iPhone 5に、第4世代とminiという2種類のiPad、MacBook Proに新型iMacと、今年の年末商戦を飾るAppleのラインナップは賑やかだ。その様子は米国でのApple Storeの様子を紹介したさまざまな記事の中でもうかがえる。iPhone 5の話題を除外すれば、今回目玉とみられていたのが発表されたばかりの2種類のiPadと新型iMacだ。新型iMacについては店頭在庫も非常に少なく、年末商戦を狙った販売台数の伸びはあまり期待できないとみられ、おそらくは最大の目玉はiPadになるとみられる。このiPadについて興味深いのは、iPad miniが全体に品薄なのに対し、第4世代のRetina iPadについては比較的入手が容易だという点だ。特にiPad miniのWi-Fi + Cellularモデルの人気は高く、日本では早くも全在庫が売り切れになる現象が見られたほか、米国でも筆者が確認した範囲でApple Storeでの在庫がほとんど復活せず、特にVerizon Wireless版の入手が非常に厳しい状況だった。iPad miniと第4世代iPadでもともとどの程度の在庫があったかが不明なため単純比較できないが、これらの情報を見る限りはiPad miniのほうが人気が高いと考えられる。

これはiPad miniが発表された当初から業界の間で議論が続いており、現在もなお意見が分かれている。最新のデータで興味深いものの1つはNPD DisplaySearchのDavid Hsieh氏が発表したもので、当初Apple側では年末商戦におけるiPad miniの需要を600万台程度と見積もっていたものの、急遽1200万台に倍増させたという。情報源からみて、これはディスプレイパネルを供給するサプライチェーン筋のデータだとみられるが、同氏によればiPad miniの販売は第4世代iPadよりも好調で、すでにペースで上回っているようだ。またApple Insiderによれば、Sterne AgeeのShaw Wu氏は第4世代iPadの販売は予想よりも低調で、結果としてiPad miniの好調が同デバイスのシェアを侵食しているというのだ。「タブレット市場におけるApple最大のライバルはApple」ともいえるが、いわゆる「共食い」(Cannibalization)現象であり、第4世代iPadで狙っていた市場の一部がiPad miniにシフトしたとみられる。

一方で「共食いの懸念は過大」だとする意見もある。Morgan StanleyとAlphaWiseが共同で実施したアンケート結果を受けてアナリストのKaty Huberty氏は「iPad miniの新規購入意向は9.7インチサイズのiPadよりも若干低く、むしろデータから新規ユーザー獲得のための鍵になっている」との見方を記している。サプライチェーン筋からの情報とユーザーへのアンケートという異なる情報ソースということもあるが、この違いは興味深い。後者の結果から1ついえるのは、「iPad miniがiPad全体のシェア拡大に貢献」という部分に対する考え方だ。これは来年2013年1月に発表されるAppleの四半期決算の結果を待たなければならないが、iPad全体の販売数がどれだけ伸びているかしだいだろう(現時点でAppleはiPadのモデル別の販売台数を公表していない)。iPad miniが出たことで新規需要を開拓し、そのぶんだけiPad全体の販売台数が伸びれば言うことがないが、実際には第4世代iPadの販売を侵食しているとみられ、その割合しだいではAppleの業績に大きな影響を及ぼす。

1つは売上の減少だ。これまでライバル製品よりも高い単価で販売できていたAppleのプレミア戦略だが、ユーザーが従来の9.7インチモデルからより安価なiPad miniへシフトしたとすれば、それだけ売上が減少することになる。Appleは販売価格の6割程度に部品原価(Bill of Materials: BOM)を抑え、そこから流通マージンを引いた分を利益として得ているとみられるが、IHS iSuppliの予測データでiPad mini Wi-Fi 16GBモデルのBOMが188ドル、同社が第3世代モデル時代に予測したiPad Wi-Fi 16GBモデルのBOMは306.05ドルであり、それぞれ329ドルと499ドルという販売価格から考えれば水準に収まっている(第4世代の同種のデータは出ていないので比較として第3世代のものを出している)。利益率自体に変化はないが、もし販売台数が同じで製品単価のみが下がったとすれば、それだけ粗利益は低下する。販売台数が伸びることである程度マイナス分は相殺できるとみられるが、以前のような驚異的な利益を維持することは難しくなっていくだろう。