東京から北北西に進路を取り、列車に揺られること約1時間半。筆者はひとり、長野駅に降り立った。今回の目的は「北陸新幹線」の停車駅で、大手3キャリアの電波調査を行うこと。11月17日には、新駅「上越妙高駅」で、建設中の駅舎内を一般に公開する見学会が開催されるなど話題の北陸新幹線。開業前の停車駅では、どのような速度が出るだろうか。これは、おそらく業界一早い試みになるかもしれない。

北陸新幹線の停車駅で、電波調査してきた!!

同駅は2015年春開業に向けて順調に工事が進められており、見学会では、2階の改札口、コンコース部分、3階の新幹線ホームが公開された。12月2日には試験走行列車が同駅に停まり、歓迎セレモニーが開催される予定だ

北陸新幹線とは?

北陸新幹線は、東京と長野、富山、金沢といった都市を結ぶ整備新幹線だ。1997年に開業した「長野新幹線」は北陸新幹線が部分開業したもの。2015年春には運行区間が延伸し、長野駅から金沢駅まで(つまり東京駅から金沢駅まで)の運行が開始される。将来的には、福井を経由して大阪まで伸びる計画だという。運行体系に合わせて「かがやき」「はくたか」「つるぎ」「あさま」の4つの新幹線が投入される。

筆者が下手な絵を駆使して、北陸新幹線のルートを描いてみた(写真右)。東京と長野、富山、金沢といった都市を結び、将来は福井を経由して大阪に至る予定だ

そこで今回、長野駅(長野県)、飯山駅(長野県)、上越妙高駅(新潟県)、糸魚川駅(新潟県)、黒部宇奈月温泉駅(富山県)、富山駅(富山県)、新高岡駅(富山県)、金沢駅(石川県)の8駅においてNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクモバイルの3キャリアの通信速度を調べることにした。速度の計測には、3社が提供するiPhone 5cを利用。RBBが提供している専用アプリ「RBB TODAY SPEED TEST」を使い、それぞれの端末で3回ずつ計測、その平均値を実測値として本稿に掲載している。

長野でKDDI(au)が先勝

長野から先は、いくつものローカル線を乗り継がなくてはならない。通信速度を計測しながら全8駅を回ると、いったいどのくらいの時間がかかるのだろうか。ちょっと想像がつかない。少し不安になったが、考えていても仕方がない。まずは長野駅(長野県)で計測を開始した。すると、NTTドコモは下り24.03Mbps/ 上り9.89Mbps、KDDI(au)は下り28.32Mbps/ 上り8.06Mbps、ソフトバンクモバイルは下り17.50Mbps/ 上り13.47Mbpsという結果になった。

新幹線から降り立ち、駅前ですぐに計測を開始。初戦はKDDI(au)が勝利した

駅前からは善光寺行きのバスが出ており、思わず乗りたくなる。しかし過密日程が予想されるため、観光をしている暇はなさそうだ。それにしてもお腹が空いた。ということで、信州そば屋に入り昼食にする。食後、飯山駅(長野県)を目指す。

飯山駅は建設中

長野駅を出てしばらくすると、窓の外には農村の田園風景が広がる。水田に、りんご畑。背後には紅葉で色づいた山の姿が迫っている。野焼きをする人の姿があり、あたりに白煙が立ち込めている。線路脇にはススキの群生。この土地には、古き良き日本の姿がそのままの形で保存されているようだ。列車は、やがて千曲川に寄り添うように北進する。

JR飯山線に乗車。車窓には、長閑な田園風景が広がる

列車は千曲川沿いを北へ向かう

長野駅を出発してから1時間弱、飯山駅に到着した。新幹線の停まる駅舎は近くに建設中だった。早速、駅前で計測を開始。すると、NTTドコモは下り11.30Mbps/ 上り4.28Mbps、KDDI(au)は下り20.30Mbps/ 上り9.56Mbps、ソフトバンクモバイルは下り17.53Mbps/ 上り4.28Mbpsという結果。下り速度ではKDDI(au)の2連勝となった。

工事現場には「飯山から金沢へ、そして大阪まで!」という看板が立っており、新幹線開通に対する地元の期待の高さがうかがえる(写真左)

新幹線の停まる駅舎は現在建設中だった

上越妙高駅も建設中

飯山駅を後にして、次に向かうのは脇野田駅(新潟県)。この土地には、新幹線が停まる駅として新たに「上越妙高駅」を建設中だ。途中、豊野駅で信越本線に乗り換える。高校の下校時刻と重なったのだろうか、車内には多くの学生の姿があった。手にはスマホ、話題は部活のこと、それから受験のこと、異性のこと。一見、東京の高校生と変わりはない。彼らの姿を眺めていたら、学生時代の思い出がよみがえった。

豊野駅で乗り換えの列車を待つ。17時を前にして日が落ち(写真左)、脇野田駅に着く頃にはすっかり暗くなっていた(写真右)

上越妙高駅は、脇野田駅のすぐ背後に建設中だった。小雨の中、下車して建設中の駅舎近くへ向い、通信速度の計測を開始した。すると、NTTドコモは下り10.36Mbps/ 上り3.20Mbps、KDDI(au)は下り19.13Mbps/ 上り10.22Mbps、ソフトバンクモバイルは下り4.73Mbps/ 上り4.76Mbpsという結果。下り、上りともKDDI(au)の電波が強かった。

JR脇野田駅(写真左)の背後に建設中の上越妙高駅(写真右)

糸魚川でB級グルメを味わう

脇野田から、直江津へ。沿線には人家がないのだろう、列車は完全な暗闇の中をひた走っていた。窓明かりに線路沿いの残雪が照らされ、白い斑点のように見えている。車内は静まり返っており、うなりを上げるモーターと、カタンカタンゴトン、と定期的なリズムを刻む車輪の音ばかりが聞こえてくる。直江津から、JR北陸本線に乗り換える。このあたりを走る列車は、停車駅に着いても自動では扉が開かない。ボタンで扉を開けるタイプが主流で、区間によっては手動で開けるタイプもあった。

糸魚川駅(新潟県)に着く前、突然、車内の電気が暗くなる。これは無電区間(デッドセクション)と呼ばれる区間を通過するため。直流と交流を入れ換えているのだそうだ。無事、糸魚川駅に着くと計測を開始した。NTTドコモは下り2.56Mbps/ 上り0.42Mbps、KDDI(au)は下り26.23Mbps/ 上り7.59Mbps、ソフトバンクモバイルは下り10.51Mbps/ 上り2.95Mbpsという結果で、KDDI(au)の電波が圧倒的に強い。一方で、NTTドコモはLTEが入らず、3G回線になってしまった。

糸魚川駅前で計測。NTTドコモは3G回線でしか通信できなかった

糸魚川駅前はロータリーになっており、タクシーが何台か止まっている。時刻は20時。商店街はすでに営業時間を終えているようだった。この辺りでは、何が美味しいのだろうか。人気のない駅前で、たまたま通りがかった女性に聞いてみた。すると「お刺身などの海産物か、ご当地B級グルメのブラック焼きそば」が有名だという。なんだろう、その焼きそばは。

ご当地B級グルメのブラック焼きそばを注文してみた

紹介された地元の定食屋に入り、ブラック焼きそばを注文してみた。見た目は黒く焦げた焼きそば。イカスミのパスタほどには、こじゃれていない。イカリングや野菜なども入っており、味は海鮮焼きそばといったところだった。

通信の大切さが身にしみる

乗り換え駅の新魚津に着いたのは、22時すぎ。駅前は暗く閑散としており、時おり冷たい突風が吹きつけてくる。とにかく寒い。暖房器具のない駅の待合室で列車を待っていると、構内に電子音が流れた。ほどなくして、30両はあろうかという長い貨物列車が、轟音を響かせながらプラットホームを走り抜けていった。待ち時間に余裕があったので、新魚津駅で通信速度を計測してみることにした。すると、NTTドコモは下り8.84Mbps/ 上り3.11Mbps、KDDI(au)は下り37.46Mbps/ 上り9.39Mbps、ソフトバンクモバイルは下り2.77Mbps/ 上り7.76Mbpsという結果だった。これは記録には計上しない。

移動中に乗り換え駅を調べる筆者

今回、全く何の下調べもせずに旅に出た。そのため、移動中は乗り換え駅を調べる貴重な時間となった。地方では、電車の運行本数が少ない。ひとつの乗り換えミスが大きなタイムロスを生み、最悪の場合は先に進めなくなることも考えられる。したがって旅の道中、地図アプリと乗り換え案内アプリが命綱だった。そして、通信がしっかりと確保されていること、この有り難さが身にしみて分かった。23時すぎ、終電の1本前の電車で、ようやく宇奈月温泉駅(富山県)までたどり着いた。

宇奈月で怪我を負う

宇奈月は富山県随一の温泉郷である。そこで朝は早起きし、朝風呂を楽しんだ。朝食まで、まだ少し時間がありそうだ。上気した身体を冷ますべく、外を散歩することにした。朝の新鮮な冷気がとても心地良い。商店街には、そこかしこに「新幹線駅名決定、祝・黒部宇奈月温泉駅」の旗が立っている。そう、北陸新幹線開業に合わせて、新たにこの土地に黒部宇奈月温泉駅が誕生する予定なのだ。

宇奈月温泉駅と周辺の様子(写真左)。朝、渓谷を散歩した(写真右)。白鷺だろうか、白い鳥が獲物を狙うようにして川面を見つめていた

やがて、黒部峡谷鉄道の宇奈月駅にたどり着いた。渓谷を縫うように走る、いわゆるトロッコ電車の発着駅である。時間に余裕がないので乗ることはできない。鉄橋を走るトロッコ電車を写真に収めてから、ホテルに戻ることにした。

新山彦橋を渡るトロッコ電車

しかし帰ろうとした筆者の行く手に突然、2匹の野生の猿が立ちはだかった。狭い階段を登りきったところで、上からこちらを見下ろしている。かなり気が立っているようで、少しでも近付く素振りを見せると、歯をむき出して威嚇してくる。とても困った。階段の下でしばらく待ってみたが、全く動く様子を見せない。猿を驚かせるスマホのアプリがないものか、考えたりもした。しかし、そんなアプリは聞いたことがない。仕方ないので、雑草の生い茂る石垣のような断崖絶壁を無理矢理よじ登って回り道することにした。自分は朝から何をやっているのだろう。

階段で待ち構える、にっくき2匹の山猿(写真左)。筆者は左手を数か所擦りむき、靴も汚れてびしょ濡れになった(写真右)

その結果、靴は汚れ手も数か所を擦りむいた。情けない。ホテルに帰り、おとなしく朝食をとる。食堂にいた従業員に話を聞いたところ、この時期は山に食べるものがなくなってくるので、野生の猿が人里に下りてくるのだという。気も立っているわけだ。熊やイノシシじゃなかったのが、せめてもの救いだった。

その後、黒部宇奈月温泉駅が設置される富山県 黒部市若栗に。予定地付近の通信速度は、NTTドコモは下り54.93Mbps/ 上り11.39Mbps、KDDI(au)は下り43.69Mbps/ 上り8.45Mbps、ソフトバンクモバイルは下り3.41Mbps/ 上り1.28Mbpsという結果だった。50Mbpsを超えるダウンロード速度を記録したNTTドコモが、下りで初めて首位をとった。KDDI(au)も下り43.69Mbpsと充分な速度が出ていた。

富山城で一息

富山駅(富山県)へは、富山地方鉄道本線とJR北陸本線を乗り継ぐ1時間ちょっとの旅路である。列車の乗客は、筆者のほかにはニット帽を被った地元の高齢者が数名いるだけだった。2両編成のおもちゃみたいな電車が、静かな農村を走り抜けていく。柿がなっている農家の軒先に、干し柿が吊ってあるのが見えた。縁側で食べたら美味しそうだ。庭の一角に、墓がいくつも立っている民家があった。土地のご先祖が代々、そこに眠っているのだろうか。やがて、山頂に雪をたたえた勇壮な立山連峰が、遠くにその姿を現した。

単線をひた走る富山地方鉄道(写真左)。農村を抜けると、頂上に雪をたたえた立山連峰が見えてきた(写真右)

富山駅は大規模改修中だった。北陸新幹線の整備にあわせ、土地整理区画事業を行っているのだという。まずは、駅前で通信速度の計測を行った。すると、NTTドコモは下り60.77Mbps/ 上り10.34Mbps、KDDI(au)は下り24.21Mbps/ 上り9.96Mbps、ソフトバンクモバイルは下り14.93Mbps/ 上り13.15Mbpsという結果だった。直近の2地点の計測で、NTTドコモは50Mbpsを超える高成績を残している。

富山駅前で計測。富山駅周辺は整備事業を行っていた

富山駅から、城址大通りを南へ歩くこと約15分。富山城址公園にたどり着いた。ここは16世紀に築城された、富山城があった場所である。瀧廉太郎が「荒城の月」の作曲に際して、インスピレーションを受けた城としても知られている。現在は、昭和29年に建てられた模擬天守が街のランドマーク的な役割を担っているようだ。ちなみに魚津は魚津城が、これから向かう高岡は日本百名城のひとつとされる高岡城があった土地。北陸新幹線は城址巡りをする人、歴史好きの人にも人気の路線となりそうだ。

富山城址公園に建つ、富山城の模擬天守

前田利長公ゆかりの高岡

高岡駅(富山県)に着くと、天気雨。どしゃ降りの直後に晴れ間がのぞいたりと、天候がはっきりしない。駅から歩いて行ける場所に、加賀二代藩主前田利長公の菩提をとむらうために建立された国宝の瑞龍寺があるという。そこで、ちょっと立ち寄ってみることにした。

高岡山瑞龍寺。山門、仏殿、法堂が国宝に指定されている

瑞龍寺の近くには前田利長公の墓所もある。北陸新幹線が開通したら、お参りする人が増えることだろう。新高岡駅に向かう途中に見つけた自動販売機にも、前田利長公がデザイン化されたキャラクターが描かれていた。よく見ると「2015年春、北陸新幹線開業・さあ、新高岡駅から。」というポスターも確認できる。

前田利長公が、街のマスコットキャラクター的な存在になっている

新高岡駅は、高岡駅から歩くこと約30分の距離にある。駅舎は、まだ建設中だった。雨の降りしきる中、駅前で計測を開始。すると、NTTドコモは下り5.86Mbps/ 上り3.56Mbps、KDDI(au)は下り51.94Mbps/ 上り5.02Mbps、ソフトバンクモバイルは下り6.53Mbps/ 上り5.58Mbpsという結果だった。KDDI(au)が50Mbpsを超える下り速度を実現し、他キャリアを圧倒した。

JR城端線をまたぐようにして建設中の、新高岡駅。現在のJR高岡駅とは1.5kmほど離れている

最後の計測、まとめ

旅の終着駅である、金沢駅(石川県)にたどり着いたのは15時すぎのこと。天気は大荒れで、雷雨に時おりみぞれが交じっている。東口にある巨大なオブジェ、鼓門のあたりで計測してみたところ、NTTドコモは下り52.80Mbps/ 上り6.67Mbps、KDDI(au)は下り33.43Mbps/ 上り9.31Mbps、ソフトバンクモバイルは下り45.92Mbps/ 上り18.42Mbpsという結果だった。下りは3キャリアとも30Mbpsを超えており、各社が電波対策に力を入れていることがうかがえる。

金沢駅の東口にある巨大なオブジェ、鼓門のあたりで計測した

これで北陸新幹線8駅での通信速度の計測作業は全て終わった。お伝えしてきた通り、下りではNTTドコモの3勝、KDDI(au)の5勝、ソフトバンクモバイルの0勝、上りではNTTドコモの1勝、KDDI(au)の3勝、ソフトバンクモバイルの4勝という結果だった。KDDI(au)は、いずれの地点においても下り速度20Mbpsを確保しており、他キャリアに比べて通信が非常に安定している印象を受けた。NTTドコモは、対策をしている地点とそうでない地点の格差が激しかった。ソフトバンクモバイルは存在感を発揮できなかった。今回、結果を残せなかったキャリアは、北陸新幹線の開業までにどのくらい改善できるだろうか。今後そのあたりにも注目していきたい。

北陸新幹線8駅での通信速度の計測結果 ※拡大画像はこちら