iPad miniに関する話題と、前述のApple株価下落に関する話題は、ある部分で相関関係にある。それは2013年以降にAppleが目指すべき市場と、そこで直面する困難を示唆している点だ。iPad miniはLTE対応の点で第4世代iPadと共通なものの、同製品が搭載しているRetinaディスプレイには対応せず、サイズも7.9インチと小型で価格も安い。もしiPad miniの販売が好調な理由が「持ち運びやすい7インチ台のサイズ」という点にあればいいが、「機能的にはiPadに劣るが安い」点が受け入れられたのだとしたら、Appleのプレミア戦略が崩れ始めている兆候だといえる。もしこうした傾向が今後iPhoneやMac製品にも波及するのだとすれば、Appleは「現在の価格を維持して安価な製品を求めるユーザーを切り捨てる」あるいは「低価格製品にもラインナップを広げて幅広いユーザーを獲得する」かの選択を求められることになる。

「先進国でのスマートフォン需要が飽和しつつある」という意見はここ最近特に聞かれるようになり、Appleもまた販売台数増に向けた動きを見せつつある。その1つがプリペイド専門キャリアでのiPhone販売で、主に低所得層獲得に向けた動きとみられている。世界における携帯市場はどちらかといえばプリペイドが主流だが、その中でも米国は日本と並んでポストペイドの比率が高く、プリペイドは「お金のない若者や低所得層」が中心顧客となっている。Appleが米国での販売台数を大きく伸ばしたいと考えるならばプリペイド市場開拓を避けて通れず、来年2013年からiPhone販売を開始するT-Mobile USAと、同社との合併を発表しているプリペイドキャリアのMetroPCS含め、米国の上位キャリアはほぼiPhoneの取り扱いを開始することとなる。

とはいえ、これらキャリアでのiPhoneの販売価格は500ドル台と高く、普通の端末で100ドル未満、スマートフォンでも200ドル強のプリペイド端末市場で、iPhoneの価格は突出している。販売推奨金が乗せられていないためだが、これで大きく受け入れられるとは考えられず、さらなる市場開拓にはiPhoneにおいても低価格端末が必要となる。これは米国外の新興国も同様で、例えば中国においては中国総通(China Unicom)に次いで中国電信(China Telecom)もiPhoneの取り扱いを開始しており、膨大な人口とユーザー抱える巨大市場でのシェア拡大を狙っている。だが中国市場でのAppleは苦戦が続いており、最新のデータでも市場シェアでは6位で、モバイルOS別のシェアではAndroidが9割を占めるなど大きな差をつけられている。原因は2つ考えられ、iPhone 5の市場投入タイミングの関係で買い控えが起きていること(中国での販売開始は12月中旬)、そして低価格端末のラインナップがないために台数でAndroidに大きく負けていることだ。実際、中国でのiPhone 5販売が開始された最初の週の販売台数は200万台超と好調なようで、タイミングの問題ということがわかる。一方で後者については大きな課題であり、もしAppleがさらなるシェア拡大を目指すのであれば避けて通れない問題となりつつある。

中国における端末メーカー上位はトップのSamsungを除けば、Lenovo、Coolpad、ZTE、Huaweiと地場メーカーが中核を占めており、ハイエンド端末各種をリリースする一方で、150ドル未満の低価格端末も多くラインナップし、幅広いユーザーをターゲットとしている。Appleはこうしたユーザーをキャッチアップできていない。以上を踏まえたうえで、一部で噂されている「iPhone 5S」について考察していこう。