消費してしまう」というお悩み相談も。手持ちのスマホに対応したSIMカードを挿せば、そのまま使い続けられること、エンタメフリーというオプションサービスが用意されていること、などが紹介されました。
記者席で感じたのは、事業者が想像する消費者のニーズと、実際の消費者のウォンツには、いくらかの隔たりがありそうだということ。今回の座談会は、事業者にとっても、消費者の声を聞くよい場となったことでしょう。