逆風の中での釣り用品産業は?

これほど釣り人口が減ってしまうと、釣り産業に与える影響が気になるところだ。矢野経済研究所がリリースした「スポーツ用品市場に関する調査結果 2015」によると、2014年の釣り用品の国内市場は1,251億7,000万円の見込みだという。釣りブーム全盛期には3,000~3,500億円といわれた釣り用品市場は、実に1/3ほどまで縮小してしまったことになる。

こうした情勢の中、釣り産業で名の通った企業はどのように対処したのだろうか。まずはグローブライドについて。グローブライドという社名にあまり馴染がない方もいるかもしれないが、「ダイワ精工」といえば誰もが思いつくだろう。2009年よりグローブライドに社名変更した旧ダイワ精工は、釣り用品のグローバルブランド名に「ダイワ」をそのまま採用。そのためグローブライドという社名よりも、ダイワというブランド名に親しみを感じている釣り人のほうが多いのではないだろうか。

そのグローブライドの2015年3月期の売上高は約741億円。同社広報担当者によると、この売上高のうち8割強がフィッシングに関わるものだという。実に600億円以上をフィッシングで売り上げたことになり、まさに釣りが主力事業だ。

もう一方の釣り業界の雄、シマノの場合はどうだろうか。同社の2015年3月期の売上高は3,331億円で、そのうちフィッシング部門での売上高は588億円。売上高の大半はスポーツサイクルの部品で、2,739億円を占める。スポーツサイクルのコンポーネント(駆動部品やブレーキ部品)で世界的に圧倒的なシェアを誇り、コンピュータ業界でCPU・チップセット分野を寡占するインテルにちなみ、“サイクル界のインテル”とも呼ばれるほどだ。とはいえ、フィッシング部門は同社にとって第2の柱。釣り市場がどんどんシュリンクしていく情勢に気が気ではなかったはずだ。

ある釣り業界関係者は「一気に釣り需要が縮小した2000年代前半が各社にとってもっとも厳しかったと思います」と当時を振り返る。事実、グローブライドは1998年に売上高688億円だったが、2004年には474億円まで減少した。わずか5~6年で売上高が約7割まで減少したことは、企業にとって非常に痛手だ。何かしらの手を打たないと致命傷になりかねない。

この難局に対しグローブライドは、製品ラインナップの拡充から手を付けた。2003年にベトナムに工場を新設。それまでわりと高額な製品をメインに取り扱っていたが、普及価格帯の釣り用品の扱いを強めた。さらに海外展開も強化。北米、ヨーロッパ、アジア地域に積極的に進出し、国内釣り市場の縮小で生じた“穴”を埋めた。

だが、同社が徹底したのは釣り人に対する啓蒙や、ライフスタイルとしての釣りの提案といった施策だった。「国内の釣り人口の減少は我々も痛切に感じていました。テクノロジーを進化させてより魅力的な製品を提供することや、マーケティング強化によるダイワブランドの一層の浸透など、メーカー企業としての努力は当然怠りませんでした。加えて、釣り人そのものを育てるような取り組みを行わないといけないと考えたのです」(グローブライド広報担当者)。

釣り場のゴミ拾い活動を通しての啓蒙など、業界全体で取り組んだ施策もあれば、グローブライド単体で行った方策も多いという。例えば、同社は1976年から「DYFC」(DAIWA YOUNG FISHING CLUB」という、若年層向けの釣りクラブ活動を運営しているが、2005年からイベント数を増やすなどしてこの取り組みを強化。子どもやその親に対して釣りへの理解を深める活動を行った。また、クラブツーリズムやJTB、東海汽船といった旅行・運輸産業とコラボして釣りツアーを実施するなど、異業種との連携を積極的に行った。特に東海汽船との取り組みは、“島ガール”と呼ばれる女性の取り込みをねらったもの。子どもや女性といった釣りから縁遠い層へのPRに努めたのだ。そのほか、「釣り→魚料理」の観点からグルメ誌とコラボしたり、千葉県や神奈川県といった自治体と連携したりと他業界との取り組みを進めた。

子どもたちの釣りへの理解を深める「DYFC」(写真左)。東海汽船とのコラボで女性層に釣りをアピール(写真右)。(写真提供:グローブライド)

それ以外にも、新たな釣りジャンルの創生にも努めた。「餌木」(えぎ)と呼ばれる日本古来の疑似餌を使ったイカ漁をゲームフィッシング風にアレンジした「エギング」、ラバーで装飾されたルアーで鯛をねらう「タイラバ」など、新しいファン層を取り込むため施策も行ってきた。

「2000年代半ばからは、ライフスタイルとしての釣りを提案する施策やイベントを数多く手がけるようになりました。爆発的なフィッシングブームが起こっていた1990年代には、こうした取り組みは行っていませんでした」と、グローブライド広報担当者は振り返る。

前出の矢野経済研究所による「スポーツ用品市場に関する調査結果 2015」によれば、国内釣り市場の規模推移は、2011年に1,124億円、2012年に1,161億円、2013年に1,219億円、2014年に1,251億円(見込み)、2015年に1,293億円(予測)と、大震災のあとに徐々に回復基調にある。また、旺盛なインバウンド需要による高級釣り具の販売が好調との報告もある。余暇をいかに過ごすかという高齢者が今後増えること、東京都を流れる多摩川に代表されるように良質な釣り場環境が戻ってきていることなど、フィッシングをとりまく情勢に好材料が見え隠れする。今後、フィッシング市場が延伸するかどうかは、釣りを生業にする企業が、こうした好材料をいかに活用するかに関わってくるだろう。

移ろいゆく日本のレジャー産業

●急拡大するe-Sports市場 - 日本のゲームシーンは新たな興行を呼び起こすか?【後編】
●急拡大するe-Sports市場 - 日本のゲームシーンは新たな興行を呼び起こすか?【前編】
●進化を遂げる映画館、生き残りの策とは
●山ガールはどこに消えた? 高齢登山者の遭難増加! 1000万人が楽しむ登山の姿
●1990年代をピークに衰退してきた日本のスキー産業に再浮上はあるのか?
●かつて「潜在需要3,000万人」といわれた巨大レジャー産業……今、その姿は?