Cypress Semiconductorの日本法人である日本サイプレスは3月15日、車載イベントレコーダやIndustry 4.0アプリケーションに向けたロギング用メモリとして「Excelon F-RAMファミリ」を発表した。実は同製品は2月に開催されたEmbedded World 2018に併せて、欧米では2月27日に発表されたものだが、今回本社のExectiveが来日するということで、日本ではこれに併せる形での発表になった。

説明会ではまずMichael Balow氏(Photo01)が簡単にBusiness Outlook(Photo02)と同社のフォーカスエリア(Photo03)、そしてそれに対するソリューションの展開(Photo04)を説明した。

  • CypressのMichael Balow氏

    Photo01:EVP, Worldwoide Sales and ApplicationsのMichael Balow氏

  • Cypressの主な決算数値

    Photo02:決算発表からの主要な数字のピックアップ。粗利益率や営業利益率など、さまざまな値がいずれも業界平均を超えているとしている

  • ここに画像の説明が入ります

    Photo03:コンシューマ/オートモーティブAutomotive/Industrialが同社のターゲット、という再確認。もっともIndustrialは結構範囲が広いのだが

  • Cypressの製品ラインアップ

    Photo04:同社の製品はBroadcom由来のWICEDを含むワイヤレス、それと有線、MCU、SRAM、それとSpansion由来のフラッシュメモリが主な製品ということになる

例えば自動車で言えば、別にすべてをカバーできるわけではないが、同社の展開するインスツルメントクラスタ向けマイコンやNORフラッシュなどではNo.1のポジションを堅持しており、これを維持するというのが基本方針である。ただここに無いもの、例えばインダストリアル関連のワイヤレスで言えば、今はWi-FiとBluetoothだが、今後は5GのNB-IoTなども当然ここに要求されることになる。これについては、「今はまだ動向を見ている最中だが、今後必要であれば対応してゆく」との事。「それはM&Aによって?」と確認すると「ありうる」という返事であった。

さて、本題であるFRAMの説明は、Sam Geha博士(Photo05)から行われた。

  • CypressのSam Geha博士

    Photo05:Corporate EVP, Memory Product DivisionのSam Geha博士

いわゆるディスクリートメモリのマーケット(もちろんDRAMはここでは除く)の概況を示したのがこちら(Photo06)で、今のところ伸びているのは産業機器、医療機器、車載の分野であり、その他の市場では横ばいか減少傾向にあるということで、同社はこの3つのセグメントに注力するとする。産業機器向けで言えば、主要なシーケンサの56%のシェアを同社は取っているとする(Photo07)。

  • メモリ市場としては、通信機器やコンピュータ、ストレージは減少傾向だが、それ以外は伸びている

    Photo06:通信機器が急速に減少しているのは、ちょっと興味深い

  • 多くのFA機器にCypressの製品が採用されている

    Photo07:もちろんシーケンサのメモリの全部、ではなくあくまでデータロギング用に限った話である

さて、産業機器用もそうだし、自動車向けもそうであるが、今回発表されたExcelonのニーズはデータロギングである。具体的に言えば、アクシデントが発生した直前の情報を格納する、というニーズに非常に適したものになる。例えば自動運転車同士が衝突した場合、何が問題だったか、の確認は欠かせない。ところが従来型のNANDやEEPROMなどを利用した場合、書き込み遅延の問題からは逃れられない。例えば事故があった瞬間に電源断が発生した場合、直前の0.8秒程度のデータが保存できない事が考えられる。

  • 事故などの直前のデータだけが保存できれば問題ないため、超高速・大容量のメモリは必要がない

    Photo08:逆に言えば、直前のデータだけが保存できれば事足りるので、容量的にはそれほど大きなものは要求されないし、書き込み速度もそれほど高い必要は無い(今回SPI/QSPIのみでHyperBus版が提供されないのはそういう理由)との話だった

これは産業機器も一緒で、例えば瞬停があった場合、直前の作業状態やパラメータなどが全部失われてしまうことになる。ところがFRAMの場合、書き込み遅延が0であり、かつ不揮発性なので、事故あるいは瞬停があっても、その直前の状態データをきちんと保存し続けることができる。車ならそのまま取り出して解析に使えるし、産業機器なら直前の状態からの復帰が可能になるわけだ。

こうしたイベントレコードに向けて、同社はExcelonシリーズFRAMを新たに投入した形になる(Photo09)。CypressはそもそもFRAM開発を手がけていたRamtronを2012年に買収しており、その意味では基本的にはRamtronのテクノロジーをそのまま持ち込んだ形であるが、実際には同じくRamtronのテクノロジーを利用した富士通のFRAMと比較しても、より書き換え回数を増やしたり(10兆回→100兆回)、消費電力を減らしたりしている(Photo10)。

  • Excelon F-RAMファミリの概要

    Photo09:まずは産業用と自動車用の2/4Mbit品で、年内に省電力向けのExcelon-LPが提供開始予定とされる

  • CypressのFRAMと競合他社製品の比較

    Photo10:富士通のものが、元々のRamtronベースのFRAMのスペックに近い

これはプロセスの改善が大きい模様だ。もともとRamtronや富士通のテクノロジは200mmウェハの180nmプロセスを利用していたが、CypressのExcelonはTIの130nmプロセスで、しかも300mmウェハを利用している。書き換え可能数の増加は、ウェハの200mm→300mmへの以降で、より新しい製造装置を利用できるようになったことが大きい、という話であった。

ちなみにTIはやはりFRAMベースのMSP430シリーズMCUを出荷しているが、これについてはTIとの間の契約が出来ており、ディスクリートFRAMはCypressが、MCU混載はTIがそれぞれ手がけ、その逆はお互いに手を出さないという事になっているそうだ。なので将来的にも、例えばFRAMベースのPSoCとかは登場しそうにないことになる。

ちなみに現在は130nmであるが、TIと共同で90nm/65nmに関しての検討は行っているという話であった。なので、もしこれが実現すればより大容量(32~64Mbit)のFRAMも登場する可能性がある。ただNANDと競合するつもりは全然無い、ということであくまでも最大で64Mbit程度までのマーケットを狙う、という話であった。