問題は、その「両方の選択肢」がない場合です。紙と電子が両方同じタイミングでリリースされるとは限らず、電子版は紙から数週間遅れというケースがよくあるのはご存知の通りです。これに関しては当初、どうしても我慢できなければ紙を買って自炊するか、もしくはあらためて電子で買い直す形を取っていました。

しかし最近は、この「紙と電子の発売時期をずらす」ことを、戦略として行っているケースも少なくないようです。出版不況云々に絡めて、紙と電子の発売時期をずらせばそれぞれで売上が立つのでありがたいと公言する、売る側の人達の声もちらほらと耳にします。

かつての「待っていても紙でしか出ない」時代に比べると、「遅れてでも電子で出る」ようになったことは望ましいとはいえ、発売時期をずらして売上を増やすのが電子出版のノウハウとしてもてはやされるのは、長い目で見てよいことだとは思いません。それゆえ、最近では「紙はスルーして電子を待つ」ことを原則とするようになりました。

電子版が出ない本は「断固買わない」

では、紙でしか出ない本についてはどうするか。これについても「あきらめて紙で買う」のではなく、「断固買わない」というマイルールを、2~3年前から徹底するようになりました。これもさきほどの考え方の延長線上で、あきらめて紙で買ってしまえば「電子を出さなくても紙だけ出せば最終的に読者は買う」という裏付けになりかねないからです。

そもそもの考え方として、新しいメディアが出てきた時に、その特徴と関係ないところで制限を設けて公正な競争の機会を奪うのは、個人的には好きではありません。もし「選択肢がひとつしかなければ読者はあきらめてそちらを買うだろう」という考え方が出版社の側にあるならば、一読者として反対の意志を示すことが重要ではないかなと思います。そのための「断固買わない」というわけです。

こうした方針を徹底したこともあり、かつては毎月大量に行っていた自炊も、現在ではほとんど行わなくなりました。いま裁断機でカットしてスキャンするものと言えば、旅行先で入手したパンフレットなど、冊子の形をとってはいるものの書籍ではない冊子のみです。