新体制化で注目すべきこと

こうした陣営形成は、日本のPCメーカー大手では初めてだといえるだろう。

富士通クライアントコンピューティングの齋藤邦彰社長は、この陣営の姿を自動車メーカーに例えてみせる。「たとえば、自動車メーカーのフォルクスワーゲングループでは、フォルクスワーゲンのほかに、アウディやポルシェといった異なるブランドも存在し、それぞれのカスタマベースを維持しながら、それぞれのカスタマに向けて、独自性の強いクルマを投入している。それと同じように、富士通の独自性を維持しながら、富士通が得意とするカスタマに向けて、富士通ならではの製品を投入していくことになる」と語る。

新体制がスタートするのは、2018年度第1四半期(2018年4~6月)の予定だ。2018年は、富士通クライアントコンピューティングの独自性がどれだけ維持されているのかを、まずは注視しておく必要があるだろう。

日本のPCメーカー過去・現在

だが、日本のPC事業の衰退ぶりは明白だ。かつての日本のPCメーカーは、世界で戦える規模を誇っていた。もしかしたら、読者の多くは、国内で圧倒的トップシェアを誇っていたNECが、日本最大のPCメーカーのポジションにいたと思っているかもしれないが、実は、日本最大のPCメーカーは東芝であった。一時期は年間2000万台規模のPC生産に乗り出し、全世界のノートPC市場を牽引していた。当時、NECの出荷台数は400万台規模であり、その差が大きいことがわかるだろう。

東芝はバイセル取引などにより、PC事業が不正会計の温床となり、事業そのものの縮小を余儀なくされ、過去の輝きはすでに失っている。

余談だが、NECはパッカードベルを買収した時点で、一時的に世界シェアナンバーワンになったことがあったが、これを達成した1996年当時の全世界の市場規模は約7000万台。約10%のシェアを獲得したが、1000万台規模には到達していなかった。

東芝に次いで大きな出荷台数を誇っていたのがソニーだ。ソニーは一時期、1000万台の出荷を目指しており、新興国などにも積極的に展開していた。だが、こうした積極策が利益縮小という形で裏目に出て、その後のPC事業売却につながる。

そして、3番手が富士通だ。同社も一時期は1000万台を目指していたが、日本および欧州では一定のシェアを確保したものの、北米市場での拡大につまづき、結局は1000万台の規模には到達しなかった。

現在、東芝は年間約180万台、ソニーはVAIOとなって、20万台規模にまで縮小。富士通も年間350万台規模となっている。世界トップシェアを争うレノボ、デル、ヒューレット・パッカードが6000万台規模のビジネスを行っていることに比較すると、日本のPCメーカーの競争力が落ち込んでいることは明白だ。好調といわれるパナソニックは、ようやく年間100万台を視野に入れようとしている段階だ。桁が違う規模でのビジネスを余儀なくされている。

PCは、共通的な部品を活用することが多く、とくに基幹部品となるCPUやOS、メモリなどは、調達価格にボリュームが大きく作用する。海外市場での競争力を失った日本のPCメーカーが、存続をかけて、海外メーカー傘下に入ったり、付加価値モデルにシフトしたりといったことでブランドと事業の生き残りに取り組んでいるのはそのためだ。