2015年5月にプロ野球界初のハッカソンとして東京で開催されたイベント、「パッカソン」の第2回が、2017年3月4~5日に大阪市中央区のコワーキング&ファブスペース、The DECKで開催された。パッカソンとは、パ・リーグ+ハッカソンから付けられた名称だ(主催:パ・リーグウォーク実行委員会、パシフィックリーグマーケティング株式会社、株式会社スノウロビン)。

第2回パッカソンの会場となった大阪のThe DECK

ファンの歩数で勝敗を競うスマホアプリ

今回のパッカソンのテーマは、ゲーミフィケーションを活用したスマートフォン歩数計アプリの「パ・リーグウォーク」だ。これは「プロ野球(パ・リーグ)の応援を通じてファンの皆さまを健康にする」というコンセプトのもと、パ・リーグ6球団共同企画として開発されたアプリで、2016年シーズンからサービスが開始されている。

ユーザーは、アプリの利用開始時にパ・リーグ6球団のうち応援するチームを1つ決める。すると自分の歩数がそのチームを応援する歩数として加算される。シーズン中は、実際の野球の試合で対戦する両チームのファンの歩数の合計で勝敗を競う。個人としての日々の順位や歩数の累計などもわかる。本稿執筆の2017年3月上旬現在、ユーザー数は約35,000人だ。

パ・リーグウォークアプリのチーム対戦画面。図は2016年シーズンのもの

テーマはパ・リーグ × テクノロジー × ヘルスケア

パッカソンのお題は、このパ・リーグウォークアプリのAPIを活用して、ファンのヘルスケアに役立つサービスを作ること。審査基準は、ヘルスケアとしての「有効性」、多くの人が参加できる「数」、長く使い続けてもらえる「維持」の3要素で、それぞれの1文字目をとって「ユカイ」との説明があった。

サービスやプロダクトを作るために使えるAPIやガジェット類も多数用意された。The DECKに備えられているレーザーカッターなどのファブリケーション機材を使ったアイテム作りもできる。

住友電気工業株式会社と豊田産業株式会社が提供していたフルカラーレーザモジュール

IoTに利用できる5×3×1cmほどのブロック形状のセンサー「SONY MESH」

「気づいたらよく運動するようになっていることが重要」

初日は情報のインプットから始まった。

まず、パ・リーグウォークの推進・検証に協力しているソサエティアンドヘルスラボ(SHL、米ハーバード公衆衛生大学院イチロー・カワチ教授主宰)の鎌田真光博士によるキーノートだ。

運動不足は、喫煙、高血圧に次ぐ死亡の原因という調査がありサイレントキラーと呼ばれている。運動を増やすための行動規定要因として、一人ひとりの要因だけでなく、個人間の要因、物理的・社会的環境、政策的背景も必要である。健康のために運動する(してもらう)のではなくパ・リーグやパリーグウォークを楽しむことで気づいたらよく動くようになっていることが重要である。このように、開発のバックグラウンドや方向性として示唆に富む内容が具体的に楽しく語られた。

ソサエティアンドヘルスラボの鎌田真光氏によるキーノート

お笑いで盛り上がったら、いざワーク開始

次にスペシャルゲストとして、マラソンランナーや野球ファンとして知られるタレントの森脇健児氏と、テレビ番組で高校野球芸人として注目されるかみじょうたけし氏のトーク。過去から現在にわたるパ・リーグのディープな話で場を盛り上げる。

森脇健児氏とかみじょうたけし氏

この後、利用できるAPIやガジェットについて各社からの説明を経て、アイデア出し、チームビルディングへと進む。今回の参加者は関西在住者を中心に約30人。パ・リーグのチームのファンのほか、阪神ファンもいれば、特に野球好きではないがハッカソンで何かを作りたいという参加者もいる。

6チームに分かれて話し合いや制作作業にとりかかった後、夜にはチームごとのメンタリングで方向性の確認や修正、進捗状況などについて話し合い、初日のプログラムは終了となった。

初日からガジェットを使った開発を始めたチームもあ

励ましも厳しい指摘もあるメンタリング

2日目は朝ヨガからスタート!

会場に泊まり込んで開発を続けた人もいれば、早朝から来場した人もいる中、2日目のプログラムが始まった。

ヘルスケアをテーマに掲げるイベントにふさわしく、朝はヨガからスタート! 審査員の1人、ソサエティアンドヘルスラボ(SHL)の林英恵博士はヨガの指導者でもあるとのことで、パワーを高めるヨガ、緊張を落ち着かせるヨガなどを指導した。

みんなで朝ヨガ。体がほぐれて温まり、場の雰囲気がおだやかになる

グランプリはパ・リーグウォークアプリとの親和性が高いサービスに決定

チームでの制作の後、夕方にはチームごとのプレゼンテーションへと進んだ。審査員は林氏のほか、パシフィックリーグマーケティング株式会社 マーケティング室長の荒井勇気氏、同社 CTOの平山太朗氏の3名だ。

審査員の荒井氏、平山氏、林氏。一番左はオブザーバーの鎌田氏

歩数と応援の動きに応じてメガホンを光らせる、球場に行く道すがらにみんなでジャンプして運動量と連帯感を増す、応援とリズムを合わせて動きを採点するなどの成果が披露された中、SHL賞は街なかの看板などにあふれる「パ」の文字を集めるゲーム、準グランプリは親がエアピッチング、子がエアバッティングで家にいながらにして体を動かしながら遊んでポイントを貯めるゲームが選ばれた。そしてグランプリは、パ・リーグウォークアプリ上で好きな球団マスコットを選ぶと、歩数に応じてマスコットが着るユニフォームが増え、球場に行けばARを活用してさらにスペシャルアイテムをゲットできるゲームに決定した。

平山氏によれば、グランプリの受賞理由は、パ・リーグウォークアプリとの親和性が高いこと、ファンは既存のデバイスのみで楽しめること、前述の「ユカイ」の観点から見ると特に数と維持の面で有利と考えられることだという。また荒井氏は「どのチームも素晴らしく審査は難航しましたが、アイデアソンではなくハッカソンなので、形を作り上げたことを高く評価しました」と語った。

グランプリを受賞したチームのプレゼンテーション。球団マスコットの服が増えARも動作するデモアプリを完成させての熱演だった

インプットから制作、メンタリング、成果物と審査に至るまで「楽しみながら、気づいたら運動量が増えている」というストーリーが貫かれた2日間だった。サービスやプロダクトの開発者の視点だけでなく、アプリユーザーの視点からも、また健康に暮らすという生活者の視点からも、得ることや気づくことが多かった。 なお、このイベント開催時に荒井氏のインタビューもあわせて行った。パ・リーグ×ITと私たちの生活との関わりについて、ぜひお読みいただければと思う。