日本の漁業を活性化していきたい

もともと原価率の高い回転寿司業界でも、スシローの原価率は一段と高い約50%前後と言われている。この原価率がネタの質に反映されている点が顧客に評価されているとも言えるが、天然魚プロジェクトはある意味、こうしたスシローの体質を最も如実に体現するようなものになるだろう。商品の単価こそ高めなものの、スシローが進めているコスト削減とは正反対な動きに見える。それではなぜ、スシローはこうしたプロジェクトを進めるのだろうか。

まずCSN地方創生ネットワークと資本業務提携した理由について、水留社長は、単に一過性のプロジェクトではなく、旬の国産の天然魚を提供することをスシローの事業の一部として継続的に行っていくという覚悟を示すためだと説明した。また、CSN地方創生ネットワークの事業を応援することで、全国の漁師や日本の漁業が活性化していく一助になれば、という言葉も飛び出した。

日本の漁業全体を活性化させたいと語るあきんどスシローの水留社長

現在、漁業関係は燃料費の高騰や漁業資源の減少に加え、深刻な従事者・後継者不足に悩まされている。このままで行けば近い将来、日本の漁業は大きく衰退してしまうことが考えられる。世界中から魚を集めている一方で、寿司という日本の文化を支えるべき国産の旬の魚を獲る漁師がいなくなってしまっては、本末転倒というべきだろう。そういう意味ではスシローの取り組みは、地方の漁師に金銭面でもメリットが生まれるものであり、文化の維持という意味でも大きな意義のある行為といえる。

もっとも、そういった社会貢献の側面もさることながら、より直接的な効果のほうが大きいだろう。すなわち、競合他社との差別化と、顧客単価の向上だ。各地の旬の天然魚がメニューに並ぶというのは、地域密着型の回転寿司チェーンにはしばしば見られるが、全国展開する100円回転寿司では、一部のキャンペーンメニューを除けばほとんど例がない。寿司には旬のネタが欠かせないだけに、少し割高であってもこうした商品があるスシローを選ぶ顧客は多いだろう。ライバル社に先駆けて、鮮魚流通の革命児と言われるCSN社をおさえたのは大いに意義があるわけだ。

スシローは第34期の売り上げ目標を1700億円、利益は100億円を目指すという。こうした目標の達成には、別記事で紹介した「スシローCafe部」のようなスイーツ・サイドメニュー系の展開に加え、天然魚プロジェクトは欠かせないキーパーツとなるはずだ。温暖化の影響などもあって各地で獲れる魚種の変異や不漁といった問題も聞かれるが、こうしたイレギュラーを乗り越え、どこまでスシロー躍進に貢献することができるか、注目したい。