というわけで、しんかい11000ができたらと考えて興奮した勢いでほぼ妄想の話を脳内からだだ漏れ的に書いてしまったが、次は現実にJAMSTECが所有するチャレンジャー海淵まで行って帰ってきた、つまり「底を見てきた」大深度小型無人探査機の「ABISMO」を紹介しよう。ABISMOは2005年から開発がスタートし、2007年に初めて大深度に潜航して9707mに到達し、2008年6月1~3日に3日連続で1万m以深の潜航を行い、最終日には1万350mに到達。その日は世界初となる大深度での堆積物の採取や、1万m以深の鉛直多点採水を行った記録を持つ。

この日はABISMOは分解整備中だったわけだが、こちらは撮影OKで見学させてもらえた(画像38~43)。個人的には、2009年にJAMSTECを取材した時にもビークル部のみは見させてもらっていたのだが、今回はランチャー部を初めて生で拝見(こちらも分解整備中)。整備用の台に載せられているということももあるが、ランチャー部はかなりかなり大柄で迫力がある(ビークル部は全長1.3m×全幅0.9m×全高1.1m・重量約350kgで、ランチャー部は全長3.3m×全幅2.0m×全高1.8m・重量約3.0t)。

画像38(左):ABISMOの通常時の外見(2009年に撮影したもの)。画像39(中):分解整備中のABISMOを正面から。画像40(右):分解整備中のABISMOを左側面から

画像41(左):ABISMOの内部メカをアップで撮影。画像42(中):ランチャーを右側面から。画像43(右):ランチャーの後部

このABISMO、深淵、地の底といった意味の英単語「アビス(abyss)」が音として含まれていて、まさに海の底まで行くのに作られたという感じだが、個人的に溜まらないのは、やはりクローラを備えているところだろう。海底面を時速5kmで進めるそうだ。戦車とは似ても似つかない、非戦闘的な形状をしているのはご覧の通りだが、記者の頭の中ではクローラがついているから海底戦車というイメージがついて回り、チャレンジャー海淵という海底の中の海底を移動するところを想像すると、もう萌える(笑)。

ちなみにJAMSTECの1万1000m級の潜水艇や探査機は、現在「かいこう」が事故で失われてしまったため、ABISMO以外はないのだが(厳密には、7000m級の「かいこう7000II」のランチャー部(画像44・45)はかいこうのものをそのまま転用しているので1万1000mまで行けるが)、ぜひ1万1000m級の有人潜水艇か探査機を開発してもらって、このABISMOがクローラを使ってチャレンジャー海淵の海底を進んでいるところを見てみたいものである。

画像44(左):かいこう7000IIのランチャー部。2009年に撮影したもので、その時も分解整備中だった。画像45:2009年の取材で整備棟の上部フロアから撮影したカット。左奥からハイパードルフィン、ABISMOのランチャー、かいこう7000IIのランチャー、右手前がかいこう7000IIのビークル

まぁ、7000mまでの海底ならほかの探査機がカバーできるので、ABISMOがクローラで移動する様子を見られるのだが、7000mも1万1000mも海底の様子はおそらくあまり変わらないとはいえ、やっぱり7000気圧に耐えての探査と、1万1000気圧に耐えての探査では、何か萌えるものが違うので(笑)、その内、ぜひ動画とか公開してもらいたいものだ。

ちなみにこのABISMOの画像の中で、ビークル部の上部に積まれている、木箱のようにも段ボール箱のようにもレンガのようにも見える物体(画像46)は、メカ的な感じがしなくて何なのか疑問に思われるかも知れないので一応触れておくと、浮力材である。浮力材は字的には浮かび上がるために必要なイメージだが、それとは少し違う。海中において自重と浮力が釣り合った「中正浮量」という状態で初めて推進器によって航走することができるのだが、大深度に潜る探査機などは頑丈に作るために重くなってしまい、探査機の浮力だけでは釣り合わないためにそれを調整するのに浮力材を使うというわけだ。

この浮力材は、多くの場合は微小な中空ガラスバルーンでできている「フィラー」の空隙を樹脂で充填して硬化させることで成型されている。ただし、1万1000m級の大深度になると非常に高い水圧に耐えなければならないため、ABISMO用に新規に開発されている。また、失われたかいこうで開発された以前の1万1000m級の高強度浮力材は、その後に主材料の製造中止などにより作れなくなってしまったため(その企業の職人さんが定年で退職して、主材料を作れる技術が失われてしまったのが製造中止の理由だそうである)、新たにABISMO建造の際に開発された。ABISMO用としては、高強度の中空ガラスバルーンと、強度を出すための高強度樹脂を新たに開発しているという。

画像46。浮力材。深海探査機にはみな搭載されており、バランスが取られている

そしてこの日はもう1機、深海巡行探査機「うらしま」も分解整備中で見学をさせてもらえた。うらしまは1998年に開発がスタートし、2000年から実際に海洋での試験がスタートし、2005年には推進800m、片道25kmという折り返しコースで、56時間・317kmという連続航走距離の世界記録を樹立した探査機である。

しかし、こちらは残念ながら撮影はNGだった。地球で最も深いところまで潜れるABISMOの方がOKで、3500mまでのうらしまがNGというところに、なんかうらしまのすごさを感じる。おそらく、ABISMOはROVなのに対して、うらしまはAUVということで、写真からでもいろいろとわかってしまう秘密があるのだろう(確かに敵対的な国家などが軍事用途に利用しようとしたら危険である)。

画像47。うらしま。JAMSTECはAUVの開発にも力を入れている。

そんなわけで、浦特任教授へのインタビューと、JAMSTECのミニ見学ツアーの様子をお届けした。水中ロボットは興味深いので、また次の機会にもぜひレポートしたいと思う。ぜひご期待いただきたい。