達成した喜びもひとしお

もちろん、魅力的な映画館を作るだけが策ではない。TOHOシネマズが2015年5月にヤフーから事業譲受した「ドリパス」(もとはブルームが2010年にスタート)もまた、映画好きから好評を博している。TOHOシネマズの担当者によれば、会員数は非公表ながら増加傾向にあり、特に映画ファンの20~40代男性が多いとのこと。

ドリパスとは、ユーザーのリクエストによって上映イベントを実現するためのサービス。リクエスト状況をさまざまな指標によってランキング化し、上位の作品から上映候補作品へ入る。上映イベントの準備が整い次第、チケットがオンラインで発売され、販売枚数が定員に達すれば晴れてイベント成立という仕組みだ。

この仕組みでうれしいのは映画ファンだけではない。運営しているTOHOシネマズにとってもメリットがある。「一定人数のチケット購入があって初めてイベントが成立するので、リスクヘッジとなります。そのほか、閑散期の集客にも寄与しています」(前出の担当者)。TOHOシネマズの収入は、チケット代金のほか、チケット1枚ごとに発生するシステム利用料。システム利用料は上映会場や時間帯によって異なるが、ドリパスの運営費用に当てられている。もちろん、映画館を訪れたユーザーが飲み物やポップコーン、グッズを購入すれば、TOHOシネマズにとってはさらにうれしい。

ドリパスのトップページ

作品にもよるが、コアなファン層を持つ作品はリピート率が高いという。たとえば、『花の詩女 ゴティックメード』は東京で4週連続の上映が決定。うち1回は東京・大阪・愛知・福岡で同時上映となる。ユーザーの「ドリパスイベントの満足度」という書き込みを見てみると、「何度でも行きたい最高の日になりました」など再上映を願う声が多数。熱いファンが集まっている。

ユーザーは観たい映画を劇場で鑑賞できる、運営側は少ないリスクでチケットを販売でき、映画を上映できる。ユーザーもTOHOシネマズも、みんなが幸せになれる仕組みがここにもあった。

ドリパスには「特別企画」も存在する。特別企画として販売されるのは、多くが持ち込みとのこと。宣伝費をそこまでかけられないといった事情がある作品を上映できないかどうか、試す場にもなっている。

付加価値の時代へ

DVDをレンタルするのでも、インターネットで動画を観るのでもなく、およそ2,000円支払って映画を観る。自宅よりも大きなスクリーン、優れた音響で鑑賞できるのはメリットにちがいないが、そこに価値を見出せるのがいわゆる映画ファンだ。

今回、シネマシティとドリパスの取り組みからわかったのは、映画ファンたちに「会員だからいつでも安く鑑賞できる」「あの好きな作品を映画館でもう一度観られる」といった価値を提供できるのがカギだということ。映画館には付加価値が求められるようになってきている。

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