ここまでやったのは「Mantaだから」

― そういえば、りゅうずの動きが従来のスマートアクセスとは少し変わりましたね。

岡本「ええ、りゅうずを回したときのクリック感が付きました。」

― それも、リューズスイッチが接触式であることに関係しているのですか?

岡本「スイッチが接触することでクリックを作っているわけではなく、板バネをはじく専用の機構を付けています。クリックがあった方が、ユーザーがより"回している"イメージを持てますよね。1回クリックがあったら針が1コマ動く方が、より時計的な感覚だろうと。

あと、りゅうずのプッシュ(押し込み操作)がなくなりました。今回はりゅうずで操作する機能がストップウオッチと時刻モードだけなので思い切ったのですが、結果、よりエレガントでスマートな操作になったと思います。」

― スペックを見ると、(フル充電時から)ソーラー発電なしの状態での駆動時間も長くなっていますね。これは消費電力を抑えているのですか?

岡本「そうです。OCW-S2000には針を独立して動かす5つのモーターが内蔵されていますが、従来機種では、このモーターの役割ごとに大きさの差がありました。一番大きいのは(最も動かす頻度が高い)秒針用で、これが一番消費電力が小さい。モーターが大きいということはコイルも大きいということですから、抵抗値が大きくなる。すると、消費電力は小さくて済むわけです。

ところが、スマートアクセスでは、りゅうずユニットを入れなければならないこともあって、モーターはできるだけ小さくしたい。りゅうずユニットを入れるには、モーターがもうひとつ入るくらいの容積が必要なんですよ。だから、モーターは小さくしたい。すると、コイルも小さいから消費電力は大きくなってしまう。」

5個所に配置された小さな金色のコイルがモーター。どうやって組み付けているのか想像できないほど小さい!

― でも、電力は下げたい。あちらを立てればこちらが立たずの板挟み状態ですね。

岡本「そうです。その解決策として、モーターが駆動する最小限の電流を流してみて、もし動かなかったら、電力を少しずつ上げていくという技術があります。これは女性向けの腕時計「SHEEN(シーン)」の3針デート用に開発した技術なのですが、この技術を応用して小型化しました。」

実際にそのモーターを見せていただいたが、本当に小さい。ここまでやったのは、やはり「フラッグシップであるMantaだから」のひとことだと岡本氏はいう。

こちらは「OCW-T1000」の文字板だが、メタルパーツをふんだんに使用した凝った文字板は、電力消費を抑える工夫の賜でもあるのだ

岡本「"時計としての価値をより上げるにはどうすればいいか"を考え抜いています。インデックスにメタルパーツを使ったり、凝ったマット調の文字板(OCW-S2000-1AJF)や白蝶貝の文字板(OCW-S2000PW-7AJF)にしたのもそのためです。

しかし、そのせいで文字板の面積が減ってしまう。つまり太陽光の受光部が狭く(小さく)なる。したがって電力消費も抑えなければならないわけですが、言い方を変えれば"中身"を突き詰めることで、腕時計としての見栄えや質感を上げることができるんですよね。時計の中と外が密接に関係している。それは、OCW-S2000を開発してみてすごく実感したことですね。」

OCW-S2000を構成するパーツ(枠線で囲まれたパーツについては表裏を展示している。実際に使われているのは各1パーツ)

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