測定不能

ペダリングモニターシステムのパワーメーター。反対側のクランクにもセンサーが取り付けられる

開発者の藤田氏らは、ラボバンクでテストしてもらおうと、半年間、さらなる磨きをかけるべく開発を進めた。そして、2011年7月、ベルギーに渡り、新たな試作品を渡した。

7月はツール・ド・フランスの開催月だ。もちろん、自転車界が最も注目するビッグレースに試作品がいきなり使われたわけではない。テスト使用したのは、ツール・ド・フランスには出場しない、ベルギーでキャンプをしていた若手選手たちだった。コーチは物珍しさからか、わざわざフランスからベルギーまで飛んで様子を見に来たほどだった。

以後、数名の選手を対象に、テスト使用が始まったが、そこからは悪戦苦闘が続いた。「出力の計測精度が低い」「壊れやすい」「ソフトウェアをもっと安定させられないか」と様々な注文がついた。改善の余地は大きく、2012年シーズンが始まるまでの半年間、再び開発を余儀なくされた。

改良を重ねた試作品。だが、それでも、プロの世界は厳しかった。シーズンが始まって2月、3月、4月のすべてのビッグレースでトラブルが発生。最も多いトラブルは浸水。洗車過程における溶剤の混入などもあるが、多くは衝撃によるひび割れが原因だった。

製品が受ける衝撃は想像を超えていた。そもそも、自動車はサスペンションがあり、衝撃を少なくできるが、ロードバイクにサスペンションはない。路面が荒れていれば、その分、受ける衝撃も大きくなる。ロードレースは舗装路を走るが、欧州の舗装路は日本ほど整備されていない場合も多い。そもそも舗装路ではなく、石畳の上を走ることさえある。「自動車用の試験機を使っていましたが、パワーメーターの試作機が受けたGは桁違い。数値は測定不能、値はMAXを示していました」(碓井氏)。

こうしてプロチームでのテスト使用が製品の完成度を上げるきっかけになった。過酷な使用環境での事例をもとに、製品を改良していく。その作業は今も同じく続いている。欧州に駐在員2名を置き、機材提供するワールドチームのデータを採取、それを製品づくりに役立てている。当初、藤田氏が描いた"壊れないパワーメーター"づくりに、嫌というほど向き合うことになったわけだ。

偶然は必然か

以後、2013年7月に一般向けのテスト販売が開始されるが、そこに辿り着くまでにあったのは、奇跡的な巡り合わせの連続だった。浅田氏にアドバイスを求めたことで、フォースベクトルという製品特徴が生まれた。展示会の出展で話題をつくり、試作品はいつしか海外までニュースが流れた。それにより、ワールドチームへの機材供給の道も開けた。

一連の出来事は"偶然"や"運"で片付けられてしまいがちだ。なぜなら、そこには再現性がないからだ。しかし、パイオニアの話を聞いていくと、この偶発性を求めていくことが必然ともいえるように思えてくる。そう思わせるだけの事実の積み重ねがパイオニアにはあったのだ。