盛況のうちに幕を閉じたB.LEAGUEオールスター次世代型ライブビューイング「B.LIVE」。エンターテインメントとスポーツが融合した、新たな楽しみ方を提案できたのではないだろうか。特に、会場に搭載されたさまざまなテクノロジーには目を見張るものがあった。この先、ICTによってスポーツビジネスはどのように変化していくのだろう。B.LIVEをテクノロジー面で支えた富士通の担当者に話を聞いた。
「これまでのパブリックビューイングは、集まったファンが映像を見るだけという側面の強い観戦スタイル。一方で今回は、参加する・体感する・繋がるの3つをキーコンセプトとして、双方向で行える新しい観戦スタイルを実現しました。従来と大きく異なる点もあり、ファンに受け入れられるかどうか、かなり挑戦的な取り組みになったと思います」
そう話すのは、富士通 スポーツ・文化イベントビジネス推進本部 ビジネス企画・推進統括部 統括部長の小山英樹氏。それら3つのキーコンセプトを基に、今回のライブビューイングでは高圧縮・リアルタイムの映像伝送技術や、「Sound Intelligence」と呼ばれる音のAR技術が使われた。
「B.LEAGUEは2017年度が設立2シーズン目。初年度は代々木体育館で開催されたオールスターゲームですが、今年は熊本で開催することになりました。人口が多いこともあり、やはりファンは関東に集中しています。現地に行けないファンがオールスターに参加するためにはどうすればいいのか。導き出された解決策の1つがライブビューイングでした」
富士通 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 本部長代理 兼 スポーツ・文化イベントビジネス推進本部 VPの保田益男氏は、ライブビューイングを実施するに至った背景を教えてくれた。
AIに学習させることで演出の自動化を目指す
テクノロジーを駆使した演出で盛り上がりを見せたライブビューイングだったが、今後はどのような方向に進んでいくのだろうか。
「スポーツのエンタメ化を目指していきたいと考えています。音楽ライブとスポーツ観戦の中間のような存在ですね。ただ、新しい領域のため、さまざまなノウハウを蓄積しなければならない状態です。音楽ライブのほうが一歩進んでいるイメージですが、スポーツの場合は予定調和がないので、まだまだ多くのことを人の手で行わなければならず、その点が現状の課題ですね」(小山氏)
音楽のライブでは、すでにプログラミングによって光の演出を実行しているケースがほとんどだが、事前に演出スケジュールを決めることのできないスポーツでは大量の人的リソースを割かなければならない。特に、攻守の切り替えが激しく、それに合わせて音楽や演出を変えるバスケの場合、スピードに慣れている人でなければ対応できないという。
「音楽イベントなどはスケジュールが決まっているので、プログラムによって自動で演出を行うことが可能ですが、スポーツの場合は何が起こるかわかりません。そこで、今回のライブビューイングで音や光の調整について学習し、今後はAIが自動で調節できるように成長させていきたいと考えています」(保田氏)
筋書きのないスポーツでは、AIが演出自動化のカギを握る。チームや個人のプレイ内容をまとめたスタッツデータとカメラの映像をもとに、ディープラーニングによって、どのタイミングで盛り上げればいいのかを覚えさせていけば、将来的には自動でエフェクトや光の演出を行えるようになるという。
新たな収益機会を生み出す可能性も
また、今回のライブビューイングは、スポーツ産業におけるマネタイズ面にも大きな可能性を示した。
「今回オールスターのトライアルが成功し、ライブビューイングがシーズン中にも取り入れられるようになれば、大きな収益機会を手に入れることができるはずです」(保田氏)
通常、シーズン中の試合は年間60試合。半分の30試合がアウェイ会場で行われるため、チームがチケット収入を得られるのはホーム戦の30試合のみである。さらに、一般的に85%以上でほぼ満席状態になるという「収容率」は、1シーズン目ですでに約70%。収入源が飽和に近づきつつあるため、ホーム戦のチケット収入以外でマネタイズを考えていく必要があるのだ。
「もし、ライブビューイングが導入されれば、アウェイの試合が行われる同日同時刻に、ホーム会場やその周辺でライブビューイングを開催して、ファンを呼び込むことができるでしょう。もちろん、チームのニーズに合わないこともあると思いますが、今回のオールスターは、新たな観戦スタイルとして評価してもらういい機会になると思います」(小山氏)
今回はリーグが主催のイベントだったこともあり、ライブビューイングを実現できたが、シーズン戦の場合それぞれのチームが導入を決める。コスト以上の収益が見込めるかどうか、ビジネスとして成り立つかどうかも、今後検討していかなければならない課題だといえよう。
そしてもう1つ、気になる点として、今回のようなライブビューイングを、ほかのスポーツへ展開する予定はあるのか聞いてみた。
「ほかのスポーツへ展開する可能性はゼロではありませんが、まずはバスケットボール界を盛り上げていきたいと考えています」(保田氏)
「2020年のオリンピックや2023年の世界選手権に向けて、選手たちのレベルアップにも貢献していきたいですね。そして、バスケでしっかりと道筋をリードしていきながら、そのあとで、ほかの競技へと展開していきたいと考えています」(小山氏)
2人の言葉からはバスケ界を盛り上げたいという強い想いが伝わってきた。どんなに技術が進んでも、新たな波を起こすきっかけはいつだって熱意なのだろう。1シーズン目の開幕戦で行われた「LEDコート」をはじめ、チャレンジングな取り組みを続けるB.LEAGUE。ICTパートナーの富士通とともに、次はどんな新しい体験を提供してくれるのか。期待は膨らむばかりだ。