2025年8月8日、G-SHOCKの最高級ブランドMR-Gから、最新モデル「MRG-B5000HT-1JR」が登場する。価格は935,000円(税込)で、世界でわずか500本の特別な限定品だ。ベースモデルは、G-SHOCKオリジンの意匠をMR-Gの流儀へと昇華した「MRG-B5000」。マルチバンド6対応電波ソーラーやモバイル連携機能など、機能や性能は同様である。
本作最大の特徴は、ベゼルやバンドなどの外装に施された鎚起(ついき)の鎚目(つちめ)。その緻密な手仕事とともに刻まれたストーリーとは……。カシオ計算機株式会社 時計事業部 商品企画部の石坂真吾氏に伺った。
鎚起は日本の伝統的な金属工芸の技法。薄い金属板を鎚(つち)で叩き、立体的な形を打ち出す鍛造技術のひとつで、花瓶や鍋、果ては武者の鎧まで幅広く使われてきた。それは一体成型の構造的な強さに加え、地金に加工硬化をもたらし、硬度や耐久性が向上するからである。なお、鎚起は、航空機や新幹線の車両の先頭部分などの製造にも利用されている。
また、金属を叩くことで付く「鎚目(つちめ)」と呼ばれる模様が特徴だ。鎚起モデルは今回が初めてではなく、『MRG-G1000HT-1AJR 鎚起』(2016年)と『MRG-G2000HT-1AJR 鎚起 霞鎚目(かすみつちめ)』(2017年)、『MRG-G2000HA-1AJR 鉄鐔 (てつつば)』(2018)でも使われていた。いずれも限定モデルで話題になったことから、覚えている方も多いだろう。
最初の鎚起モデル『MRG-G1000HT-1AJR 鎚起』の企画当時、商品企画の石坂氏は、本当に手仕事で鎚起を施そうとは、実は考えていなかったという。
石坂氏「ご存じのように、カシオはマスプロダクトの会社です。だから、この鎚目を手作業で一つひとつ入れていくという発想がありませんでした。それに『MRG-G1000HT』の限定数は世界で300本。この量を職人の方にひとつずつ手作業でお願いできるはずがないとも思っていました。
ところが、機械加工を試してみたところ、どうしても上手くいかない。機械加工だと鎚目が均一になり過ぎて、無表情になってしまうんですよね。そこで考えを変え、やはり鎚起の専門家(槌起師の三代目・浅野美芳氏)に依頼したのです。鎚起の世界では「並ばず乱れず」が極意とされ、機械では表現できない自然な風合いで、唯一無二の異なる表情を生み出します。その結果、機械加工のものとは比較にならない上質で趣のある仕上がりとなり、BASEL WAORLD(※1)での展示も非常に好評を得ました。
この経験から、私たちは『この路線もアリだ』という確信を得て、さらに広げていこうということになったのです。新しいことに挑戦するG-SHOCKの考え方や、日本のカルチャーを再発見して行こうとする姿勢が評価され、今のシリーズに繋がっています」
この鎚起表現の美しさは、最新作の『MRG-B5000HT-1JR』でも顕著だ。ベースモデルが「5000」シリーズの角形フォルムとなり、外装の面構成がシンプルで広いため、鎚目の風合いをより一層堪能することができる。
石坂氏「今回は、鎚起部分を鎚起職人の渡邉和也氏にお願いしました。渡邉さんの鎚目はダイナミックな力強さと同時にシャープな印象を与えます。それは単に叩いてでこぼこができているだけではなく、鎚目と鎚目の境界にシャープなエッジが立っているからです。このシャープな稜線があることで、荒々しい力強さとはまた違った『静かな強さ』という印象を与えているのです。」
まさに、機械加工では不可能な匠の技の極意である。そして、この「静かな強さ」は『MRG-B5000HT-1JR』のコンセプトでもある、と石坂氏はいう。
石坂氏「これまでの(鎚起シリーズで使用した)フルアナログモデル『MRG-G1000HT』や『MRG-G2000HT』は、G-SHOCKのラギッドなイメージを強調したモデルで、そのタフネスが外見に表れたデザインでした。一方、『MRG-B5000HT』は余計なものをそぎ落としたシンプルなデザインで、そのタフネスは内に秘めた強さといえます。
この内面的な強さというのは、世界の人々に共感を得ている『禅の精神』と通じるところがあると思っています。その禅の美意識を象徴する『石庭』をモチーフにして、『静かな強さ』を表現しようと思ったのです。つまり、鎚起はCMF(※2)の技法としてもコンセプトにマッチしていたのです。」
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禅の美意識「石庭」のイメージ画像。これに植栽の要素を加えたものを「枯山水」という
『MRG-B5000HT-1JR』の鎚起の美しさには、ベゼルとバンドの材質、製造法も関係している。
石坂氏「『MRG-B5000』シリーズのトップベゼルは、純チタンの約4倍の硬度を持つチタン合金『コバリオン』製。これはさすがに硬すぎて、鎚目を付けるのが困難です。そこで『MRG-B5000HT』では、トップベゼルを『コバリオン』に次ぐ硬さを持ちつつ、硬化処理を施す前は比較的柔らかい性質を持つ「チタン合金『DAT55G』に変更することで鎚起加工を可能にしました。硬化処理前は柔らかいとはいえ、それでも純チタンよりははるかに硬いので、かなり力を入れて打って頂いています。
また、鎚目が非常に小さいので、通常使っている金鎚では叩くことができず、先が細いタガネを使って鎚目を付けるのですが、『DAT55G』が硬いので、次第にタガネの頭が摩耗してきます。そのまま使い続けると鎚目の大きさや深さが変わってしまうので、頃合いを見て研ぎ直す、あるいはタガネを交換するなどしながら作業していただいています」
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ベゼルとバンドに、精度を保ちながら500本分の鎚目を打ち続ける……。渡邉氏の偉業と不屈のタフネスに拍手を送りたい!
さらに、ホコリやチッピング(金属片)の対策も必要だった。渡邉氏は、ベゼルとタガネを常に掃除しながら打たなければならなかったという。
石坂氏「たとえばホコリの上から打ってしまうと、それが転写されてしまうのです。1個の鎚目に傷がついただけでもそれまでの作業が無駄になってしまいますので、そこは細心の注意を払いました」
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ベゼルトップのエッジ、鎚目、G-SHOCKの彫刻、それらすべての精度が心地いい!
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ホーニング加工は、鎚目の光の反射にも影響を与える。ヘアラインなどの研磨も数多く試したが、これがもっともイメージに近かったという
ちなみに、『MRG-B5000HT-1JR』の外装パーツは、柔らかく霞がかかったような銀灰色で、これを「朧銀」(おぼろぎん)という。また、裏ぶたや本体ケースの色は「銅」(あかがね)というそうだ。春の季語「朧月」(おぼろづき)や寺社建築で用いられる「銅」(あか)の読みを思わせる、情景豊かな色表現である。
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外装の色「朧銀」と、裏ぶたと一部パーツの色「銅」(あかがね)。刀装具などにも使われる色だ
石坂氏「『朧銀』とは、銀と銅の合金に煮色仕上げを施したときに現れる銀灰色を指す言葉です。日本の金工技術で生まれた色と言葉の中には、日本ならではの感性が折り込まれています。
MR-Gは高額ラインを目指していますが、海外の歴史のあるブランドと比較するとまだまだ新参者なので、それらと渡り合うためには明確な個性が必要です。MR-Gは日本で作っているプロダクトなので、そこはやはり『日本らしさ』を大切にするべきだろうと。モノ作りはもちろん、コンセプトや使用する語彙の感覚も含めています」
カシオのパーツ加工の精度と石坂氏のビジョン、準備への配慮、そして渡邉氏の並々ならぬ技術と集中力。それらの結晶が「MRG-B5000HT-1JR」なのだ。
石坂氏「MR-Gはムーブメントの製造から製品組み立てまでを山形にある自社工場で行うメイドイン・ジャパンのプロダクトです。せっかく日本で作っているので、日本で開発された技術や日本のカルチャーを活かした、日本ならではのモノ作りをして行きたいと思っています。その意味で、MR-Gは日本の文化や技術と魅力を発信するメディアでもあると自負しています。今後の展開にもぜひ、ご期待ください。MR-Gのブランド価値ならではの革新的な時計表現を、今後も探求していきたいです」
※1 2018年までスイスのバーゼルで開催されていた、当時世界最大の時計見本市。
※2 Color(色)、Material(素材)、Finish(仕上げ)による表現を重視した製品開発。
[PR]提供:カシオ計算機株式会社







