もしいま、そこそこ使えるお金があったら何を買いますか?「あれがほしい」「これを買おう」……。普段から多くのデジタル製品に触れ、ブツ欲があふれてそうなライター諸氏はどんな製品に興味をそそられるのでしょうか。想定金額は「サイコロの目×10万円」、予算内で夢と妄想を広げてもらいます。今回はUNIX系OSからスマートフォン、デジタル家電、電子書籍まで、幅広いジャンルで一家言もつ、ITコラムニストの海上忍さんです。


欲しいモノは山ほどありますが、サイコロで「2」が出たからには10万円台の製品を……ということで選んだのは、据置型ヘッドホンアンプ「TEAC UD-505」。2018年5月現在、量販店では15万円前後で売られていますから、条件としてはバッチリです。昨年秋に試聴して気に入ったことが選択の理由ですが、プライベートな音楽鑑賞用でありつつも、実は仕事で使う"測定器"としての役割を意識したチョイスでもあります。

【動画】音声が流れます、ご注意ください。

UD-505は、A4サイズの筐体に充実のオーディオ回路を詰め込んだハイCPモデルです。DACチップは旭化成エレクトロニクスのフラッグシップ「VERITA AK4497」を左右独立で2基搭載、それぞれモノラルモードで動作させるというこだわりよう。PCMは最大768kHz/32bit、DSD 22.5MHzのネイティブ再生と対応フォーマットも申し分ありません。出力のアナログ段にも、独自の電流伝送強化型バッファーアンプ「TEAC HCLD回路」を計4系統積むという充実ぶりで、価格帯にしてはかなり"濃い"構成といえます。

  • TEACのヘッドホンアンプ「UD-505」

筆者がUD-505を仕事用に選ぶ理由は、ひとつが2系統の標準ヘッドホン端子(6.3mm)にくわえ4.4mm端子を搭載していること。ポータブルオーディオ関連の仕事も多い筆者としては、昨年から急増している4.4ミリプラグ対応のヘッドホン/イヤホンを無視するわけにいきませんから、4.4mm端子装備のUD-505は試聴機としての条件を満たしています。

もうひとつは、スマートフォンやDAPからBluetooth経由で入力したオーディオ信号を測定できること。UD-505はSBCにくわえAAC、aptX、aptX HDにLDACと、Bluetooth/A2DCで利用される主要なコーデックを網羅しており、そのサンプリングレートを表示できるのです。実は、スマートフォンやDAPによっては再生時にダウンサンプリング(たとえば48kHz→44.1kHz)してしまうものがあり、その場合はダウンサンプリングの事実を踏まえたうえで試聴しなければなりません。UD-505はどのコーデックで再生しているか、サンプリングレートはいくつかがすぐにわかるので、その判定材料になります。

とはいえ仕事で使うものとなると、実際に動作確認してみないことには安心できません。以前試聴したことがあるので一応の実力は理解しているつもりですが、もう一度じっくり聴いてみたいですし、Bluetooth/A2DPのサンプリングレートが表示されるときの様子も見てみたいものです。筆者は音質上の理由で再生機器にPCを使うことは止めてしまい、もっぱらRaspberry Piなどのシングルボードコンピュータ(OSはLinux)を利用していますから、その動作確認も欠かせません。これは時間をかけて検証せねば……ということで、TEAC広報に事情を話ししばらく貸してもらうことにしました。

まずはヘッドホンを利用して試聴です。音源はUSBで接続した「TinkerBoard S」(写真手前のアルミケース「AVIOT CASE 01」に格納)、DSD 11.2MHzをDoPで入力しています。中高域のみならず低域の解像感もしっかり、俊敏なレスポンスと繊細な輪郭表現にしばし聴き入ってしまいました。今回は6.5mm/アンバランスでの試聴でしたから、フルバランス駆動にするともう1つ上のクラスの音を狙えそうです。

続いてはBluetooth/A2DPでの入力をテスト。aptX HD対応スマートフォンとUD-505をペアリングし、サンプリングレートを確認してみました。再生を始めると、ディスプレイには「aptX HD 48kHz → PCM 48kHz」と表示されたので、スマートフォン側で勝手にダウンサンプリングしていないことがわかります。ビット深度とビットレートも表示できればなおうれしいのですが、コーデックの種類とサンプリング周波数だけでも十分役立ちます。

  • TinkerBoard S(手前のアルミケースに格納)でDSD 11.2MHzを再生、USB/DoPでUD-505に入力したところ

  • DSD 11.2MHz(DoP)を再生中にTinkerBoard SにSSHでログイン、出力先デバイスの情報を確認したところ。USB DACとしてシステム(Linux)に認識されていることがわかります

ところで、UD-505には「NT-505」という兄弟機があります。DACチップ(VERITA AK4497)やPCM 768kHz/32bitとDSD 22.5MHz、BluetoothはaptX HD/LDAC対応など基本スペックはUD-505とほぼ共通ですが、NT-505はOpenHome対応機としてNASの音源を再生したり、SpotifyやTIDALといったストリーミングサービスに接続したりとネットワークプレーヤーとしての色合いが濃くなっています。筆者はヘッドホンリスニングを重視し、4.4mm端子装備/バランス接続対応のUD-505をチョイスしましたが(ネットワークプレーヤーとしての機能はRaspberry Pi/TinkerBoardがありますからね)、コンポとしての使い勝手を重視した場合NT-505を選ぶという手もアリでしょう。

選ぶといえば、ボディカラーをどうするか……UD-505とNT-505にはブラックとシルバーの2色があるので、迷いますね。設置場所にもよるのでしょうが、Raspberry Pi/TinkerBoardとの組み合わせでリビングに置くこと(コンパクトなので家族に文句を言われない)を考えたらシルバーかな、と考えています。

それより肝心なことが。TEAC広報氏によれば、UD-505とNT-505はともに売れ行き絶好調らしく、流通在庫が尽きそうなのです! 5月25日現在、公式オンラインストア「ティアックストア」には、無情にも「只今在庫切れです」の文字が。あちこち在庫を探すか、次回の入荷を待つか。「もしも...」企画ではありますが、真剣に悩んでしまうところです。

  • aptX HD対応のスマートフォンから入力しているときのサンプリングレートをチェック。しっかり上限の48kHzで再生されていることがわかります