Appleは今年開催された世界開発者会議「WWDC」で、iOSアプリを通じてAR(拡張現実)体験を生み出すフレームワーク「ARKit」を発表した。WWDCの基調講演では、iOSデバイスの存在があることでARKitが一夜で「世界最大のARプラットフォームになる」とアピールしていたが、それが現実味を帯びつつある。

今回は、その「ARKit」を用いて開発されたという日本産のアプリ5本を紹介しよう。いずれも未来感溢れるものばかりだ。最新のiOS 11では、iPhone 6sシリーズ以降のiPhoneおよび、iPad Pro、第5世代iPadでARKitを用いたアプリを利用できるようになっている。もちろん、先頃発売となったiPhone XやiPhone 8シリーズでも楽しめる。

算数が苦手な子供もこれできっと好きになる?「算数忍者AR」

一本目は、ファンタムスティックが提供する「算数忍者AR」。ゲーム感覚で算数の勉強ができるというアプリだ。小学校低学年向けに作られており、平面をiPhone、iPadのカメラで捉えると、その場所に算数忍者の世界が現れる。

iPhoneとiPadに対応した算数忍者AR

カメラをあちこち動かして、忍者屋敷に隠れている問題の答えを探していくのだが、ぐるっと周囲を見渡さないと回答に辿り着けない。アタマを使いつつ、カラダも動かしつつという趣きで、iPhoneだったら、拡張現実の世界に没入して問題にあたれ、iPadだったら、大きな画面で親子一緒にワイワイ楽しめる。

任意の平面に広がる忍者屋敷

10問正解できると、ステージクリアとなって、ご褒美のカードがもらえる。カードは全部で40枚、学習しながら遊べるという体になっているので、子供たちも夢中になって、遊んで学べるはずだ。算数に興味が持てない、苦手意識があるという子にオススメだ。将来的には忍者屋敷の中に入り込んで答えを探すという機能を盛り込むことも構想されているという。ファンタムスティックは、教育系アプリに強いデベロッパだが、今後、他の教科でもARKitを導入したアプリの開発に着手するとのことだ。

部屋の広さを知りたいなら「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」にお任せ!

二本目は総合不動産情報アプリ「LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)」だ。住宅・不動産ポータルサイトの運営でお馴染みのLIFULLが手がけている。賃貸、購入問わず、好みの条件で物件を探せるというのはもちろんだが、これにARを利用したお部屋の計測機能が最新バージョンで加わった。

ライフルホームズのキャラクター「ホームズくん」が案内

このアプリはAndroid版も提供されているが、iPhone版のみの機能がいくつかある。「見学メモ」もその一つで、ここから「ARお部屋計測」機能が利用できる。名前の通り、部屋の広さを測れるというものだ。図りたい平面をタップしてマークしていくと、ライフルホームズのキャラクター「ホームズくん」が、その印をつけた空間を走り回って、床や壁の長さを教えてくれる。長い距離を走ると、ホームズくんがぜぇぜぇと息切れするリアクションを返してくれるのも面白い。

床や壁の長さをホームズくんが走って測ってくれる

見学してる間に撮影した写真と計測結果は、物件ごとに自動でフォルダ分けされる。また、物件や写真1枚1枚に特徴などのメモを添えられるようになっているから、複数の物件を見て回った後、じっくり検討するのに役立つ。使って楽しいというだけでなく、ちゃんと実用的な機能も備えているというところがポイントだ。

「RoomCo AR」で、もう家具選びの失敗はなくなる!

続いては、自分の部屋に購入を考えている家具をアプリ内で配置できる「RoomCo AR(ルムコエーアール)」を紹介しよう。アプリを提供するリビングスタイルは、家具とインテリアを楽しむための情報サイト「RoomCo NAVI」を運営している。

部屋の好きな場所に家具を置いてシミュレーションできる

家具を購入する際、失敗しやすいのは大きさと他のアイテムとの相性、実際に買って置いてみて、ああ……となったことがあるのは筆者だけではなかろう。また、今までだと、お店に行って、これ良いなというものを見つけたとして、そこでサイズを測って、帰宅して、大体こんな感じとシミュレーションして、また改めてお店を訪ねてという流れであったと思うが、このアプリを使えば、おおよその配置イメージが掴めるのだ。

気に入ったアイテムはそのまま購入可能

主要なメーカー・ブランドから3Dデータを提供してもらっていて、それらをアプリ内で配置、比較ができる。カタログには22ブランドから30万点を越える家具が収録されていて、色違いのアイテムがあれば、カラーコーディネートも含めたインテリアデザインが可能だ。加えて、気に入ったものがあればアプリ内から購入ができる。これまでのショッピングスタイルが変わってきそうな至れり尽くせりな機能に溢れたアプリなのである。

Best of 2016に選ばれた「Standland」もAR対応に

四本目は、マイナビニュースでも何度か紹介した女性二人組のデベロッパ、Flask LLPが提供する「Standland」だ。App Store Best of 2016を受賞している同アプリは、「立つ」のを促すというもの。Apple Watchの「アクティビティ」アプリにも座りすぎに注意を促す機能があるが、これも一時間に1回、立ち上がることでゴール達成となる。

メイン画面に浮かぶ雲に乗ったジェミーをタップするとARの世界に入り込める

WWDCで新技術が発表されると、Flaskではすぐにそれを取り入れたアプリの開発をスタートさせるそうだ。それで、新OSが発表されるタイミングで最新機能に対応したアプリをリリースするという。今回のStandlandもARKitが発表されるやいなやというスピード感だったらしい。Standlandですでに3Dのオブジェクトを扱っていたのに加えて、ARKitは「開発がしやすかった」とプログラマーの小川秀子さんとデザイナーの堀内敬子さんは打ち明けてくれた。ユーザーには使って楽しく、デベロッパには扱いやすくというのがARKitの「ならでは」なポイントなのかもしれない。

作ったARランドは写真やムービーで保存でき、SNSなどで共有できる

Standlandではメイン画面に浮かぶ雲に乗ったジェミーをタップするとARランドに入れる。ARランドではフレンドやジェミーのほか、花やキノコなどのオブジェクトを配置して自分だけのAR空間に入り浸ることができる。作ったARランドは写真やムービーで残すことができ、それらをSNSで共有することも可能だ。ハッシュタグ「#Standland」で検索すると、十人十色のARランドを見つけられる。ユーザーの生活の一部がちょっと覗けるところが面白い。

老舗のARお天気アプリ「アメミル」もARKitを導入

最後は島津ビジネスシステムズによるお天気アプリ「アメミル」をピックアップ。本アプリは、強い雨雲の接近を通知し、カメラを通して降雨情報を映像で表示できる。ARアプリとしての登場は早く、2013年の6月には最初のバージョンをリリースしている。

カメラを通して降雨情報を映像で表示する

当然、開発当初、ARKitは存在せず、自前でAR機能を実装することとなった。最新バージョンでもベースとなっているのはARKitではないとのことだが、日本全国の降雨状況を見られる新機能「サテライトアイ」は、ARKitをフィーチャーしたものになっている。開発に携わっている7人のメンバー全員(うち、5人は気象予報士!)が「ARKitは使いやすい」と声を揃えているということなので、今後は基礎の部分もARKitで、ということになるかもしれない。

新機能「サテライトアイ」では、ARKitをフィーチャー

ARKitだけでなく、アメミルでは、WWDC 2017で同時発表された械学習技術「Core ML」に対応。2万以上の降雨パターンと、気象予報士による解説を機械学習させて、AIモデルを構築したとのことで、雨が迫ると、画面で状況の報告がされる仕組みになっている。iOSの最新機能を体験するのに、是非、ダウンロードしておきたい一本だ。

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WWDCではApp Storeの大幅リニューアルもアナウンスされ、iOS 11のタイミングで、実行に移された。インターフェースがApple Musicのそれと近くなり、セレクションに「人の手が入ってる」のを感じさせるものへと変貌を遂げた。

新しくなったApp Store

画面下には「Today」「ゲーム」「App」「アップデート」「検索」の5つのタブを表示。「Today」をタップすると、編集を担当するグローバルチームがピックアップしたアプリを閲覧できる。ここでは、オリジナルの特集記事や開発者インタビューなども掲載されている。特にインタビューは、開発秘話など、ここでしか読めない裏話もあったりするので要チェックだ。

ここでしか読めないエピソードも

「ゲーム」「アプリ」はオススメの新作やアップデート、ランキング、コレクションなどを特集。App Storeの利用履歴を参照してレコメンドしてくれ、個人の趣味にあったアプリを簡単に探せるようになった。

プレビュー映像が最大で3本掲載

デベロッパからの回答も得られる

アプリ個別のページも大きく変わった。アプリのサンプルとなるスクリーンショットは5枚まで表示されるようになり、プレビュー映像が最大で3本掲載されている。評価やレビューの形式も改善され、例えば「アプリが落ちます」といったコメントを残すと、開発者から対応策が投稿されたりなど、ユーザーと開発者をより近付けるための工夫が施されている。App Storeが彼らの媒介となっているというイメージがますます強くなったという印象だ。

ARアプリもすでにカテゴリとして設置されているので、見つけやすくなっている。「見ていて楽しいお店」という柱となるコンセプトも明確化しており、国内外のユニークなアプリに触れられるようになったのもリニューアルの特徴となっている。iPhone、iPadを手にしたら、Appleのエディターのナビゲートのもと、広大なアプリの海に漕ぎ出してみては如何だろう?